わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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184 夏の怨念。デート編

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 朝の浜辺にて、爽やかな海風を受けながら並んで歩く乙女と石のコケシ。

「海がキラキラしてとってもきれいね」
「そうかい? オレの瞳にはキミの方がきれいにみえるよ」

 パシャパシャ、水をかけ合う乙女と石のコケシ。

「えいっえいっ」
「ハハハ、水も滴るいい男ってね」

 波打ち際をきゃっきゃうふふと追いかけっこをする乙女と石のコケシ。

「ほうら、つかまえてごらんなさい」
「ちょっと待てよー」

 こんもり砂山にて仲良くトンネル堀り遊びに興じる乙女と石のコケシ。

「もうちょっとで開通よ」
「オレのハートはとっくに開通済みさ。砂にまみれた指先もステキだ」

 ちょっとつかれたので休憩がてら、海辺のおしゃれなカフェテラスでジュースをちゅちゅう飲む乙女と石のコケシ。もちろんグラスは一つにストロー二本。

「冷たくて甘くておいしいね」
「そうだな。ドキドキしてとっても美味しいよ」

 海で遊んだあとは屋台が並ぶ場所へと足を運んで、ウィンドウショッピングを楽しむ乙女と石のコケシ。

「あっ、このイヤリング、かわいい」
「うん。とってもよく似合うよ。今日の記念にプレゼントしよう」

 茜色に染まる空と海。
 沈みゆく夕陽を見つめる乙女と石のコケシ。

「あーあ、もう一日が終わっちゃたぁ」
「キミと過ごす楽しい時間は、あっという間だね」

 アルチャージルのビーチにて、人々の耳目をおおいに集めていることが二つある。
 ひとつは突如として降臨した、類まれな美貌を誇る女性。
 すれちがった人間種の男たちがみなふり返らずにはいられない。そして見事な肢体に目が釘付けとなってしまう。鼻の下はデロンとのびまくり。
 おかげでリゾート地にて痴話げんか指数が急上昇。
 この仲裁のために駆り出される警邏隊たちの出動件数が劇的に増えて、過去最高記録を叩き出すことになった。
 あとひとつは浜辺や街中に出没する不審人物。
 石の像を片手に、あちらこちらをふらついては、ぶつぶつぶつぶつ。
 ときには、にへらと不気味な笑みを浮かべている。
 いけない薬物でも乱用しているのか、どことなく目が逝っちまってるようだ。
「なんか、ヤバイ女がいる!」との目撃情報多数につき、通報も何件かあり、巡回中の警邏隊が職務質問をかけようとしたのだが、猛ダッシュにて逃げられた。
 その逃げ足たるや「まるでイカズチのようであった」と目撃者は語る。

 もはやくどくど説明するまでもなかろう。
 話題の美女はグリューネ。
 不審人物とはわたしことアマノリンネである。
 冒頭のやつはあくまでイメージ映像だ。
 そして巷のウワサこそが、ごく一般的かつ客観的な視点から眺めた石のコケシとわたしの真なる姿。
 ただでさえ日頃から、青い目をしたお人形さんを抱いてウロウロしては、けっこうあちこちで不審がられていたというのに、ここにきて相手が石のコケシになっちゃった。
 ビスクドールとコケシ。広義においてはお人形と同類と言えなくもないが、ついに手足すらも無くなるという退化っぷり。
 もしも夜の有料店ならば即座に「チェンジ!」と叫んでいる。
 だが、わたしは耐えた。がんばったんだ。恥も外聞もかなぐり捨てて、自分のバカンスを守るために、リリアちゃんたちの平穏を守るために、ひいてはアルチャージルに住むすべての者たちをも呪染から守るために。身を粉にして朝から晩まで働いた。
 通りすがりの母子から「ねえねえお母さん、アレなあに?」「しっ! 見ちゃダメ。あれはかわいそうなお姉ちゃんなの。だからそっとしておいてあげなさい」とか言われちゃったとしても、挫けなかった。
 カップルやら家族連れから容赦なく浴びせられる憐れみの視線。これがブスブスと突き刺さるのにも必死に堪えた。
 炎天下の最中に警邏隊の連中との鬼ごっこ。
 半べそをかきながらも、逃げ切った。もう、途中から自分が何から逃げているのか、よくわからなくなった。
 そうやって丸一日を費やしたというのに、石のコケシは「うーん、なんかいまいち」とかぬかしやがった。
 この野郎……、いっそ魔導砲で塵ひとつ残さずに消し飛ばしてやろうか。それともハマナクの外道勇者タロウと同じように、ペンシルロケットで灼熱の太陽に放り込んでやろうか。
 ふつふつとわき起こる怒り。
 しかし、すっかり気力を使い果たしているわたしは、夜の海が見えるレストランのテラス席にて、テーブルに突っ伏してぐったりぐんにゃり。怒りは怒りとして、それを発散するための行動を起こすエネルギーは、もうない。
 ただ虚しさと恥ずかしさにて、心中ぐちゃぐちゃ。いまいち思考がまとまらない。
 いかなることにも動じないはずの神鋼精神に、ピキパキと細かいヒビ割れが生じているのを感じるよ。
 石のコケシに詰まったヤバイレベルの呪を解消するための、夏のデート作戦。
 この分では二日目に突入するハメになるかもしれないと、わたし、げんなり。
 なお本作戦中、ルーシーの姿はずっとそばにいなかった。「せっかくのデートなのにお邪魔をするのもなんですから」とか言っていたが、巻き添えはごめんだと主人を置いて逃げただけである。ひどいお人形さんだ。
 あー、明日のデートプラン、どうしよう……。
 というか、人生初めてのデートの相手が呪われた石のコケシって。
 わたしは、もうダメかもしれない。

 テーブルに突っ伏していたら、「あんた、何をやってんのよ? すっかりビーチの話題を独り占めじゃない」と声をかけてきた者がいた。
 気だるげに首から上だけ動かして顔を向けたら、そこにはグリューネの姿。
 驚いてわたしはガバッと上半身を跳ねあげる。だって彼女の動向はずっと宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋にて監視されているハズだったから。
 迂闊に接近遭遇したら、こちらの素性がバレるおそれがあったし、それとなくリリアちゃんらとの動線や行動が被らないように注意していたというのに、いったいどうして?
 そのとき懐のスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
 連絡を寄越してきたのは終日、たまさぶろうの艦橋内に避難していたルーシーさん。

「すみません、リンネさま。あまりの衝撃映像の連続にて、艦橋クルーのメンバー一同、ずっと爆笑しっぱなしで監視業務に盛大に支障が。ぷーくすくす」

 端末越しにゲラゲラ笑い声が漏れ聞こえてきやがる。
 お笑い番組とかで効果音代わりに流す、笑い声があるでしょう?
 あんな感じなのがずっと流れているよ。ちくしょう。

「うん? この石像がウワサのやつか。あら、おもったよりもかわいらしいじゃない。どこで買ったの? このお土産」

 呪い満載とも知らずに石のコケシを、何げに手に取ったグリューネ。
 彼女の蒼い双眸にて間近からじっと見つめられた石のコケシ。あれほど達者だった口はすっかりなりを潜めて、おとなしくなった。典型的な内弁慶なシャイボーイっぷり。
 とか思ったら、急にパラパラと砂の粒となって足下より崩れていく。

「えっ、な、なに!」

 突然の変化に驚いて、グリューネが石のコケシを放り出す。
 ポーンと飛んできたそいつをわたしがキャッチ。
 すると石のコケシ野郎「きゃっ、巨乳の美人のお姉さんにかわいいって言われちゃった。ウホウホ、余は満足じゃあ」
 で、そのまま完全に崩れ去って、あっさり逝った。
 石のコケシはとんでもないチョロインだった。
 あぁ、チョロインってのは、ライトノベルとかに登場する、尻がるビッチのことだよ。
 ちょっと手を差し伸べられただけで、コロリと主人公に転ぶバカ女ども。
 たとえ命を救われたって、そんな簡単に相手に惚れたりしないってーの。
 もしも女心がそんなに単純だったら、世の中のモテ職業の上位を消防署員、警察官、自衛隊員が占めているはずだもの。

 女性に免疫のない非モテの石のコケシ。
 蠱惑の女スパイにあっさり陥落。
 これにて呪染の脅威は回避された。
 ハハハハ、わたしの一日の苦労はいったいなんだったのだろう……くすん。


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