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155 宙の極秘会談
しおりを挟むノットガルドの周回軌道をゆるゆる飛んでいる宇宙戦艦「たまさぶろう」、その内部にある展望ラウンジ。
ここに集まっていたのは、わたしことアマノリンネ、リスターナの美中年シルト王、ギャバナの腹黒第二王子ライト、ラグマタイトの空飛ぶメスライオンこと炎の魔女王ジャニス。
シルト王とライト王子に関しては、前からいろいろとわたしの事情をぶっちゃけていたので対女神戦線の協力者であったのだが、この度、そこにジャニス女王が加わることになった。
以前にラグマタイトを訪問したおりに、ジャニス女王に渡したスマートフォンっぽい通信端末。
それを用いて公私混同しまくって小まめにシルト王と連絡をとっていた彼女は、会話の中で根掘り葉掘りと聞き出したそうな。
なにせわたしは機密事項の塊みたいな女。
魔王殺しに始まる一連のやらかしの数々。どれもこれもうっかり世に出せば激震させるにたる破壊力を秘めている。まるで世界の劇薬。
ゆえにシルト王もはじめのうちは、のらりくらりと舌攻をかわしていたのだが、これに業を煮やしたジャニス女王。途中から攻め手をかえる。
「正直に話すか、わたしと結婚するか、好きな方を選べ。なおどちらも拒んだ場合には、自動的に輿入れの準備を粛々と進めさせてもらう」
ジャニス女王は若い頃からシルト王にベタ惚れ。
いまもまったく諦めてはおらず、虎視眈々と狙っている。それを逆手にとっての超理不尽な二択。
よくある「わたしと仕事、どっちが大切なの?」という女性の困った質問の変形バージョン。「そんな無茶な」という男の当然の抗議には耳を塞いで「きこえなーい」
これにシルト王は屈する。初恋こじらせモンスターにはいかなる手練手管も通じなかった。
いろいろ吐露したことによって、目出度くメスライオンことジャニス女王も仲間入りを果たしたと。
シルト王さまからは「ごめんねえ」とペコペコ頭を下げられたが、わたしとしては心強い味方はむしろ大歓迎なので、「あんま気にすんな」と言っておいた。どのみちいずれ声はかける予定だったし。
で、今宵の極秘会談の主題は「第七十九次聖魔戦線、締結後の世界情勢について」である。
聖魔戦線が急に停戦されたのは、間違いなく僥倖。だがそれであとは「めでたしめでたし」とはならないのが世の中の複雑怪奇なところ。
なにせ各地の紛争が継続中にて、世界大戦もまだまだ継続中。リスターナやラグマタイトやギャバナ周辺はかなり穏やかだけれども、それ以外の地域ではわりと派手にドンパチしているところも少なくない。
対魔王軍へと向かっていた兵力やらお金やらその他モロモロが、これからは地域紛争や内々へと向かうことになる。その余波がどのように作用するやら。
例えば隣国で内乱でも勃発すれば、難民出現、疾病発生、物価の高騰、物資不足……と、このように問題がじゃんじゃか山積にて他人事ではいられなくなる。
これからは、より周辺の監視を強化しつつ、各国の連携も密にする必要がある。
さざ波程度の余波が、気づけば大津波となってから慌てても手遅れだから。
「そのまえに訊きたいことがあるのだが」ライト王子が口火を切る。「新生魔王バァルディアが消息不明。モナズセキ平原での怪異。突然の停戦協定。未確認巨大生物に腐界の聖女なるナゾの存在について」
じーっとわたしを見つめるライト王子。
理知的な黒い瞳による熱視線。その表面には「疑」の一文字がありありと浮かんでいる。
これを受けてわたしはあっさり観念し、「じつは……」と白状する。
うちの鬼メイドのアルバの身内を助けたついでに、いろいろがんばったら、あんなことになったと釈明。
これを聞いたシルト王は、遠い目をして「まさかの魔王討伐二連ちゃん」とぼそり。展望ラウンジの外に広がる星の海を眺めていた。
ジャニス女王はケラケラと大笑い。「あのやたらと臭いポーションといい、ジャミの体液まみれといい、あんたはまさしく腐界の聖女さまだよ」
ライト王子は深いタメ息の後に「やっぱりか」とつぶやく。
「どうしてわかったの?」わたしがたずねたら「わからいでか! そうそうヘンテコな女勇者がポンポンいてたまるか!」とやや声を荒げた。
冒頭にて少々ごたごたのあった極秘会談は、その後滞りなく進行。
小まめに連絡を取り合って情報を共有し、共通の危機意識を持ち、連携することで合意。
とりあえずは今夜の会合はここまでかなぁ。という段になってライト王子が口にしたのは「今後の各国における勇者の扱いについて」のこと。
聖魔戦線が終わったから、お役御免。
とはならずに、むしろ更なる台風の目になるそうな。
いままでは召喚後、なし崩し的に国に協力し戦線へと加わっていた勇者たち。もしくはこれを嫌って国元を出奔しているノラ勇者たち。それらの流動が激しくなるとライト王子は予想。
事実、すでに水面下では有力な勇者の引き抜き工作やら、能力の見直し、有効活用の模索などが盛んになりつつあるんだとか。
そんな中にあって所有権が曖昧なノラ勇者は、格好の獲物。
これを専門に狩っている連中もいるらしい。
「ギフトとスキルのダブルチート持ちを狩るとか、そんなことがありえるの?」
「たとえチカラではかなわなくても、相手を屈服させる方法なんていくらでもある」
半信半疑のわたしの甘い考えは、ライト王子によって一蹴された。
権力者の思考、ちょーこぇー。
「悪党ほどその手のことには長けているからなぁ」とはジャニス女王。「もっともうちの子らには断じて手出しはさせんがな」と心強いお言葉。ラグマタイトに召喚された勇者たちは本当に幸せ者だよ。
「その点、リスターナはいささか不謹慎だけれども気楽な立場かな。かなしい事に、もらった勇者は全滅しちゃったから。リンネちゃんにいたっては、さすがに狩れないでしょ? この子にちょっかいを出すってことは、それすなわちルーシー殿をはじめとするあの面々を相手にすることになるんだもの」とはシルト王。
「まぁ、こいつに関しては心配はいらないでしょう。放っておいてもしっかり者のルーシー殿がきちんと対処されるでしょうし」とライト王子。
これにはシルト王もジャニス女王もうんうん頷く。
みんなのお人形さんに対する信頼がとってもぶ厚いや。
そしてわたしの扱いが地味に雑だな。でも自業自得だから、なんも言えねぇ。
この話の中でライト王子が特に気にしていたのが「亡命を希望してくる勇者」があらわれるということ。とくに勇者に対して寛容なところ、理解がある国には殺到する恐れもある。
そうなると受け入れる側としては、単純によろこんでばかりもいられない。
なにせ異世界渡りの勇者たちは超人兵器という側面を持つ。
これを多数保有するということは、すなわち軍備増強に直結する。
たとえその気がなくとも、周辺国はこれを脅威とみなすだろう。
また流出させた側も黙ってはいまい。逃がした魚を求めて返還請求。それはもう盛大にゴネるはず。国家間の新たな火種となること間違いなし。
かといって亡命を突っぱねるのもちょっと。
いやはや、なんとも悩ましい話である。
これを聞いてわたしがぼそり。
「逃げてくるヤツばかりじゃなくって、追放されたのが来たらタイヘンだよねえ」
何かをやらかして追放処分を喰らった勇者。
地雷臭しかしない存在について口にすると「縁起でもないこと言うな」とライト王子に怒られちゃった。
でも完全にないと言い切れないところが、ねえ?
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