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139 魔族領へふたたび
しおりを挟むわたしたちは現在、宇宙戦艦「たまさぶろう」にて魔族領へと向かっている。
ぼったくりネックレスを貰って、お礼かたがたお暇の挨拶をと執務室に顔を出したところで、ライト王子から告げられたのは「新しい魔王が立った」という情報。
新たな脅威の台頭。
富士丸くんが前の魔王をぶっ殺してからけっこう時間が経っているし、第七十九次聖魔戦線が継続されていることを考えれば、むしろちょっと遅いぐらいだ。
これでまた世界情勢がおおきく動きだす。
が、なにも悪いことばかりではない。なにせ新生魔王の誕生は、それと同時に新たな秩序の構築をも意味しているのだから。
魔王という絶対的な存在を欠いている状況は、魔族側の行動から一貫性を欠き、個々の勝手な動きを誘発する。
つまりあちらこちらで争いが脈絡もなく起こるから、火消しをする連合軍側はとってもたいへん。
戦線が無駄に拡大し、戦火は飛び散り、とっちらかって収拾がつかなくなるばかり。
それが無くなるだけでも連合軍の負担はぐっと軽くなる。
敵対している者同士が微妙なバランスにて互いを支え合っている。
なんとも奇妙な構図だが、もともと戦争なんて行為自体が歪なものモノだから、コレはコレで自然なことなのかもしれない。
まぁ、どのみちわたしには関係のないことだがな。
殺り合いたい奴らはどうぞご勝手にというスタンスにて、ケンカを売られたら買うけれども、こちらから積極的に介入する気はさらさらない。
でもちょっとのんびりしているわけにはいかない事情が発生。
新生魔王の情報に付随して、もう一つある情報がライト王子よりもたらされたからである。
それは魔王軍組織再編にあたって、どうやら大粛清の嵐が吹き荒れるらしいというもの。そしてその主な対象となるのが前魔王時代にあまり協力的ではなかった、第四氏族ダイアスポア。
ダイアスポアといえば鬼メイドのアルバの出身一族。
「すでに自分は過去を捨てた身、どうぞお気遣いなく」
なんてアルバは言うけれども、アメジストの瞳に浮かぶ憂いは隠しようもなく。
身内に甘々、敵には塩対応をモットーとしているリンネさんとしては、これはちょいと見過ごせない。
で、どうせ殺処分しちゃうのならば、ごっそりいただいちまおうと決めた。
魔族領へと向かう空の上にて、わたしはアルバに声をかけた。
「ところで新しく魔王になったバァルディアって、どんなやつか知ってる?」
「はい。自分の兄弟子に当たる人物にて、幼い頃には何度か稽古をつけてもらったこともあります。かつては武勇に優れた尊敬できる将でしたが……」
新生魔王バァルディア。
武闘派揃いの第十一氏族ジルコン出身の男にて、魔王軍でも屈指の実力者。戦士としても将としても超一流にて、多くの兵士たちから尊敬されていた。
だがそんな男を悲劇が襲う。
彼の妻が住む街が勇者らが率いる連合軍の襲撃にあって壊滅。住民らは無残にも一人残らず虐殺されてしまう。
そのときバァルディアの妻は身重であった。
必死にお腹の赤ちゃんを守ろうと逃げる彼女を、連合軍の兵士らは笑いながら追いかけまわし、散々に嬲りものにしてから殺めたという。
その遺体は筆舌にしがたいあり様にて、残された武人は慟哭し、冷酷な復讐鬼へと変貌する。
一切の情を捨て去り、戦場にて荒れ狂う姿は敵味方を震撼させ、その苛烈な働きぶりをたいそう気に入った前魔王によって引き立てられることになる。
「あの方はすっかりかわってしまいました」
そう話を締めくくったアルバ。横顔はどこかさみしそうであった。
ひょっとしたらかつての兄弟子に憧れや淡い想いでも抱いていたのかもしれない。
だとしたら切ない話だ。察するに余りある。
「それにしてもわからないのは、どうしてわざわざ有力氏族を粛清するのかな? ダイアスポアって多くの優秀な武人を輩出しているところでしょう。いくら綱紀粛正や見せしめ、結束狙いだとしてもちょっとおかしくない? まるで自分の手足を切り落としているようなもんでしょうに」とわたし。自軍の戦力を低下させてまで行われる意味があるとはとても思えない。
これにはアルバも「わかりません」と首をふるばかり。
ルーシーに見解をたずねるも「現状ではなんとも」との回答。ただし「この支離滅裂さにはちょっと覚えがありますね」とも口にする。
着地点がまるで見えないのに、アレこれと画策実施される事柄の数々。
「先行きの不透明さが、女神絡みの案件に通じるものがある」とはお人形さん。
もしもルーシーの予想通りだとしたら、とたんに話がキナ臭くなってくるというもの。
いつしか無言になっていたわたしたち。
どうにもモヤモヤしたものを胸中に抱えながら空を進んでいくと、じきに魔族領へと到着した。
ここからは進路を西にとる。
目指すのは西の山岳地帯にあるという堅牢な収容施設。
第四氏族ダイアスポアは数もそこそこ。みな武芸の心得があり、粛清対象となるほどの者たちならば、必ずやそこに収容されているはずだとのアルバの言葉を信じ、わたしたちリンネ組はこれからそこへ殴り込みをかける所存である。
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