111 / 298
111 地上での戦い
しおりを挟む「キシャー」
地上にて吠えて暴れていたのは、一頭の飛竜。
空の相棒として人気のある飛竜だが、見た目は小型のドラゴンにて、体長も五メートルを超える。魔法と物理耐性も高く、全身が筋肉の塊のような構造にて、たとえ地上に降りたとて、その脅威は健在。
轟! うなる尾の一撃をひょいとかわし、やや短めな前足の鋭いカギ爪をも避けて近づく。そんな相手を噛み砕こうと迫る大きなアギト。
その側頭部に右の拳をめり込ましたのは、鬼メイドのアルバ。
ひらりと長いスカートの裾が舞う。
たったの一撃にて、飛竜は白目をむいて、どぅと倒れた。
己の拳をふしぎそうに見つめるアルバ。
なにせ飛竜と言えば、たとえ魔族の猛者とて武器を手に最低でも三人が徒党を組んで当たるのが定石とされているような存在。いかに乗り手が不在、場所も地上にて、ビリビリ光線やバブル弾の影響でやや酩酊状態にあるとはいえ、とても素手で殴って倒せるような相手ではなかったはずだ。
ご主人さまより「生け捕りで」との命が下り、「えー」と内心ではちょっと途方に暮れていたアルバではあったが、そんな彼女につき従っていたオービタル・ロードたちは「だいじょうぶだから、やってみな」と拳での戦闘を提案。
勧められるままにやってみると、なんだか、あっさり倒せた。
富士丸の亜空間内にて、ずっとオービタルたちに混じって訓練に励んでいたアルバ。
しかもルーシーやグランディアたちから差し入れられた怪しげなドリンク類を、何の疑いもなくグビグビ飲み続けていた結実が、コレである。
「あれ、ひょっとして自分ってば、けっこう強くなってる?」
周囲があまりにも異常すぎて、我が身に起きた変化やら成長をまったく実感できていなかったアルバは、おおいに驚いた。
やんやと拍手をおくるオービタルたち。彼らにしてみれば一番末っ子の妹弟子が成長した姿を披露したようなもの。
そんな調子にて暴れる飛竜や抵抗するドラゴンをぶちのめしていくアルバたちを尻目に、ゴードン将軍率いるリスターナ軍の面々は、せっせと捕虜の荷造りに忙しい。
なにせ数が膨大にて、装備類を引っぺがし、縛りあげて拘束するだけでもひと苦労。
しかもボタボタと次から次へと上から落ちてくる。かといって後々の絡みもあるのであまり粗略に扱うわけにはいかない。
ちっとも終わりの見えない作業に辟易しつつ、ある兵士が言った。
「ゴードンさま、オレ、魔族があんなに強いってちっとも知りませんでした。ずっと北の聖魔戦線であんな連中を相手にしているとか、連合軍ってすごいんですねえ」
鬼メイドのアルバがリスターナ国にいる唯一の魔族。
それゆえに魔族イコール鬼女の図式が成り立つ。
だが彼は知らない。いまのアルバのチカラが準魔王級であるということを。これにLGブランドの得物を手にしたら、魔王を名乗ってもちっともおかしくない実力に相当するということを。そして主人であるリンネも知らない。いつの間にか自分のメイドが、ちがう意味でのスーパーなメイドになっていたことを。
こうしてまたひとつ辺境の小国リスターナに誤った知識が根付いていく。
それがわかっていても「あれは例外だ」と訂正しないゴードン将軍。こっちはこっちでちょいと気もそぞろ。
なにせ出がけに新妻と義理の息子に「お前たちの平和はワシが必ず守る」と勇ましく大見栄を切って出陣したというのに、フタを開けてみればコレである。
予定では張り子の虎作戦にて空からぼとぼと落ちてくるカーボランダム勢を、片っ端から愛用の大剣にて懲らしめるハズだったのだが、抵抗はほとんどなし。
なにせ素手で飛竜やドラゴンを倒す鬼女が暴れているもので。
おかげで仕事は楽だけれども、このままでは将軍としての威厳が保てぬ。
あと兵士どもにも示しがつかない。
なによりユーリスとモランにいいカッコウができない。
新しくできた可愛らしい息子から「さすがですお父さん」と羨望の眼差しを向けてもらえない。
新しくできた愛らしい女房から「さすがです、あなた」と尊敬と愛情のこもった目を向けてもらえない。
ついにこらえきれなくなった老将軍。周囲の制止をふりきって、愛用の大剣を抜くと残りわずかとなっていた飛竜の一頭へと単身突撃。
だが先にも述べたとおり、飛竜はけっして弱くはない。
横殴りの尾の一撃を出会いがしらに喰らって、ゴードンの身が派手に吹っ飛ぶ。
しかしケロリとしてすぐに立ち上がった。なぜなら彼の装備品はすべてLGブランドにて固められていたから。ユーリスとの結婚祝いに贈られた一式は特注品にてとっても頑強だった。
人間種族でありながら限りなく魔族っぽい体躯のゴードン将軍。雄叫びをあげながら「どんどんかかってこいや!」と弾ける。
「キシャー」と飛竜が吠えれば、負けじとゴードンも「くたばれ!」と叫ぶ。
尾っぽと大剣にて正面からガンガン殴り合う両者。
「高級品なんだから、殺しちゃマズいですってば」止めようとする部下たちの声は無視。ここぞとばかりに年寄りの特権を行使する老将軍。
そして呆れる周囲をよそに、ついにアゴ下へと強烈なかちあげの一撃を決めて、飛竜をノックアウトしたゴードン将軍が、「おっしゃー!」と勝ちどきをあげた。
11
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる