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113 ちくちくりん
しおりを挟む戦後交渉を半ば強引にその日のうちにやっつけて、ギャバナとカーボランダムの面々には早々にお引き取りを願う。もちろんギャバナには駆け落ちカップルもしっかり持って帰ってもらうことを忘れない。
交渉においては、スコロ・ル・カーボランダムが「あの女を呼べ!」とゴネまくったので、最後にはこちらが折れた。
その席にて「どうしてこんな真似をしたのか」とたずねたら、若き王は「すべての空を手に入れるためだ」とかふざけたことをぬかしたので、わたしはその場で前腕式警棒にて張り倒し、こうのたまう。
「バッキャロー! 空は誰のものでもねー。だから空は自由なんだ! 勝手に線引きしてんじゃねえぞ、この野郎」
わたしの言葉で、ハッとなるスコロ王。
「へへっ、この一発は効いたぜ。でもそれ以上にあんたの言葉がガツンと胸に響いた。そうだった、空は自由だったんだ。なのにオレは……。すまなかったな、いまので完全に目が覚めたぜ。オレはあやうく自分にとって一番大切なモノを、自分で穢してしまうところだった」
独りごちるスコロ王。
でもわたしの本音は「阿呆な夢をみてんじゃねえぞ、バカ野郎、この野郎」である。「男の夢にふり回されて、泣かされるのはいつも女なんだからね」である。
若き王さまは、その若さゆえにめっちゃ深読みして勝手に納得した。はてには「あんた、いい女だな。ドラコロート族だったらよかったのに」とかまで言い出した。
殴られてその気になるとか、どうやらスコロ王は潜在的にM男であったようだ。
少女マンガとかで、ぶいぶい調子にのってる王子さまがヒロインにぶたれて、なんだか急に相手を意識しちゃう展開ってたまにあるけれど、いざ現実で目の前にしたら、けっこう気持ちわるいな。
それにしても、わたしってば基本的に異種族にはモテるのよね。
まぁ、嫌われるよりかはいいけれども、いかんせんノットガルドでは異種婚が成立しない。ましてやわたしの身では同種婚すらかなわない。
あぁ、人生とはままならぬものだなぁ。
そんな感想でもって、張り子の虎作戦は終了した。
そして何故だか帰国したメローナ姫と勇者アキラは、英雄として凱旋。
なんでもデマにて「姫さまたちがリスターナの地にて軍を率い、非道なるカーボランダムどもを蹴散らした」「駆け落ちは敵を油断させる作戦」「愛は勝つ!」なんていう悪い冗談が拡散されたせいだとか。
ライト王子に問い合わせたら「断じて自分のしわざではない」と否定していたから、たぶん大衆が勝手に夢をみたのだろう。自然発生したデマ。
悲劇のヒロインが転じて、愛と祖国のためにその身を捧げるとか。いかにも彼らが好みそうな物語だ。
まことしやかにささやかれ、民衆の間であっという間に広まったこの話。
ふつうであれば祀りあげられた当事者たちが一番困惑するはずなのだが、あのカップルはふつうではない。「このビッグウェーブを逃すなんてありえねえ」とばかりに盛大に乗っかった。それはもう調子にのってノリノリにて踊る阿呆と化した。
こうなってはもう火消しは無理。
しようがあるまいと、国もこの流れに便乗することにする。
もともと張り子の虎作戦絡みにて、今回の戦は詳細な情報を表に出すわけにはいかない。
関係者一同、いささか業腹ながらもここはぐっとこらえて、目くらましとしてメローナたちを使うことを決断する。
ギャバナ側から正式にこのことを打診されたリスターナ側は「好きにしてくれ。ただし二度とあの連中にはウチの敷居をまたがせんからな」と返答。
ほらね。だからまえにも、わたしは言ったでしょう?
「このカップル、めちゃくちゃ性質が悪い。関わるほどにこっちがドンドン損するタイプだ。とんだ疫病神だよ」と。
駆け落ち騒動からの対カーボランダム空中大決戦、そして捏造英雄爆誕を経て、わたしの心はすっかり疲弊した。
いや、健康スキルがあるから神鋼精神によって、へっちゃらだったんだけど、なんとなく人間関係につかれた気がする。
ルーシーなんかは「気のせいだ」と言うが、気がすると言ったら気がするのだ。
そこでわたしは少しばかり近々のことについてふり返ってみる。
すると「あれ? この頃、やたらと人間種とばかり関わってない? そしてトラブルに巻き込まれるのって、八割方そっち方面から押し寄せているような気がする。あと対女神戦線の構築もわりとほったらかし」
で、協力者を求めて、ひさしぶりに人界を飛び出すことにした。
宇宙戦艦「たまさぶろう」がゆるゆる空を征く。
いつにもましてゆるゆるノロノロ飛ぶ。ひょっとしたらまえに飛行船にてわたしが発した「このゆったり感がいいね」とかいう言葉を、どこぞより耳にしたのかもしれない。
「それでルーシー、これからどこのどちらさまに会いに行くの?」
「今回の接触相手は植物系のハイボ・ロードです」
「おぉ! 虫系以外では初だね。植物系かぁ……、いわゆる森の精霊的なドリアードさんとか」
「まぁ、そんな感じですね」
ルーシーの話から想像するに、きっと森の古木に顔とかくっついた奴なのだろう。
いや、ここはノットガルドだ。もしや世界樹みたいなごっついパターンもあるかもしれない。あるいはさらに裏をかいて、ツルとイバラの妖艶な花の精っぽいのとか。
意外にも、ここいらで正統派マスコットキャラ足りうる愛らしい花の子ちゃん、ついに登場! とか。
いろいろ妄想を膨らませつつ、出向いた先にわたしを待っていたのは、青々とした広大な竹林。
それはもう立派なちくちくしたちくりんであった。
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