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080 義理義理兄
しおりを挟むギャバナにてライト王子から、ハマナク国を襲っている異変について教えてもらったわたしは、彼が止めるのもきかずに現地へ飛んだ。
マコトくんがケガを負いながらも持ち帰った情報によって、ハマナクの勇者が「魅了の瞳」というギフトと「絶対防御」なるスキル持ちであることは判明している。
どうしてわかったのかというと、こっそり監視するだけのつもりだったのだが、目の前でまだあどけない少女が毒牙にかかりそうになっていたのを見て、マコトくんってばつい体が動いてしまったんだとか。
霞化と隠形にて、タロウとかいう外道勇者の背後をとり、手にしたナイフで一撃のもとにノド笛をかっ切ろうとしたという。
だが攻撃は見えない膜のようなモノに弾かれて、どうしても通らなかった。
困惑するマコトに得意げにタロウが話したそうな。「だれもボクを傷つけられない」と。
そうこうするうちに騒ぎが大きくなり、警護の者たちに周囲をかこまれ、なんとか少女を連れ出して逃げるも、名誉の負傷をしたと。
助け出された少女は、現在、ライト王子の息のかかった宿屋で秘密裡に保護されているそうな。
やるじゃん、マコト。あんた男だよ。
そうとわかっていれば、もっとやさしくお見舞いをしてあげていたのに。とりあえずもしもの時用にと撮影しておいた映像データは、ルーシーに命じて破棄してあげよう。
……それにしても、タロウとか言うヤツは相当なゲスだな。
少女を襲う際に魅了の瞳を使わなかったのも「たまには趣向をかえてイヤがる相手を」とか考えていたらしい。完全に下半身主体の気色のわるい生物にメタモルフォーゼしていやがる。
で、マコトくんの前に王子が動かしていた駐在員とか派遣された人たちなのだが、これがすべて女性であったという。この手の諜報活動は男よりも女の方が、とかく優秀ゆえにそれを重用していたのが、今回は仇になってしまった。ミイラとりがミイラ状態。
そしていちおうはわたしも女に分類されるがゆえに、ライト王子は心配したわけだ。
「おまえみたいなヤバイのが万が一にも敵の手におちたら、それこそ世界が滅亡するから、ちょと待てっ!」
なんて叫んでいたような気もするけど、きっと空耳だろう。アレは照れ隠しにちがいあるまい。彼の本心はこうだな。「おまえにもしものことがあったら、オレは……」
でもダメよ。あなたの気持ちにはこたえられない。だってわたしはサイボーグ乙女なのだから。
と妄想はこのぐらいにして「そこんところどうよ?」と念のためにわたしがたずねたら、青い目をしたお人形さんは「健康ですから、たぶんだいじょうぶでしょう」と安請け合い。
いざともなれば、脳みそをいじくるとまで言ってくれたから、安心だね。
ハマナクでは現在、人口密度にて逆転現象が発生している。
中央に行くほどに寂れて、外縁部に行くほどに過密。もっともそれは男たちに限った話ではあるが。
領内に到着次第、まずわたしが探したのはマロンちゃんのお姉さんと婚約関係にあったという、近衛騎士のロン・ガーナ青年。
安否確認と、婚約破棄の真意を問い質すため。
とはいえ、理由はもはや明白だけれどもねえ。
おそらく彼は大切な人を守るために、あえてあんな突っぱねるのような仕打ちをしたのだろう。
マロンちゃんのお姉ちゃんのキャロさんってば、けっこうな美人さんらしいので、ノコノコやってきたら、まっさきに外道勇者の餌食になってしまうもの。
リアル寝取られとかちっとも笑えない。わたしなら発狂するね。
かといって国の大事にかかわることなので、近衛騎士という立場上、とても正直に打ち明けるわけにはいかない。
勇者に国を乗っ取られた。
女たちを人質にされて手も足も出ません。
なんてバレたら、これさいわいと侵略に乗り出すところがあらわれるかもしれないし。
お忘れかもしれないが、ただいま第七十九次聖魔戦線の煽りを受けて、ノットガルドでは世界大戦の真っ最中だから。ウチの周辺はわりと穏やかだけれども、ちょいと離れたら、けっこうあちこちでドンパチ紛争やってるの。
ましてやリスターナもすこし前までドンパチする側だったし、そりゃあ用心されてもしようがない。ひょっとしたら家もしくは、もっと上からの指示だったとも考えられるね。
どちらにしろ想い合っている若い男女が引き裂かれるのは、見ていてあまり気持ちのいいものじゃない。なによりマイシスター二号の元気を取り戻してあげたいしね。それはお姉ちゃんの責務。
もっとも、たんにロンさんが心変わりしたとか、他に女が出来た、もしくは他に男が出来たとかだったら、わたしはスッパリとハマナクを見捨てるから。
「そこんところどうなの? キリキリ白状せよ」
同じ境遇の面々といっしょになって地下活動に精を出していた近衛騎士のロンさんを見つけ出し、とっちめたら、渋々こちらの期待通りのご解答。
「下手なことを手紙に書いたら、彼女はきっと心配して飛び出してくるとおもったんだ。だから……」
とっても辛そうなロンさん。
おやおや、ここにもいい男がいたねえ。苦悩する真摯な男の横顔もまたよし。
いかにジェンダーフリーだなんぞと声高に叫ばれる世の中になろうとも、女たるものやっぱりちょびっとぐらいは殿方に守られたいわけよ。
いいねえいいねえ、さすがはウチのマロンちゃんの義兄になろうとする男だけのことはある。合格花まるをあげちゃおう。
はっ! ちょっと待てよ。
ということは、彼はわたしの義理の義理の兄にもなるということか。
となれば身内に甘々、敵はぺしゃんこを信条とするわたしことリンネさんも、がぜん気合が入ろうというもの。
ふふふふ、ノットガルドに来てからこっち、ロクでなしばかりと遭遇してきたわたしだけれども、ここにきて急に男運がビンビン上昇している気がするよ。
ただ惜しむらくはご縁がまったくないことだな。
よかろう。ハマナクのピンチを救ってあげる。
ただし、ひとつだけ条件があるけどね。
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