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193 帝都潜入
しおりを挟む六つの国が連結することで超大国として君臨しているウインザム帝国。
中央に位置するのが帝都。
周辺よりヒト、モノ、カネ、あらゆるものがこの地に集積され、そして再び各地へと分配されてゆく。
その都市部分は様々な種族が混在するゆえに、すべてがごちゃ混ぜ。統一感は皆無。けれどもすべてが機能を果たすべく融和している。
ときに譲り合い、ときに主張し、ときに妥協もする。
建国当初から気の遠くなるような年月をかけて、コツコツと積み上げてきたものの結実。
制度だけの問題ではない。住民らの心情をも混ざり合うことで、成した奇跡の産物。
初めてこの地をおとずれた者らは、誰もがまず困惑する。あまりの雑多感に圧倒される。でも気がついたらその居心地のよさにどっぷりと浸かっている。
懐かしくも新しい、それでいて刺激に溢れた帝都の空気にハマり、そのまま居つく者も少なくないという。
だがこの繁栄の根底には、魔族を共通の敵と認識し、聖地奪還の御旗を掲げ、信仰にて繋がり、軍事統制されてきたという歴史が深く根差している。
聖魔戦線にて流された多くの血でできた湖の上にて、ゆらゆら浮かぶ木の葉の舟。
そんなイメージが一瞬、わたしの脳裏をかすめた。
人混みの中を縫うようにして歩いていたのは、頭からすっぽりとフードつきのローブを着込んだわたしことアマノリンネ。見えているのは目元のみ。
ただいま、情報収集のために帝都に単独潜入中。
他にも同じような格好にて正体を隠しているセレニティやルーシーの分体らも、調査に動いてくれている。
求めているのはノノアちゃんのお母さんたちの行方。
はるか上空に待機している宇宙戦艦「たまさぶろう」からも地表を探知してもらっているけれども、結果はあまりかんばしくない。
帝都はおもいのほかに対空防衛がしっかりされており、警戒が厳重。
常に大規模結界が展開されており、昼夜を問わず飛竜乗りで構成された部隊が頻繁にパトロールをしている。外部から出入りできる航路は限られ、もちろんそこにもしっかり見張りが立っている。飛竜船も多く航行されており、行き交う船にて空の上がとってもにぎやか。
これではいかにカモフラージュ機能で姿を隠そうとも、あまり高度を下げられない。
また地上も大小様々な建物が入り乱れており死角が多すぎる。なにより帝都はズバ抜けて広く、住人もたくさん。ギャバナの主都でもたいがいだと思っていたのに、ここはそれの数倍を軽く超える規模。リスターナ中の都や街や村を全部合わせたよりも大きいんだから、いつもみたいにサクサクとはいかない。
列に並んで待つことしばし。
ガタンゴトンとやってきたのは二両編成のちんちん電車。
そう、電車だよ、電車! しかも二階建てだよ。リンネちゃん大興奮。
いやはやこれには驚いたねえ。もちろんうちのリニアモーターカーっぽいのに比べたらオモチャみたいなものとはいえ、都市交通の一つとして帝都中に路線が張り巡らされている。
おそらくは異世界渡りの勇者の入れ知恵だろうけれども、ちゃんと実用化に漕ぎつけていることがスゴイ。しかもコイン一枚で帝都内なら乗り放題とか、素晴らしい公共サービス。
聖クロア教会の総本山であるオスミウムの摩天楼っぷりにも度肝を抜かれたもんだけれど、帝都はそれの上をいくね。少なくともわたしが知るかぎりでは、うちを除いたらここが間違いなく一番だよ。
せっかくなので景色がより楽しめそうな二階席の方へとお邪魔しようとしたら、やたらと貫禄のあるおばちゃん車掌から、しっかり追加料金を徴収された。
どおりであまり客がこっちに来ないハズだよ。ちゃっかりしていやがるぜ。
とはいえ、おかげで二階はガラガラのほぼ貸し切り状態。
先頭車両の最前列の席に陣取り、わたしは流れる景色を独り占め。
田舎者丸出しにて大いにはしゃぐ。ヒャッホー。
乗ったところから十二番目の停留所にて下車。
目の前にそそり立つ大きな建造物が、わたしの目的地。
ここは市役所の出張所みたいなところ。帝都はあまりに広大すぎるので、いちいち中央区にある役所までみんなが押し寄せていたら、タイヘンなことになる。とても処理しきれないので、各地に同様の建物が配置されてあるそうな。
帝都のことを調べるにあたって、あまりの規模と雑多ぶりに、いつもの強引なローラー作戦は無理と早々に判断したリンネ組一同。
いや、やってやれないことはないけれど、たぶんそれをやっちゃうと大騒ぎになる。最悪、帝国と戦なんてことにもなりかねない。そして「帝都、火の海」とかいう情報が世界中を駆け巡ることに……。
そんなわけで、とりあえず現地にて手分けし、地道に探すことにしたのだけれども、さて、困った。
土地勘皆無、知り合い皆無、予備知識も皆無、右も左もわからない状況にて、自分が早々に迷子になる始末。
それで通りでオロオロしていたら警邏の人に「どうかしましたか?」と声をかけられた。相手の表情からして、こちらを不審におもったというよりも、親切心からの行動っぽい。
とはいえ、まさか本当のことをベラベラ話すわけにもいかず、わたしは適当に「友人宅を探しているの」とお茶を濁す。
すると彼が「それなら出張所に行ってみるといいよ。窓口でいろいろ相談にのってくれるから」と教えてくれた。
だからダメ元で訪ねてみることにしたのだけれども。
建物内に一歩入ったら、見上げるほどの高い天井にポカン。まるで高級ホテルのロビーみたい。
入り口脇にあった受付にて、たずねたいことがあると告げたら、案内されたのは観光案内の窓口。
そこにいたのはガラスの彫像のようなお姉さん。
なんという造形美! あまりの美しさゆえに、目ん玉をひん剥いて見惚れていたらクスクス笑いながら「自分はエクシプタ種族なんですよ」と教えてくれた。
エクシプタ種族は帝国を形成する六つの種族のひとつにて、全身が彼女のように水晶体や鉱石などで出来ており、まるで歩くマネキンのような人たち。
引退を表明した現皇帝ダンガー・ル・ウインザムも同じ種族出身にて、彼は青白いブルーダイヤのような外見をしているそうな。
そして観光案内の受付にいたキレイなお姉さんは、見た目のみならず中身も美人さんだった。
「はいはい。星読みの一族の方々ですか? みなさんが逗留なされている先はわかりかねますが、長であるベル・ルミエールさまでしたら、たぶん中央区の北東部にある迎賓館に滞在なされているはずですよ。次期皇帝選定の儀が近いですし、それにともない最高評議会に参加するために、北の地より来訪しているとの情報が今朝の新聞に載っていましたから」
「えっ! ここって新聞があるの?」
「はい、御覧になられますか。こちらです」
そう言って、差し出されたのはページ数こそ薄いけれども、まごうことなき新聞紙。帝都日報って文字からして、たぶん日刊。
電車のことといい、新聞のことといい、この国はうまく勇者の知識を活用しているようだ。さすがは超大国。抜け目ねえ。
新聞を開くと、文字がびっちり並ぶ。紙面に写真や絵の類はなしにて、ちょっと読みづらい。
お姉さんが言った通りに来訪したベル・ルミエールが迎賓館に滞在中という記事がある。
問題はこの情報をどこまで信用していいのかということ。
最悪、こちらをおびき寄せる罠という可能性も捨てきれない。念のためにと神殿に網を張るぐらいの相手だし、情報操作ぐらいやりかねない。
とはいえ他に有力な情報もないことだし、とりあえず当たってみるとするか。
「よろしければ、もう読んでしまったので差し上げますよ」
お姉さんのご厚意に甘えて新聞をもらい受けると、わたしは礼を述べてから出張所をあとにする。
また、電車に乗ろうかとしばし逡巡するもやめて、少し歩くことにする。
見知らぬ土地の見知らぬ街かどを歩く。
「あぁ、わたしは異邦人」とか気取りつつ歩きながら、懐よりスマートフォンっぽい通信端末をとり出し、ルーシーに連絡を入れた。
「もしもし、どうやらノノアちゃんのお母さんは中央区の迎賓館にいるみたいだよ」
先ほど得た情報を伝えると、向こうからも一つ気になる情報を入手したと言われた。
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