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153 乙女の聖戦
しおりを挟む新生魔王の台頭やら聖騎士の画策による邪龍復活などのゴタゴタに巻き込まれて、いろいろあった末にリスターナへと移住した第四氏族ダイアスポアの魔族の方々。
辺境の小国にて、これまで鬼メイドのアルバがこつこつと積み上げた信頼のおかげで、彼らはリスターナの人々からすんなり受け入れられる。
これにはアルバのお母さんであるエタンセルもおもわず涙ぐむ。「あのヤンチャ娘が立派になって」
こんな感じで、あっさりと受け入れられたまではよかったのだが、ここでちょいと問題が発生。
なにせ魔族はみなゴツイ。ゆえに人間種族の住環境ではちょいと手狭。
そこで新たに主都近郊に彼ら専用の町を作って、そこに住んでもらうことにした。
身長が三メートルを超えるのがごろごろにて、家やら町並みもそれに準拠。おかげで全体的に造りが大きくなり、人形がウロウロしているルーシータウンとは真逆のなんとも奇妙な住空間が仕上がる。
彼らはそこに住みながら、主都の警邏隊に所属して城壁外回りの防衛に従事している。
部隊長はエタンセルさん。アメリカンフットボールの選手のように、肩をいからせた体型が多い魔族にあって、細っそりした西洋の甲冑っぽい容姿の彼女。
だが若かりし頃には「氷牙」との異名を馳せた凄腕女剣客にて双剣の使い手。
結婚してからは長らく第一線を退いていたが、その剣技はいまだ健在。ルーシーより譲り受けた白光の双子剣を手に、新天地にて職務に精を出している日々。
リスターナの城内にてそんなエタンセルさんと、わたしはばったり遭遇。「その後、どんな感じ?」とたずねれば「いい感じ」との笑顔。「食べ物も美味しいし、みなさんよくしてくれますから」
廊下にてしばし立ち話にて歓談。
いっしょに移住してきた人たちも、ほどほどに馴染んでいると聞いてわたしはほっとする。
「そういえばエタンセルさんがこっちに顔を出すのなんて珍しいよね」
「この頃はわりとちょくちょく来ていますよ。ゴードン将軍から頼まれて模擬戦をしたり、兵士の訓練につきあったり、あとはリリア姫の指導とか」
「リリアちゃんの指導?」
意外な発言が飛び出し、おもわず首をかしげるわたし。
「ええ、剣の使い方を教えて欲しいと頼まれましたもので。お友だちともども。お二方ともなかなか熱心にて筋はよろしいかと」
リリアちゃんが剣を学んでいる。そのお友だちというのはおそらくマロンちゃんのこと。
でもあの二人がどうして急にそんなことを言い出したのであろうか。
やんごとなきご身分のプリンセスとご学友にて良家の子女。手にマメを作り、汗をかきながら剣をふるう意味がわからない。
もしや、またぞろ身辺にて不穏な何者かの影が!
心配になったわたしは、これからちょうど二人の指導だというので、見学させてもらうことにする。
城の敷地内にある鍛錬用の運動場。
多くの兵士たちがムキムキの上半身を惜しげもなく晒し、男汁を垂れ流している片隅にて、木刀を手に師の到着を待っていたのはリリアちゃんとマロンちゃん。
ふだんのドレス姿とはちがい、ズボンをはいて髪もうしろできちんとまとめて動きやすい格好をしている。
エタンセルさんにくっついてきたわたしを見て「あれ、リンネお姉さま」「げっ、リンネ」とマイシスターたちがお出迎え。
なおリリアちゃんはお姉ちゃんにぞっこん、マロンちゃんはツンデレさんなので、この反応が標準である。
「やぁ、二人ががんばってるってエタンセルさんから聞いて、ちょっと見学しようかと思ってね」
挨拶もそこそこに、始まる剣のお稽古。
まだ初めて日が浅いので、いまは型のおさらいと素振りがメイン。
エタンセルさんの指導はおもいのほかに丁寧だ。型の乱れや踏み込み位置など、おかしな点があればすぐに修正を施す。
「四の五の言わずにカラダで覚えろ」的な、娘のアルバの指導方針とはえらいちがいである。
上段に構えた木刀を「せいっ!」という掛け声にて、気合を込めて懸命にふる二人。
額に浮かぶ珠の汗が、ぱっと飛び散り、陽光を受けてきらめく。
同じ液体だというのに、向こうに見えるむさくるしい野郎どもとはまるで別物。あちらは酢えたニオイが漂いぬたぬたしていそうなのに、こちらは朝摘みの花の蜜のごときさらりとかぐわしさ。舐めればさぞや甘露なことであろう。
いや、いくらわたしでも流石にペロンチョとかしないけどね。
それにしても男汁と乙女汁とでは、これほどちがうものなのかと、あらためてしみじみ。
ときおりランニングがてら近くを通りかかる一団が、こちらをチラチラ気にしている。
うしろから鬼軍曹っぽいのに怒鳴られ追いたてられている彼らの目には、こちらはまるで乙女たちがキャッキャうふふと戯れている桃源郷のごとく映っていることであろう。
ひと通りの鍛錬が終了して、いったん休憩。
ふぅふぅと乱れた息を整えながら、タオルで汗をふくリリアちゃんとマロンちゃん。
適度な運動と適度な休憩。ど根性もけっこうだけれど、ムリをしてカラダを壊してはしようがない。いざというときに筋肉痛やケガで動けないのでは意味がない。
それがエタンセルさん流の指導。
「なぜ、それを自分の娘に伝授しない」とわたしが文句を言うと、「だってあの子はお父さんにベッタリだったんですもの」だって。
そのしわ寄せが現在わたしのところにドッと押し寄せているのか。
おうらみます、アルバのパパさん。あと妻子の面倒はしっかりみるので、安心して成仏して下さい。
「そういえば、リリアちゃんたちは、どうして急に剣を習い出したの?」
肝心なことをすっかり忘れていたわたしは、なんら脈絡もなくこの質問を乙女たちにぶつけた。
だが二人はそろって顔をそむけ、「それはいろいろありまして」「全部あんたのせいじゃない」とごにょごにょ。
まるで覚えがないわたしは「はて?」と首をひねる。
すると笑いをこらえながらエタンセルさんがこっそり耳元でささやく。
「年頃の女の子ですから、いろいろとあるのですよ。なんでも『ぜんぶチョコが美味しすぎるのが悪いの』とのことです」
その話を聞いて、ポンとわたしは手を叩く。
なるほど、ようやく合点がいった。
彼女たちが戦っていた相手のことがわかったよ。
これは薄着となる夏を前にしての通過儀礼、いわば乙女の聖戦。
過酷な試練をまえにして、彼女たちは勇敢にも立ち向かうことを選択。リリアちゃんとマロンちゃんがそのために選んだ武器が剣であったのだ。
がんばれマイシスターたち。
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