172 / 298
172 不穏
しおりを挟む沈みゆく夕陽にしんみり黄昏つつ浜をあとにして、みんなでホテルのレストランでディナーとしゃれこむ。
旅の醍醐味といえば、やっぱり食事でしょう。親しいい者らで囲む食卓は、何にも勝る贅沢。
すぐ目の前にはキレイな海もあることだし、地場産の素材をふんだんに使った料理を愉しみにしていたら、テーブルに並んだのは、どこかで見たような品ばかり。
「こちらの料理は、ただいまノットガルド全土で流行している最新の食材を使ったものです」との給仕さんのご説明。
パスタとか、インスタント食品のアレンジ料理の数々。
どこ産かって? そんなもんウチに決まってるでしょ! リスターナ産、ギャバナ経由にて流れ流れてノットガルド各地へと散らばる食品の輪。
でも輸送コストが加算されているから、リスターナから離れるほどに値段がべらぼうに跳ね上がっていやがる。そのせいで庶民の生活を支えるハズの食材が、リゾート地の高級店の調理場で使われる大出世。成り上がるにもほどがある。
さすがにプロの料理人がひと手間もふた手間も加えているので、見目麗しく、味も申し分ないのだが、新鮮味の薄さだけはいかんともしがたく。
どうせならば、わたしは活きの良い魚介類が食べたかった。
あと原価を知っている身としては、ぼったくられ感がすさまじい。
いや、お店の雰囲気とか、給仕のきめ細やかなサービスとか、プロの料理人の腕とか、いろんなモノの付加価値が加わっていることは承知しているよ。それでも、ちょっとと感じちゃうのが一般庶民という生き物なのである。
微妙にテンションがあがらない食卓。「おいしいですね」「うん、ふつうにおいしいかな」という会話がなんとも空々しい。
そんなわたしたちの席に、いきなり「あちらの方からです」と差し入れられたのは、でっかいホールのチョコケーキ。
ドラマの中とかで、バーカウンター上にて展開されるグラスのやりとり。
行きずりの見知らぬ男女。
大人のラブゲームのはじまり。
わたしとて人並みに憧れたシチュエーションではあるけれども。実際のところ、やられてみると、うれしさよりも戸惑いが勝る。見ず知らずの相手からふるまわれる飲食物。ぶっちゃ不気味でちょっと怖い。だって得体が知れないんだもの。
何かの間違いかとおもったのだが、ケーキを運んできた給仕は「たしかにこちらの席に運ぶように」と言われたという。
このような高級レストランの席で、もらった品を突き返すのはマナー違反。
ひょっとしたらリリアちゃんの顔を見知っていた、どこぞの貴人の可能性もある。
相手にどのような意図があるのかはわからないけれども、ご厚意にはとりあえずお礼。だから表向きの引率役であるわたしが、ケーキを寄越したと方々が座っている席へと挨拶に赴く。
あぁ、ちなみに真の引率はルーシーだからね。とはいえさすがに青い目をしたお人形さんに行かせるわけにはいかないから。
わたしたちの席から少しはなれたところにいたのは人間種の老夫婦。
夫はゴードン将軍ばりの武闘派なムキムキ具合にて、あきらかに軍属っぽい御仁。黒髪短髪角刈り、頑固一徹を地で行くようなしかめっ面にて、四角い顔面に「厳格」の二文字がしわで刻まれているかのよう。彼は某国の高貴族の当主であるシビニング・ビスコ。
妻は夫とは対照的にカラダの線が細い。まるで枯れ木のよう。黒髪をお団子に束ねた、物腰柔らかくやさしそうなおばあちゃんがカーラ・ビスコ。
二人の側には同じ年代であろう老執事の姿もある。こちらはモルトさん。
わたしはとりあえず一番えらそうなジジイにお礼を述べる。
そしたら「ふん」と鼻で返事をされた。これにはわたしも「えー」
しかしすかさずフォローに入ったのは奥さん。「不快な思いをさせてごめんなさいね。うちの人ってば、いっつもこんな調子で」
どうやらこちらには話が通じそうなので、以降は彼女との会話に終始。
それでケーキをくれた理由は、「なんだか元気そうな子どもたちがいたものだから、つい」だそうな。
いかにもありえそうな話だけれども、わたしは奥さんがかすかに漏らした「あまりにも昔のあの子に似ているものだから」というつぶやきも聞き逃さない。
老夫婦の視線が注がれていたのはモランくん。
「これはひょっとしたら、ひょっとしちゃうかも?」と思いつつ、その場では挨拶だけに留める。しょせんはビーチでの戯言。そんなおとぎ話みたいなこと、あるわけナイナイ。
向こうもあえて踏み込んだ質問はしてこなかったしね。
まぁ、他人の空似ってこともあるし、先祖を辿れば遠い親戚同士なんてこともあるだろう。血脈なんてどこでどう繋がっているのか、わかったもんじゃないから。
なーんてことで放置していたら、この夜を境にしてやたらと行く先々にて遭遇するわたしたちと老夫婦。
あきらかに狙って接近遭遇しているだろう? それならふつうに声をかけてこいよ。いちいち偶然を装うのが、なんともめんどうくさい。
奥さんだけならば「なんて奥ゆかしい」で済む。しかしここに頑固ジジイがブレンドされることで、とたんに「むさ苦しい、暑苦しい、うっとうしい」が加味されるからふしぎ。あと、その出会いのセッティングのために汗だくになって走り回っている老執事が、気の毒すぎる。じきに倒れても知らないから。
社交的で淑女な奥さまは、すぐにリリアちゃんやマロンちゃんたちとも打ち解け、いまではすっかり顔なじみ。本当の孫と祖母らのような老若人の交流は、目にとってもやさしく、心に染みる。なんだか陽だまりで丸まっているネコの気分にさせられ、ほっこり幸福感がその一画には満ちているよ。
なおずっと眉間にシワだらけ渋面ジジイは、如才ないモランくんが適当にあしらっている。さすがは日頃からお城の奥で気ムズカシイ大人たちを相手にしているだけのことはある。わたしだったら五分後には、殴り合いのガチケンカをしている自信があるね。
そんなこんなでアルチャージルでのバカンスの時間はゆったりと流れていたのだけれども……。
夕刻、茜色に染まる浜辺を散策した後に、ビーチ沿いにある網焼きの屋台へと繰り出そうとしたときのこと。
とある建設作業中の建物の前を通りかかる。
ふいに頭上からガランゴロンと不穏な音。降ってきたのは鉄骨やら木材やら石材など。
真下にはちょうどわたしたち一行。周囲にも多数の観光客たち。
当然ながら、こんなモノに巻き込まれれば大惨事になる。
が、そこはそれ、リンネ組に常識は通用しない。
即座に頭上にて亜空間の入り口をぱかんと開けたルーシーさん。「ヒャッホー、ただで資材ゲットだぜー」と素知らぬ顔でガメて、そのままスタスタ去っていく。
よってたいした騒ぎになることもなく、建築現場の作業員らが混乱するにとどめたのだけれども。
「あれって明らかにわたしたちを狙ってたよね?」
「そうですね、リンネさま。タイミング的にみて、まずまちがいないかと」とルーシー。
「狙いはやはりリリア姫でしょうか」とアルバ。
主従らにてヒソヒソ話。
なお前を歩くリリアちゃんたち三人は、先の事故を装った襲撃にはまったく気がついていない模様。まぁ、せっかく休暇を楽しんでいることだし、わざわざ報せてイヤな気分にさせることもなかろう。警護はばっちりするから、あとはいつものようにリンネ組にてこっそり処理するつもり。とはいえ……。
「うーん、でもとりあえず話を聞くのはカーラさんからかなぁ」とわたし。
だっていい加減にモヤモヤもピークだし、ここいらでスッキリしておきたい。
ひょっとしたらそっち絡みの案件の可能性もあるからね。
6
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる