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142 女剣客
しおりを挟む「母上、ご無事でしたか!」
「あら、アルバ。かわいらしいメイド姿ね」
「自分は現在、そこにおられるリンネさまにお仕えしていますので」
「その格好ということは武人としてではなくて、ひょっとしてメイドとして?」
「はい。これでも『アルバが淹れてくれたお茶は美味しいね』とお褒めの言葉を頂いているのですよ」
「まぁまぁ、あの武芸一辺倒だった子がひらひらのスカートをはいて給仕をするだなんて……。お母さんはとっても嬉しいわ。お父さんもきっと草場の陰でさぞや悔しがっていることでしょうね。ざまぁみろ」
エタンセルとアルバ。久しぶりの母娘の再会。和やかな会話?
そして発覚するアルバの父親がとっくに亡くなっていることと、どうやら夫婦で娘の教育方針を巡る対立があったこと。
母親としては娘には女の子らしく育ってもらいたかったようだが、父親がビシバシ鍛えてすっかり武人に仕立てあげてしまったようで、おおいに不満を抱いていたようである。
故人に向かって「ざまぁみろ」とは、なかなかのものであろう。
根深い夫婦間の確執。
いかに愛し合って一緒になった間柄とて、しょせんは他人同士。夫婦の数だけ確執もあってしかるべし。
なのはべつにかまわないのだけれども、何ごとにも時と場合というものがある。
ただいま古代遺跡の地下にてガチャガチャ混戦中。
だから母娘の語らいは後にしてっ!
「とりあえずエタンセルさんとアルバは雑兵らと囚われている人たちの解放をお願い。それからルーシーは」
「すみませんリンネさま」
わたしの言葉を遮ったの鬼メイド。
アルバは「バァルディアの相手は自分に任せて欲しい」と言い出す。
かつて憧れた武人。尊敬した兄弟子。その醜い変貌をこれ以上はもう見ていられない。だからせめて同門である自分が引導を渡す。
鬼女のアメジストの瞳には固い決意が浮かぶ。
ここまで強い意志を示されて「ダメ」と言うほどわたしも野暮じゃない。だから「わかったよ」と許可を与える。
「そういうわけで予定変更。エタンセルさんとルーシーは敵兵と捕まっている人たちを助けて。解放次第、亜空間経由でじゃんじゃん搬出すること。アルバは魔王を、わたしはあのローブ男を殺るから」
各々の役割分担が決まってところで、戦闘が本格的にスタート。
数の利を活かして包囲。そこから波状攻撃をしかけてくる敵勢。
剣戟が入り乱れる中を懸命に戦うのはエタンセル。多勢に無勢ながら小刻みに動きまわり、限られた空間を上手に使ってはいるものの、その動きを援護射撃しつつ見ていたルーシーは首をかしげる。
エタンセルの動きは流麗にてお見事。一流の武人のソレだ。だけれどもどこか違和感がある。いまいち勢いにノリきれていないみたいな。
しばからく考えてからポンと手を叩いたルーシー。「あぁ! ひょっとしてエタンセルさんってば、本来は二刀流なのではないのですか?」
迫る切っ先をかわし、刃を弾きながら「実はそうなんですよ」とエタンセル。「やっぱりバレちゃいましたか。ダマしダマしやってたんですけれど、わかる方にはわかちゃうものですねえ」
一刀には一刀の、二刀には二刀の剣技があり動きがある。それ用にと鍛え上げた肉体でちがうことをすれば、そりゃあ不具合も生じるというもの。
なまじ達人になるほどに、その齟齬が顕著になってくる。
ようやく納得がいった青い目のお人形さんは、「だったらコレを」と二振りの剣を亜空間より召喚。
片翼にていまいち戦いづらそうにしているエタンセルへと投げて寄越す。
「よろしければそちらをお使いください。まったくの同じ形、同じ質量、同じ重心にて寸分たがわぬ双子剣です」
ルーシーが渡したのは随分前に主人であるリンネがダンジョンへと赴いた際、気まぐれに「いずれ鬼メイドに持たせて剣鬼メイドに進化させよう」との思いつきにて開発させた、反りのある片刃にて日本刀を模したモノ。光の剣の技術も取り入れられており、切れ味と丈夫さは安心のLGブランドクオリテイ。
あいにくと鬼メイドは槍一辺倒にて、ずっと死蔵していた逸品がようやく日の目をみることに。
放り投げられた剣を受け取ったエタンセル。
そろりと音も無く二刀を同時に鞘から解き放つ。
床へと落ちた鞘がカランと鳴った。
三人の敵兵が同時に血飛沫をあげて崩れ落ち、二人が剣を握っていた腕の肘から先の部位を失い悲鳴をあげる。
ひゅんと風切り音をさせ、剣を払ったエタンセル。
刀身に彫られた血流しの溝に溜まっていた液体がぴしゃり、床に青い線を描く。
淡い光を放つ白い刀身を眺めて、うっとり。
「なんという切れ味、それにとってもキレイな子たち」
切れ長なアメジストの瞳に艶めかしくも妖しい光が宿る。
両翼を得たことで大きく飛翔する女剣客。
白刃が閃き、血風が舞って、敵の絶唱が木霊する。
先ほどまでとは別人のような動きにて、すっかり安心したルーシーは雑兵どもは彼女に任せることにして、自分は人質の奪還に専念することにした。
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