95 / 298
095 ときには実の無い話を
しおりを挟むずんぐりむっくりとした中途半端な塔みたいなラグマタイトの主都。
正門から内部へと通じる長いトンネル。
そこを抜けた先に広がっていたのは、屋内にもかかわらず明るい空間。
なにやら人工太陽的な照明設備が天井に備え付けられており、外の日の出や日暮れと連動して明るくなったり、暗くなったりしているそうな。
主都は三階層プラス地下にて構成されており、王宮や役所などの公的機関は上の階層にまとまっており、一階がまるまる居住スペース、地下には水回りなどの施設が収まっており都民の生活を支えている。
居住フロアには木もいっぱい生えてるし、自然公園みたいな場所もあり、なにより空気もきれい。
まるでなんちゃらニュータウンオープン! とかいう不動産屋のパンレットの表紙のような整った街並み。
ケンカ用のおらおら魔導研究ばっかりしている国って聞いていたから、もっと、こう退廃的かつ工業的な、産業廃棄物垂れ流しにてナゾのガスがふよふよして、ノドや目が痛くなるような、腐った文明社会の末路っぽい世紀末な街角を想像していたのに……。
「えっ! オレたちのところって他所からそんな風にみられているの?」
わたしの口元より滴り落ちる妄想を耳にして、声をあげたのはラグマタイトの勇者の一人であるランカさん。
このオレっ娘、以前に競泳をしていたとかで、背が高めで肩幅もがっちりしている。茶色の短髪にてボーイッシュ、とっても健康美な人。
「まぁ、外からだと内部のコレはちょっと想像できないもの。ボクもはじめはふしぎだったし」
このボクっ娘も勇者の一人、名をユリさんという。
小柄な黒のセミロングにて、地味な顔立ち。総じて慎ましやかな印象を受けるも、なにやら妙にエロスな魅力を感じる。
隣の人妻とか向かいの大学生のお姉さんとか、こう、グッと劣情をかき立てる日常に潜む甘美な存在とでもいおうか。それを連想させる何かを秘めた人。
彼氏とかにはちょっと紹介したくないタイプだ。
もっとも、そんな素敵アイテムを装備したことのないわたしには関係ないけどね。
トラブルで席を外したジャニス女王の命によって、リスターナの使節団を宿泊先の屋敷まで案内警護してくれているラグマタイトの勇者八人。
女子二人を案内係に回して、残り六名の野郎どもは周囲をマジメに警戒中。
さて、この気安げな態度から、もうお分かりであろう。
初顔合わせの際の、当方との不幸なすれ違いはすでに解消されている。
誤解をといたのは、誤解をふりまいた張本人である青い目をしたお人形さん。
自ら事件を起こし、しゃしゃり出て解決をする悪辣迷探偵、登場!
ルーシーは小さな体にて身振り手振りをまじえながら、聞くも涙の物語を切々と語る。
お話の主人公は、もちろんわたしことアマノリンネ。
異世界転移にまつわる騒動から、賊たちとの出会いと別れ、こっちにきてからの破廉恥かつ奇天烈な出来事を一部脚色を交えながら、大筋はそのままにて聞かされた女勇者二人。
ときに目に涙を浮かべ、ときに憤り、ときに笑い、最後には鼻をクスンとさせながら、「リンネ、おまえ、たいへんだったんだな」「リンネちゃん、よくがんばったね。えらいわ」
同情はときに人を寛容にする。「だったら漁るのもしようがないよね」という、よくわからない納得のされ方にて、気がついたらわたしは新たに二人の知己を得ていた。
同世代ということもあり、一度打ち解けるとあとは早い。
ひさしぶりのガールズトークに華を咲かせているうちに、じきに目的地へと到着。
主都の中でもえらい人たちの区画にある立派な貴賓館。
どれくらい立派かというと、玄関ポーチが落ちてきたらぺちゃんこにされて、ちょっと助からないかなぁ、というぐらいの不安を感じる立派さだ。
リスターナの一行が屋敷に到着すると、ラグマタイトの勇者たちはランカとユリの女性陣と男二人だけを警護に残し、他はジャニス女王のところへと向かう。
シルト王たちは休む間もなく、随行員らとすぐに協議に入るために別室へ。
大人たちの会話に興味のないわたしは、警護は野郎どもに丸投げして女性陣を誘い、ほどよく装飾された豪華な客間にて、ソファーにふんぞり返りくつろぐことにする。
「ルーシー、みんなでお茶をしたいからアルバを呼んで」
わたしの要請でお人形さんが亜空間経由にて、たまさぶろうに乗艦していた鬼メイドを召喚。
多元群体化したルーシーたちは、全員が亜空間を自由に出入りができる。
つまりあっちとこっちに双方一体ずついれば、このようにパイプ役を果たす便利な使い方も可能。
幼き頃に誰もが一度は夢見て欲したであろう、あの憧れのアイテムに準ずるモノをわたしは手に入れたのだ。
アルバが淹れてくれた香り高い紅茶を優雅に飲み、銀のお盆に山盛りにされたひと口サイズのチョコレートに手をのばす。
うむ、ろくすっぽ使用されていない脳細胞が、甘いものを与えらえて池の鯉のごとく、ピチピチよろこんでおるわ。愛い愛い、ほぉれ、たんとお食べ。
そうだ! あとで一生懸命に頭をつかっているシルト王たちのところにも差し入れしてあげるとしよう。わたしは頑張る人はそこそこ応援する女なのだ。
そんな感じでまったりしていたら、ランカさんがおずおず言った。
「なぁ、リンネのところのメイド……、その、なんか、ちょっとデカくない? あとなんでチョコがあるの?」
「大きいのは魔族だからだね。あそこの連中ってば、だいたいこんな感じだし。それからチョコはガガガガの実で作った。美味しいよ」
正直に答えたら、ランカさんはアルバを見上げたまま、お口をあんぐり。
どうやら魔族という単語に引っかかったようだ。すごく驚いている。
おそらくはこれが世間一般の反応なのだろう。リスターナの連中の反応が薄すぎるのだ。
そんなランカさんを尻目に今度はユリさんが食い気味で会話に混ざる。
「魔族ってば世界の敵っぽい話だったけど、みんなこんなにステキなの? ボク、モロにストライクなんだけど」
ユリさんはひと目で、うちの色白鬼女がお気に召したらしい。瞳にありありとハートマークが浮かんでいる。
発覚するユリさん、ガチ百合乙女な事実。
もともと女子高育ちにて、そこで才能に開花したそうな。
なんら臆することなく、自身の恋愛観を堂々と熱く語るユリさん。
「女同士でイチャコラして何がわるい? 最高にして至高じゃないか! 愛犬家や愛猫家どもがペットにベロベロくんかくんかと変態ちっくな行為を強要しているよりも、よっぽど健全だよ。少なくともこっちはちゃんと互いの意志の疎通があってのことだからね。えっ、世間の目がうるさい? そんなつまらん目には、こうだ」
ピースサインで目つぶし動作をシュッシュと決める彼女は、とってもクールでカッコウいい。でもさすがに偏見が過ぎるので、とりあえずペット愛好家たちにはあやまったほうがいいと思う。
そんなユリさんの好みは、たくましくて凛々しいタイプ。
だからランカさんやジャニス女王も立派なお姉さま候補。そこにあらたにアルバも加わった。
「どうしよう、ボクは魔族領を目指すべきなのだろうか。それともリスタ―ナに亡命……」
真剣に悩みだしたところ恐縮なのだが、魔族も玉石混合にて、みんながみんなステキなわけではないことを告げて、とりあえず早まった行動は控えるようにと釘をさしておく。
話しついでにランカさんの恋愛観なんかも聞き出すことにする。
なんといっても女子会といえばコイバナだからね。
「オレか? うーん、いまのところ男は眺めているだけでいいかなぁ」
一見するといかにも「まだ恋愛に興味がない」ともとれる発言だが、よくよく話を聞いてみればちがった。
オレっ娘ランカさん、実はけっこうな腐女子であることが判明。
なにせずっと競泳をしていたもので、身近にはムキムキの若い男が選りどり見どり状態。
でもプールでの練習ってば、たいていは男女に別れるよね。
つまり男は男同士で固まって、女は女同士で固まる機会が多い。
すると互いの視線の先にあるのは、モホモホしたウホウホな姿か、白百合たちが集う麗しい姿となるわけ。
幼少期より水泳に励んでいたランカさん。その視線の先には、いっつもそんなパラダイスが広がっていた。心身が成長していくとともに投入される知識にて、そちら方面の見識を深めていった彼女は、男の集団とはそういうモノとの誤った認識を身に着ける。
もちろん、それもまた成長とともに修正されてはいったのだが、こと性の目覚めに関しては、ファーストインパクトの影響がモロにでる。
好み、フェチ、マニア、性癖……、言い方はいろいろとあるけれど。
きっかけは、過去に経験した些細なことである場合が極めて多いという。
よってランカさんの現状もまた、なんらおかしなことではない。なるべくして腐女子になっただけのこと。
こんな阿呆な会話をわりと真顔でしていたら、青い目をしたお人形さんがタメ息まじりに言いました。
「なんという実のない話」
11
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる