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071 参観日
しおりを挟む海外の……、といってももとの世界の話ね。
全寮制の寄宿舎学校とかあるじゃない? めちゃくちゃ歴史やら格式やらがあって、いいとこの坊ちゃん嬢ちゃんが通うような。
中庭には青々とした芝がきちんと手入れされており、天気のいい日はここで級友らと語らうとか。
図書室なんてレベルを超えた、やばい魔法の本が眠ってそうな大図書館とか。
どこぞの宮殿かよ! とおもわずツッコミたくなるような校舎内の造りとか。
そして誰かとすれ違うたびに、にこりと微笑み軽く会釈にて「ごきげんよう」とか言っちゃう。
廊下の壁に「この浮かれ阿呆どもが! 走るな! はしゃぐな!」なんて無粋な文字が達筆にて躍る張り紙もない。かわりに飾られているのは芸術性の高い絵画だったり、花瓶だったり。
いま、わたしはそんな場所にお邪魔している。
ここはリスターナの主都にある学園。
いわゆる上流階級向けの学び舎。なお一般向けなのもあるにはあるが、寺子屋やら私塾に近い形態にて、あちらでは読み書き計算をひとしきり教えるだけだそうな。
教育環境的に恵まれているのは、もちろん圧倒的に上流階級向けの学び舎。
しかし皮肉なことに先の国難の最中にて、早々に休校を余儀なくされたそちらとちがい、市井に散らばる一般向けは、こっそりと営業を続けていたという。
一から十まで用意されて与えられるのが当たり前の連中と、せいぜい三ぐらいしか手元にないのを創意工夫で十までもっていく連中との差が浮き彫りになったわけだ。
まぁ、上流階級には一般とはちがい、その地位に必要不可欠な学ぶべきことがたんとある。だからいちがいに「華やかでいいよね」「恵まれていいよね」というものでもない。それ相応の苦行も強いられる。
ようは「隣の芝は青く見える」ということ。
で、そんなわたしに似つかわしくない場所にお邪魔している理由は、本日が参観日だからだ。
お目当てはもちろん復学して、がんばっているリリアちゃんの勇姿を眺めるためである。
この日のためにカメラもルーシーに頼んで用意した。事前に鬼メイドのアルバをモデルにして散々に試し撮りも重ねたので、いまのわたしに死角はない。気まぐれな風のいたずらによる不意のパンチラすらも、ばっちりカメラにおさめてみせようとも。
まぁ、本来ならば父親であるシルト王が来校するのが筋なのだが、なにせ彼は国の建て直しにいそがしい。加えてわたしが背中を押すどころか、ゲシゲシ蹴りまくっているから、そっち方面との微調整やらすり合わせやら、誤魔化しやら、隠蔽工作やらがたいへんなのだ。
何かを変える、何かを変革する、何かを発展させる、何かを始める。それも国家規模でとなると「はい、やりました。あとはご自由に」というわけにもいかない。せっかくステキな花を植えたところで、ちゃんとお世話をしてあげないと、すぐに枯れちゃうから。
というのが不参加の表向きの事情。
裏事情としては、王がじきじきにお出ましになるとか、けっこうな騒ぎになる。
そして美中年を前にして女教師陣が浮足立って、授業どころの話ではなくなる。
親御さんたちもざわざわ。これを機に王と懇意にとか考える輩から、やたらと化粧が濃くなるご婦人たちなど。
こうなるとアンタらいったい何を見に来たんだよ? となるわけで、せっかくはりきっている子どもたちがかわいそう。
そこでこのわたしが嬉々として代役を引き受けたというわけだ。
まえから見学に行ってみたいとおもっていたしね。
授業中にもかかわらずソワソワと後ろを気にするリリアちゃん。
教科書の影に隠れて後ろをチラっとのぞくリリアちゃん。
手をふると、小さく手をふり返すリリアちゃん。
それを女の先生にたしなめられて、ペロリと舌をのぞかせるリリアちゃん。
問題を当てられて、一生懸命に答えるリリアちゃん。
見事正解をして褒められ、照れてモジモジするリリアちゃん。
そしてこれらの貴重なメモリアルシーンをすべてカメラにおさめるわたし。
いまならばわかる。
運動会で我が子と並走して、カメラ片手に無茶をする親御さんたちの気持ちが。前夜から場所取りにいそしむ親御さんたちの気持ちが。
そんなわたしの隣ではビスクドールが同じくカメラ片手にパシャパシャ。
こちらの被写体は他の子どもさんたちだ。
わたしがカメラ片手にリリアちゃんの撮影に勤しんでいたら、周囲の親御さんたちが喰いついた。そして「ぜひ、うちの子の姿も」と願う。そんな親心につけこんで商売をはじめるルーシー。あとで個別にフォトブックにして、けっこうな値段で売りつけるそうだ。
あんまりパシャパシャとシャッター音がして、フラッシュをたきまくるものだから、女教師が文句を言いそうになるも、それは賄賂で黙らせた。
美中年の特製ブロマイド十枚セットを握らせたら、女教師はソレをそっと懐にしのばせた。
授業が終わり、休憩時間になるとリリアちゃんが、こちらに駆けてきて、そのまま抱きついてきた。
当たりが少し強くなっている。それだけ彼女も成長しているということ。それはたいへんよろこばしいことながらも、「そんなに急いで大きくならなくてもいいよ」と密かに願ってしまうのは、わたしのワガママであろうか。
あと、ふわっとした金髪がゆれると、あいかわらずいいニオイがする、クンクン。
若くして数々の功績を重ねている救国の聖女。
そんな風にも持ち上げられているリリアちゃんに抱きつかれて、デへへとだらしなく鼻の下をのばしている小娘。
わたしのことは、いまだに知る人ぞ知るといった具合にて、世間一般での認識は「王室に協力している、なんだかパッとしない見た目だけど、ちょっとは出来る女」といった程度。
だからこそ、この状況は見る者が見れば「おや?」となる光景。
しかしそれは大人の視点での話。これが子どもの視点に立つとどのように映るのかといえば……。
「ちょっと、そこのあなた! さっきからリリアさまに気安くベタベタと! 不敬でしょ! すぐに離れなさい」
栗毛のくるくるカールなお嬢さまから、猛烈なお叱りを受けた。
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