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081 ギリギリ国家
しおりを挟むロン・ガーナ青年を通じて、地下活動を主導していた国の重鎮の殿方たちと面会したわたしは、ノラ勇者リンネとして正式に主都に居座るタロウの排除の依頼を請け負う。
あくまで勇者同士の私闘ならば、他国は一切関与しないので、ハマナク国としても面倒がなくてすむから、わたしの登場は渡りに船。
そしてこの依頼の報酬に提示したのは、あること。
「ロンのヤツをリスターナのグラッセ家に婿にだすのですか? しかしガーナ家とグラッセ家との婚姻はすでに破棄されたと聞いてますが」とえらい人。
「あー、そのへんはどうとでもするから。いざとなったら知り合いに頼むし。で、どうかな、ロンさんとしては」
「……わかりました。この身ひとつですむのならば安いものです」
国への忠義とキャロさんへの愛。いろいろ複雑な感情を抱えつつも、ロンさん自身が了承してくれたので、ここに契約成立っと。
ちなみにいざとなったら頼る予定なのは、シルト王さまとかギャバナのライト王子ね。
このクラスから命じられて「お断りします」と言えたら、逆にグラッセ家を見直すかもしれない。けどふつうのお貴族さまならば、まず問題はなかろう。
そんなわけで、ちょっくら主都に行ってきます。
こちとら女なので、堂々と主都へ向かう。
途中、道ですれちがったおばあちゃんが「あんたみたいな若い子が、いま都にいっちゃあなんねえ。すぐに帰んな」と心配してくれた。
ふむ、さすがの外道タロウも推定年齢八十オーバーの老婆には手を出さなかったとみえる。だがこれはこれでちょっと腹が立つな。女はいくつになっても女なんだよ。相手を見て選り好みをしているから、てめえはモテないんだ。そんでもって魅了の瞳なんかで道を踏み外すんだよ。
そんな内心の怒りは億尾にも出さずに、老婆とはにこやかな感謝の笑みにて別れる。
「ところでリンネさま。どうしてわざわざロンさんの身柄をリスターナに望んだのですか?」
「あー、いろいろ意味はあるよ。例えば」
リリアちゃんの側に仕えるに相応しい騎士の確保。
マロンちゃんが大スキなお姉ちゃんと離ればなれにならなくてすむ。
キャロさんも遠い異国の地で苦労する必要がなくなる。なにより嫁姑問題から解放。
グラッセ家としては、いい跡継ぎが出来てひと安心。孫ができたら可愛がりし放題。
シルト王さま、有能な騎士を棚ぼたゲットだぜ。
将軍ゴードンさんの後継候補になれるかもしれない。
などなどと、つらつら理由を並べたのちに、わたしが最後に口にした理由は「でも一番の理由は、この国に未来がないからかなぁ」というものであった。
「はて、腐れ腰振り勇者が消えれば、もとの平和になるのでは」と首を傾げるルーシー。
「甘い、それは甘々だよ」わたしは即座に全力にて否定。
いかに魅了の瞳にて意に沿わぬ関係を強いられたとて、バンバンやったという事実は消えない。操られている間の記憶がどうなっているのかはわからないけれども、たぶん残っているんじゃないのかなぁ、とわたしは見ている。
さて、ここで問題です。
ある男が急に街中で包丁を振り回し、通行人を手あたり次第に襲うという、大惨事が起きました。
犯人はすぐに取り押さえられましたが、ここで彼はこう言いました。
「オレのせいじゃない。薬のせいなんだ。だからオレはわるくない」
実際に彼は重度の薬物中毒者でした。
よって法律上ではいろいろと恩恵が受けられます。
でも殺られた側は、それで納得ができますか? 「そうなのか。だったら仕方ないね」と許せますか?
「まぁ、これは極論だけどね。実際にはいろんな事情が個別に存在するだろうし、すべてをいっしょくたにするのは、さすがに乱暴がすぎるとわたしも思うよ。でも今回のハマナクのケースでは、まず間違いなく人間関係が破綻する」
「……なるほど。なまじ礼節と騎士の国、敬虔な聖クロア教信者が多いというのも裏目にでるというわけですか」
「そういうこと。口でいくら『気にしない」だの『お前はわるくない』だの言っても、それって沸騰寸前の鍋にフタをするようなモノ。じきに吹きこぼれるに決まってる。それにそう言われた方だって、『そうよね、全部、あの外道のせいよ。だからわたし悪くないもん』だなんて開き直れるわけもなく、善良な人ほどこの先ずっと罪の意識を抱えて、生きていくことになる。はっきり言って地獄だよ、この国の未来は」
そんなところにマロンちゃんの義理のお兄さんやらお姉ちゃんを置いておけるわけがない。
わたしがそう言葉を結ぶと、コクコクと青い目のお人形さんもうなづいて同意。
そうこうしているうちに主都に到着。
で、不信な人形連れの女の周囲をとりかこむ警備兵たち。
ものの見事に女だらけにて、とりあえず全員のケツを揉んで、手の平式スタンガンで、ビリビリしびれさせておく。
「はてさて、どれほどタロウの汚染被害が広がっていることやら」
「こうなるとスキルが『絶対防御』なのが、かえってよかったのかもしれませんよ、リンネさま」
「どういうこと?」
「だって、これでもしもスキルが『絶倫』とかだったら、いまごろ都中の女たちが、あらかた喰われてしまってますもの」
「おっふ、さすがにそいつはちょいと笑えない。とはいえ相手は『絶対防御』のスキル持ちか……。いちおうは自分なりに対策を考えたんだけど。ちょっと聞いてくれる?」
ビスクドールの耳に顔を近づけて、ごにょごにょ。
わたしのアイデアを聞き終えたルーシーは言った。
「よくもまぁ、そんな悪辣なことをおもいつきましたね。さすがです、リンネさま」
おいおい、そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか。
さて、お人形さんからお墨付きもいただいたことだし、待ってなタロウ。
あんたにはとびっきり悲惨な異世界物語のラストをお見舞いしてやるぜ。
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