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179 巫女姫伝説
しおりを挟む「見た目はタコとイカ。ルーシーによればレッドピピルもスルメも喰えるって話だったけど、大きいやつは味がいまいちって聞いたことがあるし。うーん」
「えっ! あれを食べるのですか?」
わたしのつぶやきを耳にして、おどろくアルバ。
「あらら、魔族では食べる習慣がないの? あんな姿だけど煮てよし、焼いてよし、揚げてよし、生でよし、干してよしと、けっこうな万能食材だよ」
タコヤキ、タコの酢の物、タコしゃぶ、イカ焼き、イカフライ、イカ焼きそば……。
あー、でもイカはともかくタコのお刺身は好みがわかれるか。地方によってはおでんにタコを放り込むところもあるし、甘辛く柔らかく煮てもよい。
イカどんぶりにタコ飯もいいかも。
そうそう、お米なんだけど植物系のハイボ・ロードである竹姫ちゃんのリンネ組加入によって、開発がいっきに加速したの。おかげでかつての世界で毎日もりもり食べていた品種にかなり近い味になりつつある。
カップめんの残り汁にゴハンをぶっ込んでガツガツ食べる。ソース焼きそばをオカズに白飯をムシャコラかっ込む。お好み焼きに白飯も個人的にはアリだ。いや、むしろアレを否定する意味がわからん。ついでにタコヤキでも試したが、あちらも美味だ。「お好み焼きやタコヤキはオヤツだろう?」とかいう、しょうもない偏見に凝り固まっている連中には、むしろ憐れみすら覚える。
炭水化物と炭水化物の夢のコラボレーション。
というか、お米は加工しだいでチョコレートとすらも手を携える猛者。パフチョコ、超うめえし。
あぁ、わたしはついにノットガルドに白い悪魔を降臨させてしまったのかもしれない。
なんてことを考えながら、とりあえず懐からスマートフォンっぽい通信端末をとりだして、ホテルで留守番をしてくれている青い目をしたお人形さんに連絡。
「あー、ルーシー。たまさぶろうにお願いしてやっつけちゃって。そのあとは富士丸に亜空間内に回収してもらい、みんなで解体作業をお願い」
「了解しました。ついでにタコヤキ用のプレートも制作部に依頼しておきましょう。ではのちほど」
何も語らずとも女主人の想いを汲みとってくれる出来る従者がいて、わたしは果報者だよ。
雲を突き抜け、はるか天空より飛来した二筋の光が、巨大レッドピピルと巨大スルメの急所である眉間をズバンと貫く。
一撃必殺にて仲良く倒れた海獣たち。
呆気にとられているバアちゃんを尻目に「楽勝だったな」と余裕しゃくしゃくな笑みを浮かべていたら、ちょっと予想外の事態が発生。
巨体が揃って倒れた余波にて、最後の最後に大津波が発生しちゃった!
気づいたときには、すでに陸地へと迫る水の壁が目の前に。その高さ、ホテルの三階部分に相当するほど。
やっべー。こんなのを喰らったら、わたしやアルバはともかく、バアちゃんが海の藻屑になっちゃうよ。
あわててバアちゃんを担いだ鬼メイドとともに、二人して内地へと砂を蹴って駆け出す。
とりあえず最寄りの背の高い建物へと避難しようと浜辺から抜け出したところで、今度は空の上から何やら得体の知れない圧力を感じた。
空が落ちてくる。
そんな感覚にて、おもわずふり返って見上げれば、ぶ厚い黒い雲を割ってやたらと長い何かが降って来る? いや、これは落ちてくるのが正解いぃっ!
ちょうどビーチに沿うかのようにして、波打ち際にドスンと落ちてきたのは蛇体のような存在。
ギリギリこれの下敷きとなる難から逃れたわたしたち。
もしもあのタイミングで駆け出していなかったら、たぶんペチャンコになってたよ。
あぶねぇ、でもおかげで助かった。
なにせこいつのカラダが防波堤代わりになってくれて、津波の大部分を防いでくれたから。
あまりの衝撃シーンの連続にて、すっかり目を回して気を失っているバアちゃんをその辺に寝かしておいて、落ちてきた奴を確かめにいく。
極太にて長いカラダは、以前に遭遇した邪龍を彷彿とさせるが、こちらは体表が大きなウロコでびっちり覆われている。ウロコの色は深緑色から新緑へと美しいグラディエーションを描いており、けっこうキレイ。貝殻の内側の真珠層を用いる螺鈿細工みたいに、これも活用できれば、すごい工芸品が出来そうな気がする。竹姫ちゃんにあげたらよろこぶかも。
顔はヘビと竜を掛け合わせたよう。けれども開きっぱなしの口からは長い舌がだらりと伸びており、目に光もなく、とっくに絶命している。
それもそのはず、カラダに見合った立派な頭。その後頭部がばっくりと鋭く抉られていたから。傷跡の形状からして、おそらく、うちのたまさぶろうが放ったレーザーの巻き添えを喰ったと思われる。運の悪いことに射線上に重なってしまったのだろう。
たぶんモンスターなんだろうけれども、邪魔だからコイツも富士丸くんに頼んで亜空間内に収納しておくか。
だって、このままだとビーチが使えないからね。
波も次第に収まりつつある。
いつしか雨もすっかりあがり、雲間からは陽の光が幾筋も地上へと伸びていた。
海の荒れはレッドピピルとスルメのせい。そんでもって空の荒れはおそらく落ちてきた巨大ヘビっぽいやつのせいだったみたい。
どうして一度にこんな連中が地上の楽園に集まったのかは不明だが、とりあえず一難は去った。たいした被害も出ていないから、じきに楽園は元のにぎわいを取り戻すだろう。
しばらく経ってから、アルチャージルの大通りに新たな観光スポットが誕生する。
それはこの地を襲った脅威。三匹の凶悪な巨大モンスターらを前にして、舞い踊る一人の巫女姫の銅像。
左上半身を晒す勇ましい肩脱ぎ姿。お椀型のキレイな胸元を晒しながらも、一心に祈りを込めて踊る乙女の姿には、卑猥さは微塵もなく、むしろ気高い美しさがそこには表現されてあった。
また、この巫女姫を称える祭りも毎年開催されることになり、アルチャージルに一層の繁栄をもたらすことになるのだが……。
「あれって、モデルはバアちゃんのはみ乳音頭だよねえ」
「いや、さすがにアレを忠実に再現するわけにはいかないでしょう」
真相を知るわたしとアルバが「どうなのよ」と首をかしげていたら、青い目をしたお人形さんは言いました。
「いつの時代も、不都合な真実にはフタがされるものなのです。英雄譚なんざ、あらかたこんなもの。捏造、脚色、盛られてなんぼ」と。
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