122 / 298
122 男花火
しおりを挟む戦いが始まるなり、ルーシーの分体が付近の茂みへと飛び込む。
これを追尾するのは二人。
残り三人はこの場でセレニティと対峙したまま。
「いいのかい? ちっこいのを一人にしちまって」
「かわいそうに。ありゃあ、全身バラバラにされちまうな」
「生きたまま目玉をえぐるのは楽しいからねえ」
三人の男たちの野卑た挑発を受けても、セレニティは微動だにしない。
夜のしじまにて、ただ静かに水辺に立ち尽くすばかり。
あまりの反応の無さに舌打ちした男たちが躍りかかる。
ダガー二刀流の使い手が三人。獲物を切り刻もうと六枚の凶刃が閃く。
しかしこれらをすべて軽やかにかわしてみせたセレニティ。
三方位からの同時攻撃をも、するりと跳ねてかわし、そのまま池の水面へちょんと降り立つ。足下にて小さな波紋が起こり、水に映った月がゆらめく。
「キシシシシ、やるねえ。だが水場ならオレたちの動きが鈍くなるとおもったら大間違いだぜ。このイブニールさまをあまり見くびってくれるなよ」
言うなり急に男たちが真横にぴょんと跳ねた。
距離はたいしたことない。せいぜい大人の歩幅で二歩ほどといったところ。
そして着地するなり、またもや反対へと跳ねる。
まるで反復横跳びのような動作。
でもどうして戦いの最中にそんなムダな動きを? セレニティがふしぎそうな顔を向けるが、すぐにその表情がやや険しくなった。
動きが明らかにおかしい。
ぴょんぴょんと回を重ねるごとに速度が目に見えて増している。
「ターンターン」というリズムが「タンタン」となり、ついには「タタタ」とかなりの高速化。
そして横の動きがふいに縦となって突っ込んできた。
先ほどまでとは比べものにならない突進力。
それでも十分な余裕をもってセレニティはこれをかわす。
空を舞う死の乙女と呼ばれる伝説の種族。ハイボ・ロードに数えられる身体能力は伊達ではない。
が、かわした次の瞬間にはすぐにまた追撃。
これも難なくかわすも、一撃目よりも二撃目、二撃目よりも三撃目、あきらかに動きが加速している。それも倍々に。
どうやらこれがこの男の異能だと気づいたときには、すでにかなりの速度へと到達しようとしていた。
「キシシシ、少しはおどろいてくれたかい? これがイブニールさまの反射能力さ。自分を玉に見立ててポンポン跳ねれば、あらふしぎ。じゃんじゃん速くなるってね。さぁて、いつまで器用に避けていられるかな」
かわすほどに速くなる敵。
動きはやや直線的ながらも、数が揃えばその欠点を補ってあまりある。
しかも相手の連携がオービタルたちに準ずるレベルとあっては、なかなか反撃の糸口がつかめず、防戦一方へと追い込まれるセレニティ。
それは終始責め立てているイブニール側も重々承知。
だからじきに片がつくだろうと余裕だった。
だがそんな彼らの目のまえで、ふいにセレニティが水面に手をつく。
ついに諦めたのかと思った次の瞬間、公園の池の水がいっきに噴き上がり盛大な水柱をあげた。
セレニティの掌底による衝撃波によって、池の水が暴れる。
そこに突っ込んでしまったイブニールたち。
ほんのわずかだが水の抵抗に囚われ突進力が鈍る。
その好機をセレニティは見逃さない。
一人目は肘から射出されたトゲをカウンター気味に顔面にくらい、そのままどぅと倒れた。
二人目は突っ込んできたところを、すれ違いざまに肘と膝に上下から挟まれ、内蔵と背骨を同時に砕かれる。
三人目は真正面から踏み込まれて胸に肘打ちを喰らったのちに、その肘打ち状態から投石器のように跳ね上がった裏拳にてオデコをぐしゃりと潰された。
無言のままで三つの死体を見下ろすセレニティ。
すると彼女が見ているまえで、その死体がぶくぶくと泡になって消えてしまった。
セレニティが男三人と戦っているのと時を同じくして、森の中。
お人形さんを追いかける二人の男。
ときおり振り向きざまに放たれる銃撃を男たちは難なくかわす。たしかに強力な武器ではあるが、初動さえ見逃さなければそれほど脅威ではないとの判断。
ちょこまかと逃げ回る相手。
その動きが何やらヘンだなと男たちが気づいたときには少々遅かった。
「あいたっ」
叫んで一人が立ち止まる。見れば足から血が出ており、裏には鉄のトゲのようなものが刺さっていた。ルーシーの分体が撒いたマキビシ。そのトゲの鋭さと強度はちょっとしたもので、ブーツの底ぐらい軽く貫通する。
なんとも地味な反撃。けれどもだからこそ喰らうと妙にイラっとくる攻撃。
男たちは「もうお遊びはヤメだ」と駆け出す。
足下にも気を配っているので、二度とあんなドジは踏まない。
そうおもった矢先、宙に何やら黒い糸がピンと張られていた。
とっさにえび反りになってかわしたのは、なんとかく触れたらヤバイと感じたから。
男たちのその判断は正しい。この糸は触れたらスパッとなってしまう物騒なモノであったのだから。
「おい、これってグリューネのヤツの切れる糸っぽくないか」
「あぶねえ、足下ばかりに気をとられていたから、もう少しで首が飛ぶところだったぞ」
ようやく男たちは理解した。
あのチンチクリンがたんに逃げているわけじゃないことに。
ここから先は慎重にいくぞ。と第一歩を踏み出すなりカチリと音がして、地面が大爆発。
埋められていた地雷が起動したのである。
盛大な火柱をあげて、ドーンと男花火が夜空に打ちあがった。
これを少し離れた木陰からみていたお人形さん、「あちゃー」と己の額をぴしゃり。
おもっていたよりも地雷の威力が強かった。
いくら大きな公園内の森の中とはいえ、さすがにこれは外部にバレて騒動になるだろう。
どうやら今夜の諜報活動はここまでのようだ。
ルーシー分体がおおいに反省をしていると、空からびちゃぼたと降ってくる汚物に混じって、ドサリと大きな塊が落ちてきた。
片方はばらばらになったけれども、もう片方はかろうじて原型を留めていたみたい。
が、とても会話が成立するような状況ではない。
黒焦げのそれをルーシーの分体が銃口にてつんつんしていたら、打ち上げ花火を目撃したセレニティが駆けつけてくる。
「あっちは片付いた?」
たずねられて、コクンとセレニティがうなづく。
そんな二人の足下にて、黒炭がじゅわじゅわと泡になって消えていく。
その光景を目撃したルーシーの分体。
「これは……、随分とあっさり終わったからどうかなとは思っていたけど、やっぱりニセモノか。となるとギフトの類かな。五人がそっくりだったから、多元群体化に近い能力なのかも。っと、あんまりのんびりしていたら警邏の人たちがきちゃう。すぐに設置した罠やマキビシを回収して、撤収しましょう」
9
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる