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181 老巫女
しおりを挟む光があれば影が生まれる。
その光が強ければ強いほどに、影もまた濃く深くなる。
華やかな地上の楽園アルチャージル。
その華やかさの裏に取り残されたかのような区画。
いわゆる裏路地、貧民街というような場所。
この地に住まう連中の事情はさまざま。
酒やギャンブルで身を持ち崩した者、犯罪に手を染めた者、表舞台からはじき出された者、気づいたらここにいた者、ここで生まれここしか知らない者、這い上がろうともがく者、とっくに諦めてしまった者……。
建物が密集しており、日当たりが悪い細い路地。風も満足に抜けないから、熱気がこもりがちにて、これが湿気とあいまって、いっそうの不快さを演出する。
そんな路地を奥へと進んでいたのは、わたしことアマノリンネ。手には果物がつまったカゴを持ち、お供はルーシーのみ。道幅の狭さと建物の強度を考慮して、アルバにはリリアちゃんたちのお守りを頼んだ。
こんな場所ゆえに人形連れの小娘がうろついていれば「げへへへ、お嬢ちゃん。どうしたい? 迷い込んだのかなぁ」などと言って近寄って来るオオカミの一匹や二匹あらわれそうなものだが、ちっとも出てこない。
おもいのほかに治安がいいのか、あるいは表にいけばもっと旨味のある獲物がごろごろしているからか。
そもそも静まりかえっており、気配が希薄。住民たちがどれぐらいいるのかも不明。
そんな半ばゴーストタウンのような場所の片隅にて、小さな店をかまえている老婆。
つい先日、海獣騒ぎのおりに、浜辺にてはみ乳音頭でフィーバーしていたバアちゃん。
ちっとも効果のない踊りを張り切り過ぎて、腰をぐきり。騒動の後に家へと送り届けたのだけれども、その後の経過がちょっと気になったので、こうしてお見舞いへと出向いたわけである。
店の扉は開け放たれている。どうやら営業中みたい。
「じゃまするよー」と声をかければ、「あいよー」との返事。だから治ったのかと安堵して足を踏み入れたら姿がない。あれ? とキョロキョロするもやっぱりいない。
視界に入るのは薄暗い店内の棚に並んだ、ガラス瓶の中の怪しげな品ばかり。雰囲気がちょっと駄菓子屋に似ているかも。
すると床の方から「こっちこっち」と声がする。
視線を下げてみると、そこには床に転がっている等身大ミノムシのミイラ。
あやうく悲鳴をあげそうになるも、よく見たら寝袋みたいなのに入ったバアちゃんだった。
「まだ腰の具合がわるいんなら、おとなしく寝てたら? どうせ客なんてほとんどこないんでしょう」
「へん、リンネはわかってないね。商売ってのはその『ほとんど』が大事なんだよ」
閑古鳥が輪唱にて鳴きまくっているお店の店主の言葉。
いいことを言っているようだけど、説得力は皆無だ。
バアちゃんは、ここで魔法薬師、占い師、姫巫女を兼業で営んでいる。
メインの収入は薬の販売。薬といっても腹痛だったり熱冷ましだったり、近場の森で拾える薬草と魔法にてコネコネされた苦い丸薬のこと。味はマズく、効果はほどほど、お値段はお安めにて、常備薬として庶民の味方らしい。
占い師としての腕はかなり怪しい。インスピレーションに頼ったものらしく、必ずしも閃くわけじゃないので、時々に応じてそれっぽいことを口にしてお茶を濁すそうな。とりあえず縁起のいいことを言ってやれば、相手はよろこぶんだって。地味に性質が悪いな。
姫巫女は先祖代々受け継がれてきた職。地域密着型のシャーマンみたいなもの。かつては祭祀を司っていたというが、今ではそんな習慣も失せて、完全にお飾りの称号に成り下がっている。ならばどうしてそんなものを後生大事に名乗っているのかというと、「箔付け」なんだそうな。肩書はいくらあっても困らない。年寄りの生きる知恵らしい。もっとも姫巫女の方は、跡継ぎもいないのでバアちゃんの代で廃業になりそうとのこと。
というか、この区画自体がいずれ消滅するらしい。
繁栄と拡大の一途を辿っているアルチャージル。その余波にてこちらにも開発の手が伸びているんだとか。やたらと人の気配がしなくって、悪党の姿もないとおもったら、とっくに立ち退き料を貰ってとんずらしちゃっていたから。
「だったらバアちゃんも、貰うモノを貰って表通りにでも店を構えたらいいのに」
そんなことをわたしがつぶやくと「もう歳だし、いまさら動きたくない。というかめんどうくさい。知ってるかい? 引っ越しってやつは、とってもタイヘンなんだよ」とバアちゃん。そこから引っ越し貧乏にまつわる話がグダグダしばし続く。労力、時間、費用、込々にて貴重な人生の無駄遣いの筆頭うんぬんかんぬん。
長話なので詳細は割愛するが、ようは「かったるい」ということであった。
ちっとも当てにならない占い師。
だからこそ気軽にたずねることも出来るわけで、ちょいとわたしは相談ごと。
それはここのところのトラブル続きについて。
アルチャージルに来てからこっち、ちょっと多すぎるもの。
すると、ふへふへ前歯が一本抜けた口で笑っていたバアちゃんが、わたしの眼を覗き込むなり急に真顔となった。
しわしわの顔面から、するりとシワが消えて、能面のようになる。
あまりの豹変ぶりに、こちらが呆気にとられていると、バアちゃんの口からぽつぽつと低い声が垂れ流されはじめた。
「海岸線を西へ。そこに小さな湾がある。かつては漁村であったが、それも朽ちて忘れられてひさしい。それより内地を奥へと進めば廃屋があり、すぐ脇に古井戸があるはずだ。ここにお主を苦しめ、アルチャージルに災いをもたらす邪悪な存在が……」
それは地の底から響くような、まるで別人の声であった。
言葉はそこで途切れて、ガクリとうなだれたバアちゃん。
てっきり昇天したのかと、あわてて声をかけようとしたら、すぐに顔をあげてにっこり笑って手を差し出し、「占い料をおくれ」
渡したコインの枚数を数えながら「ひさしぶりにキタねえ。とりあえずは行ってみるといいよ。自分で言うのもなんだけど、こっちの占いはけっこう信用ができるから」とバアちゃん。
まぁ、占いなんて当たるも八卦というし、散策がてらちょいと足をのばして、怪しげなお告げに従ってみることにしたのだけれども。
……あったよ。廃屋と古井戸。
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