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118 麗しき緑と水の都オスミウム
しおりを挟むリスターナの王族、っていうかリリアちゃんのご家庭がモメている。
ずっと自主的に引きこもっていた元王妃と第一側妃のお二人が、いよいよ聖クロア教会の本山へと赴き、本格的な修道院暮らしをすると言い出したからだ。
宰相のダイクさんやゴードン将軍をはじめ親しい者らや、シルト王とリリアちゃんがこぞって懸命に説得を試みるも、二人は首を横に振るばかり。
女たちの決意は固い。
わたしなんかからすると、「べつに親子だからって、なんでもかんでも責任を感じる必要はなかろうに」と思うのだけれども、えらい人にはえらい人なりの矜持とかケジメがあるらしい。
というわけで、やってきました聖クロア教会の総本山。
背後には純白のベールのごとき万年雪を身にまとった尾根が勇壮な峰々。
鮮やかな絨毯のような森林に囲まれた大きな湖。
その中央に浮かぶ島こそが、あぁ、麗しき緑と水の都オスミウム。
えっ、ずいぶんあっさりとやって来たな、ですって?
だっていつものごとく宇宙戦艦「たまさぶろう」にてギューンだからね。
そもそもこじらせ系おばちゃん二人とひねくれ系サイボーグ小娘の旅路なんて、需要がないでしょ。だからそこのところはバッサリよ。
ちなみにリスターナからまともに旅したら、それこそ数年かかる。
ただでさえ物騒なご時世につき、まともに旅をしたらきっと道中は涙あり笑いあり賊ありの、艱難辛苦の大冒険となること間違いなし。
ふつうは今生の別れとなる女たちの旅路。信仰に生きる道はとっても険しいのだ。
だからこそみんなはこぞって反対した。
でも女たちの心はとっくに決まっている。
二人とも王妃や側妃になるような御仁なので、よくもわるくも意志が強固。こうと決めたら自分の信念を曲げたりしない。諦めさせよう、辞めさせようとすればするほどに、逆に反骨心がめらめら。
結局、周囲が泣く泣く折れることに。
まぁ、でもここまではノットガルドの常識にてのお話。
話がしたければスマートフォンっぽい通信端末でいつでもお話できるし、たまさぶろうならばそれこそひとっ飛び、富士丸くんでもふたっ飛びぐらい。ルーシーの分体を使って亜空間を経由すれば、いつでもどこでもアッサリ「ただいま」「おかえり」が可能。
つまり距離による断絶は事実上存在しない。
もちろん危険な旅はナシ。あちらでもばっちり警護はつけさせてもらう。
おかげでずいぶんと温い修道院生活となる予定。
ぶっちゃけ行く必要なくない? という状況には、お二方とも渋面をされたが、この条件だけは保安上の観点から強引に呑ませた。
なにせ聖クロア教会の立ち位置がいまいちはっきりしていないからね。
各地の支部を見た限りでは、かなりまともな信仰組織。
でもラグマタイトで遭遇した聖騎士みたいな連中もいたり、めったやたらと超人兵器をばら撒いたり、人助けの裏では聖魔戦線を継続していたりと、よくわからない動きも多々見られる。
ルーシーがアカシックレコードにて情報を探ってみても、おざなりな情報しか公開されていないらしく、どうにも不明瞭。
そんなところに縁者を預けるのだから、こちらとても最低限の用心ぐらいはするさ。
いざともなったらオスミウムを爆破して、すたこらさっさと逃げ出す予定。
それらの下準備ともろもろの調査もかねて、わたしもお二方に同行したというわけである。
聖クロア教会の総本山へと足を踏み入れたわたしの感想は「すっげー」のひと言。
よく掃き清められた通り、右を向いても左を向いても、そそり立つはおしゃれな高層建築。
いわゆる摩天楼という光景がそこには広がっていた。そういえば各支部もビルっぽい建物だったか。
リスターナの主都を地方の小奇麗な都市だとすると、こちらは完全に大都会。
完全に気おくれしたわたしたち一行は、田舎者丸出しにてキョロキョロきょどきょどしながら街中を歩く。
そんな一行に向けられる都会人たちの視線が生温かい。「あー、むかしはわたしもそうだった」「あのころ自分も若かった」とでも言わんばかりに。
おかげでみんな親切だ。役所への道をたずねたらていねいに教えてくれたよ。
入所の手続きは、役所みたいなところにてサクっと終了。
けっこうな寄付金とこちらの身元が確かということもあったけど、基本的に来る者拒まずのスタンスらしい。
修道院というからには、てっきりジメジメした建物の敷地内にて、世俗から隔離されて陰気な生活を送るようなイメージであったが、さにあらん。
聖クロア教会では、総本山である都オスミウムにてのびのび生活することが、これに相当する。
きれいな街で、やさしい人々にかこまれて、心穏やかに暮らす。
健全な日々の営みがあってこそ、敬虔なる信仰がその身に宿る。
そんなことを係のお姉さんが説明していた。
こちらの想像の上をいく温る温る具合。もはやただのお引っ越しである。
元妃とリリアちゃんママにジト目を向けると、二人はついと顔を背けた。
この反応……、ひょっとして知ってやがったな。ここにきてまさかの「都会暮らしに憧れて」説がむくりとかま首をもたげる。
しがらみを脱ぎ捨てて大都会で心機一転とか。
気持ちはわからないでもないが、涙ながらに見送ったシルト王とリリアちゃんにはとても教えられないよ。
この辺は適当にごまかして報告するとしよう。
人生にはときにやさしいウソも必要なのである。
手続きを済ませたら、今度は新居となる部屋まで別の係の福福したおばちゃんが案内してくれるというので、あとについていく。
道すがら情報収集をかねての世間話。
わたしが「修道院っていうから、もっと閉鎖的なところを想像してたよー」ともらすと、「じつはここだけの話なんだけど」とおばちゃん。
こっそり教えてくれたのが、とある隔離区画のこと。
なんでも国元にていろいろあって、島流しにされてきた方が放り込まれるところがあるそうな。
悪役令嬢とか、悪徳令嬢とか、ヒロイン気取りで騒乱を起こしたビッチ令嬢とか、ざまぁされた令嬢とか、ざまぁしちゃった令嬢とか、そんな感じの人たちがひしめきあっているらしい。
なに、そのオモチロそうな場所!
内部ではいったいどれほどのドロドロ、ネチネチ、ドラマチックな展開がくり広げられていることであろうか。
これはぜひとも一度のぞいて……ゲフンゲフン。ではなくて、調査の必要アリであろう。
なんなら爆破工作はそこの隔離壁をぶち壊すだけで十分かもしれない。
危険生物たちを解き放てば、たちまち都中がパニックになるだろうから。
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