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167 波紋
しおりを挟む宇宙戦艦「たまさぶろう」がゆるゆる向かっている先は、トカード国。
運んでいる荷物はメスライオンこと炎の魔女王。出張ついでにリスターナに立ち寄った彼女とオセロで賭けをして負けたわたし。
コテンパンにされて、そのペナルティとしてジャニス女王の運搬係を仰せつかることになった。
行き先のトカードは中堅どころの国。
タツヤを筆頭にヨシミ、アイ、カズキ、リクの五人の勇者を保有している。
リスターナが先の騒動後に最初にお詫び行脚へと赴き、リリアちゃんが華々しい外交デビューを飾った地でもある。
アイさんとはラグマタイトでの国際会議のおりに顔を合わせたけれども、それ以外のメンバーとはひさしぶりの再会となる。仲良し五人組の異世界青春白書に、いかなる進展があったのか。話を聞くのが、いまからとっても楽しみ。
「わたしとしては、カズキとリクのカップリングもありだと思うんだよねえ」
「カズキはアイへ。リクはタツヤへ。互いに一方通行の届かぬ想いを抱えた者同士。それが傷を舐めあうのですね? なかなかに熱い展開です」
「片や清く正しいピュアなじれじれラブストーリーが展開する一方で、裏ではどろどろ。なんてメロドラマチック!」
「心の溝を埋めようと、いっときの快楽に身をゆだねる。でもあとに残るのは虚しさばかり。それでもやめられないとまらない」
「そして新たな感情まで芽生えて、より五人の関係は複雑怪奇なモノへと……」
トカードの五人について、勝手な妄想をわたしとルーシーがくっちゃべっていたら、ジャニス女王が「いったい何の話だい?」と会話に参加。そこで五人の関係なんかをかいつまんで教えてあげた。
あーでもない、こーでもないと盛り上がるわたしたち。
そうこうしているうちに早やトカードの主都上空に到着。
ルーシーをわたしが抱いて、そんなわたしたちをジャニス女王がひょいとお姫さま抱っこ。
そのままたまさぶろうの甲板から宙へダイブ。
足から炎を噴き出しながら、空をぶーんと飛ぶ炎の魔女王。
簡単そうに空を飛んでいるけれども、これっておそろしく高難易度な技。高出力の炎を巧みに操り、魔力の調整、姿勢制御、空気抵抗、風の流れ、その他もろもろを同時にかつ息をするかのごとく自然に行うことで、初めて成せること。通常の飛行魔法とはまるで別物にて、瞬間的な飛行速度や機動性ならばセレニティ・ロードたちに迫るものがある。
それを小娘と人形を担いで平然と行っている。
あいかわらずとんでもねー。
あと、この人はぜったいに産まれてくる種族と性別を間違えているね。男じゃないのがつくづく残念だ。
とか考えているうちに、すぐにトカードのお城に到着。
飛竜用の発着場に降り立つ勇姿を、付近にいた面々らがみな目ん玉をひん剥いてガン見していたよ。
あたふたと迎えにきたえらい人たち。
案内されるままにわたしたちは城内の客室へと通される。
ジャニス女王は「仕事を先に片づけてくる」といって、すぐに部屋を出て行った。
わたしの方は振舞われたお茶を飲み、焼き菓子をボリボリ貪って、まったり過ごす。
そうこうしているうちに、じきに戻ってきた女王さま。
でも何故だか、その腕にはヨシミさんの姿があった。まるでツルのごとく腕を絡ませて、ひっしと掴まっている眼鏡隠れ巨乳ヨシミ。
これにはジャニス女王もいささか困り顔で「参ったな」
背後にはなんともいえない複雑な表情をしたタツヤ、アイ、カズキ、リクたちもいる。
「えーと、みなさんお久しぶり。それでこれはいったい何ごと?」
わたしが事情の説明を求めたら、ジャニス女王が「じつは」と語り出した。
時を少しばかり遡る。
トカードへと来訪したジャニス・ル・ラグマタイトはすぐさま王へと謁見をしてから、そのままサクサクと用件を片づけていく。
いちいち後日改めて席を設けるなんて回りくどい真似はしない。それに晩餐だのパーティーなんぞは、ひと仕事を終えてからの方がのんびり楽しめるもの。
彼女のせっかちな気性をよく知っているトカードの王。客人の好みに沿う形でコレにつき合う。
そんな場面に立ち会うことになったのが、五人の勇者たち。
壁際にて静かに見守っていたのだが、彼らのところへと会合終わりにジャニス女王がツカツカ颯爽と近寄っていく。
「きみがタツヤか。なるほど真っ直ぐな、とてもいい目をしている」
「アイにはまえに会ったな。その分ではきちんと剣の修行は続けているようだな。えらいぞ」
「そっちの二人がカズキとリクか。話はリンネから聞いている。いろいろあるそうだが、まぁ、がんばれ」
「あとは……」
すっかり気圧されてドギマギしている五人の若者たちに、順番に声をかけていくジャニス女王。
最後にヨシミへと向かい合ったところで、手をのばし、ひょいと彼女のかけていた眼鏡を外した。
いきなりのことに「えっ! あっ!」と混乱するヨシミ。
そんな彼女の顔をしげしげと眺めてジャニス女王は言った。
「ふむ。なるほど。リンネやルーシーが言っていた通りだな。じつに愛らしいお嬢さんだ。だがこの眼鏡がいささか無粋だな。せっかく可愛いらしいのにもったいない。なんなら、わたしの知り合いの治癒師を紹介してやろうか? やつならばヨシミの眼もきっとよくなるだろう」
長身で凛々しい金髪のメスライオンからそう言われたヨシミ。頬をほんのり染めてすっかりぽーっとのぼせてしまう。
そして彼女は誰もが予想だにしない大胆な行動に出た。
なんと! そのままジャニス女王の腕にヒシとしがみついてしまったのである。
幼子が好きな幼稚園の先生とかに抱き着いて離れないことがあるだろう? あんな風に。
これに驚いたタツヤたちが引き離そうとするも「いやいや」と駄々をこねる。どうやら感情が急激に沸騰、好きという気持ちが高じて、幼児退行っぽくなってしまったらしい。
まさかの展開、四人の仲間たちがあわてたのは言うまでもあるまい。
愛に生きている女の代表格のようなジャニス女王。
恋する乙女の気持ちは痛いほどによくわかる。だからこそあまり無下に扱うわけにもいかずに、ついズルズルと……。
事情を聞き終えたわたしは言った。
「いきなり眼鏡をとって、アゴくい、そこから目を見つめて『あんた可愛いな』とか。なんだよ、その悩殺トリプルコンボ! あんたはどこぞの少女マンガの王子さまかっ! 初心な乙女になんてことをしやがる。男前にそんなことをされたら、そりゃあ舞い上がってホの字にもなるわ」
「いや、ちょっと待て。男前って、わたしは女なのだが」とのジャニス女王の抗議の声はツーンと無視する。
事情を聞き終えたルーシーは言った。
「よくも、まぁ、乙女が密かに夢見る憧れのベタなシチュエーションを、それだけナチュラルにぶちかませたものです。とんだ乙女キラーですよ。この空飛ぶ破廉恥」
「えぇっ、ハレンチって、ちょっとひどくない!」とのジャニス女王の抗議は、やはりツーンと無視して「きこえなーい」
こんな調子でわたしとルーシーがジャニス女王をおちょくっていたら、その側ではタツヤとアイが軽い錯乱状態にて「オレのヨシミが―っ」「わたしのヨシミがーっ」と泣き叫んでいる。そしてこれに引きずられてカズキとリクもおろおろ錯乱状態に突入。
ヨシミさんはあいもかわらずギュッと抱きついたまま、一人うっとり。メスライオンは「なんとかしてくれ」と懇願。
なかなかのカオスっぷりにて、ちょっと収拾がつかなくなってきたところで、「しゃーないなぁ」とわたしが動く。
ヨシミさんの首筋にソフトタッチ。ピリリと手の平式スタンガンを発動。
威力はかなり抑えてあるので、コテンと気を失う程度。珠のお肌に焦げ跡もつかないからとっても安心安全。
正気を失っている四人には「とりあえず落ちつけ」と順繰りに脳天にチョップをかます。
ぐったり気を失っているヨシミさんを囲んで、みんなでガッツリ円陣を組む。
「いいか? すべては夢だ。ジャニス女王は『アゴくい』なんてしていない。『トリプルコンボ』なんて決めてない。ごくふつうに挨拶をして、タツヤさんたちもそれに応じた。ただそれだけのこと。それで押し通せ」
すべては乙女の妄想が見せた淡い幻。
全員の口裏を合わせてなかったことにする。
わたしの提案に「しかしヨシミをダマすのは」とか「ヨシミに嘘をつくだなんて」なんぞという甘っちょろいご意見には「おだまり!」とピシャリ。
「このままだとヨシミさんがラグマタイトへ亡命することになるぞ」と言って黙らせた。
話がまとまったところで、タツヤがヨシミを背負い、揃って引き上げていくトカードの勇者たち。
とりあえずヤレヤレである。
半ば強引に急場はしのいだが、はたして乗り越えられるかどうかは不明。
ジャニス女王が起こした波紋が、五人の異世界青春白書にどのような変化をもたらすのか。
こりゃあ今後とも目が離せそうにないぜ。
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