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185 白い飛竜
しおりを挟むアルチャージルに大いなる災いをもたらす危険のあった石のコケシ。
その解呪に成功し、ようやく肩の荷が降りたわたしは、ビーチの砂浜に寝転がり日光浴。熱せられた砂と、降り注ぐ日差しに挟まれて、ほどよい焼き加減が心地よい。
バカンスの日程も残すところあと二日にして、ようやく平穏を手に入れた。
リリアちゃんとマロンちゃんは入浴施設が併設されてあるエステへ。休暇の総仕上げとして己を磨き上げるとのこと。
モランくんは部屋でゆっくり読書をして過ごしている。
目ざわりなグリューネはここのところカジノに入り浸っているらしい。どうか大惨敗して身ぐるみ剥がれますように。昼間だからみえないけれども、空のお星さまにわたしは祈る。
「休暇に来たのに、ちっとも休んだ気がしないよ」
「いろいろありましたからねえ」
鬼メイドのアルバが冷たいドリンクの入ったグラスを差し出しながら、主人を労う。
これを受け取りノドを潤しつつ「帰ったらしばらくは竹姫ちゃんのところでゴロゴロする」とわたし。
すると青い目をしたお人形さん。「いつもどおりですけど、それがよろしいかと。どうやらリンネさまは動いた端からトラブルを招き寄せているみたいですから」
自分でもよくわからない高レベルゆえに、魔力量は膨大。
そのくせ健康スキルのおかげで、いくら使ってもちっとも減らない恩恵ゆえに、「歩く究極電池」と言われてひさしいこの身。
でも膨大過ぎて自力でのコントロールは不可能。それゆえに魔法はさっぱり。おかげでじゃんじゃん搾取されるばかりの生活。
けれどもその魔力の波長が呪系とはとっても相性がいいらしく、向こうが勝手に元気ハツラツ。「リンネちゃーん」と笑顔で手をふりながらスキップで駆けてきちゃう。
我ながら難儀な体質だ。
だからこれからは、極力、リスターナに引き篭ってモゴモゴして過ごそう。あと今度からはしっかり解呪料を請求しよう。タダ働きなんて、精神衛生上好ましくないから。
そう決意した矢先のこと。
キラリとお空に光る何かが目に入った。
「トリ? モンスター? それともカーボランダムの飛行機?」
「いえ、アレは……どうやら飛竜のようですね」とルーシーさん。
「それもかなり優れた個体のようです。速い。見る間にぐんぐんと近寄ってきますよ」とはアルバ。
アルチャージルはリゾート地ゆえに、交通網が整っているから、飛竜や飛竜船などの発着場もちゃんと備わっている。
だから飛竜が出入りしていても特に珍しくもない。
ないのだけれども……。
「気のせいかな? なんだかまっすぐこっちに向かってきているような」
おかしいぞ。石のコケシの解呪には成功したはずなのに。
どうして、またぞろトラブルが舞い込むの? うーん。
わたしのお悩みなんぞお構いなしに、状況は刻一刻と目まぐるしく変化。
近づくほどに明確になる飛竜の姿。でもその姿にわたしは「えっ」と驚きの声をあげる。
白い個体なんてはじめて見たけれども、全身が朱に染まっている。あちこちに矢や槍が突き刺さっているし、裂けた傷口から血が流れており、なんとも痛々しい。
背中に誰かを乗せているらしいが、ここからではその姿は見えない。
とにもかくにも尋常ではない様子。ひょっとしてすでにコントロール不能状態なの!
そんなものがドカンとビーチに突っ込んでくるんだから、当然のごとく浜辺は大パニックに陥る。
わーきゃーと逃げ惑う連中を尻目に、わたしたちはあえてその場を動かなかった。
逃げようとおもえば余裕で逃げられた。
けれどもそれを留めさせたのは白い飛竜の瞳を見たから。やさしくも強い光が宿る金色の眼。
ズタボロになりながらもこちらへと一心不乱に突っ込んでくるその瞳に、わたしは確かな意志を感じた。いや、身命を賭して何ごとかを成そうとする気迫に圧倒されたのかもしれない。
種族の垣根なんて関係なしに、熱い想いがズドンときたよ。
だからわたしは即座に鬼メイドに命じる。
「アルバ、あの子を受けとめて」
「応っ!」
飛竜の平均全長は五メートルを超える。全身が筋肉質にて、猛スピードで飛来するこれを正面から受け止めるなんて芸当、いくら巨躯を誇る魔族とて至難の技。ダンプカ―どころか列車の前に身を投げ出すような自殺行為。
けれども数多の修行を経て、魔王討伐者となったいまの彼女ならば可能だと、わたしは信じた。
「ルーシーは『だいたいよくなるポーション』の用意と治療の準備を。あの飛竜はぜったいに死なせちゃダメだ」
「了解しました」
「そっちはお願いね。背中の荷はわたしが引き受ける」
女主人の命を受けて鬼メイドが飛竜の進路上正面にて、両腕を広げて仁王立ち。
わたしはそこからすこし後方へ下がったところでスタンバイ。ルーシーは亜空間より分体らの手を借りて、せっせとポーションのビンの詰まったコンテナを搬出中。
そうこうしているうちに、ついに白い飛竜がこちらに到達。
頭から突っ込んでくるのを紙一重でかわし、長い首の部分をやり過ごしたアルバ。鬼メイドの腕が狙うのは胴体部分。もしもあの勢いにて首を掴んだらボキリと折れてしまうかもしれないとの判断。
「ズン!」腹の底に響くような重たい音が鳴る。
正面からがっつりと組み合うことになった飛竜と鬼メイド。
接触の勢いにて、ずずずと後方へ押しやられるアルバのカラダ。だけれども、その腰が浮くことはなく、地面から両足の裏が離れることもない。
動きが完全に静止したとき。
地面には二本の線が三メートルも刻まれていた。
アルバが白い飛竜と接触。
その衝撃により背後にのっていた何者かの身は大きく宙へと投げ出される。
これを空中で受けとめたわたしは驚いた。
なぜなら腕の中にあったのは、まだまだあどけなさが残る幼女だったから。
意識を失ってぐったりしている銀色のトリの巣頭の子が、うなされながら「おかあさま」とつぶやく。その頬に一筋の涙が流れた。
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