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214 黒いカグヤ姫
しおりを挟む竹から生まれて、美しく育ち、やがて数多の男たちを破滅させ、最後にはすべてを放り出して月へとかえるカグヤ姫。
やってることは恩知らずのクソビッチ。
なのに、なぜだか世間のイメージがとってもいい女。
「マドカちゃんは、まるでカグヤ姫みたいだね」
最初に、そう私に言ったのは誰であったか。
たぶん幼稚園に入る前ぐらいの時期だったとおもうのだが、詳細は覚えていない。
ただ、それがきっかけとなって、私が竹取物語の絵本を手にしたのだけは確かだ。
そして抱いた感想は、おおむね先に述べた通り。
ショックを受けた。でも納得もした。
なぜなら私の顔を見る者みんなが「マドカはかわいい」「マドカはきれい」と言うばかりであったから。
実の両親からしてもそう。
行く先々では、うんざりするほどの娘自慢。なのに周囲がそれに追従する。
みんながみんな私の顔をみて、これを褒める。
それがたまらなくイヤだった。
褒められるほどに、まるで自分が縁日の屋台で売られている、お面にでもなったみたいな気分になってくる。
誰もが私の顔は見ているけれども、それ以外はまるで見ちゃいない。そのくせ勝手なイメージばかりを押しつけてくる。
はじめのうちこそは、どうにかこれを払拭しようと足掻いていたが、じきに諦めた。
自分自身が変わるのもたいへんだというのに、他者の意識を変えるのなんてその比じゃあない。ましてや相手が大勢ともなれば。
どこまでいっても独りスモウ。意地になっている自分が惨めにて、なんともバカらしく、虚しさのあまり、じきに心も折れた。
周囲のみんなが私にカグヤ姫として生きることを望んでいる。
ならば諦めておとなしくその通りでいようと決めた。
小学校三年生の時のこと。
ある男子が私にちょっとしたイジワルをした。いま思えば、気になる相手についちょっかいを出してしまっただけのこと。歳相応のかわいらしい行動。
私も少し驚いたが、べつにだからどうこうとは考えない。
なのに周囲の反応はちがった。
女友達らは猛烈に怒った。それに他の女子たちも怒った。クラスメイトの男の子たちもそれに倣った。
結果として、その子はみんなから無視され、イジメられて、学校に来なくなり、ついには転校してしまった。
ヒドイ話だ。
なのにみんなは「よかった」と言う。
まるで自分たちが正しい行いをしたかのような物言いと態度にて、見ていてとても気持ちが悪かった。何もかもが歪んでいる。
これと似たような話が、以降、ときおり私の周囲で起こるようになる。
私はそんなことを望んじゃいないのに。
そしてついにはとり返しのつかない事態が発生した。
高校にてクラスメイトが死んだ。
校舎の屋上から飛び降りたのだ。
授業中の出来事である。
多くの生徒たちが自殺の瞬間や無残な遺体を目撃することになり、校内は半狂乱となる。残された遺書にはイジメを示唆する内容が書かれてあったので、騒ぎはさらに大きくなった。警察やマスコミも動き出す。
その渦中にて、遺書に実名にて告発されていた加害者たちが、揃って口にしたのは私の名前。
「だってマドカちゃんの悪口を言ったから」
「だってマドカちゃんにひどいことをしたから」
「だってマドカちゃんにイジワルするから」
改めて言うが、私は唯の一度として「誰かをどうこうして欲しい」なんて、口にしたことも、態度で示したこともない。
すべては周りが勝手にしたこと。
だが、すべての発言や行動の中心には私の名前があった。
その結果なんて、いちいち詳細に語るまでもないだろう。
周囲はどこまでも勝手だった。
あのままではいずれ、私は遠からず自ら命を絶つ選択をしていたかもしれない。
そんな時だ。クラス全員がノットガルドに召喚されたのは。
転移される際に、神を名乗る存在より提示されたリストの中から、私が選んだギフトは「禍還元」というもの。
これは他人を不幸にするほどに、自分の能力が高まるという奇妙なチカラ。
でもすでに人間不信にて自暴自棄になっていた私のために、まるであつらえたようなギフトじゃないか。リストの中に見つけたときには、おもわず声をあげてゲラゲラと笑ってしまった。
そして世界の壁を超える際に目覚めたスキルは「仮面」であった。
こちらはいくつもの役を巧みに演じ分けられるというもの。
ずっとカグヤ姫という役を演じ続けてきた私に対するイヤミのようにて、これまた笑わずにはいられない。
こうしていつでも狂えるような状態で、私はノットガルドの地へと降り立つ。
その際の分配にて、同じ国預かりとなったクラスメイトらは十四名の男女。残りはどこかちがうところに送られたそうな。
勝手のちがう異世界の中にあってさえ、それでもなお無意識に真人間であろうとしていたのは、これまで受けてきた高い倫理教育の賜物なのだろう。
でも、このギリギリの状態を壊し、最後の引き金をひいたのは、皮肉にもその同じ教育を受けてきたはずのクラスメイトたちであった。
ぱっと見、私のギフトは邪悪そのもの。
これまでカグヤ姫ともてはやされ、手中の珠のごとく大切にされてきた存在。それが一転して穢れた存在と堕ちたとき、かつて生じていたのと同じ歪みが、こんどは私に牙を剥いた。
戦地へと向かう行軍中のこと。
夜更けに私は秘密裡に連れ出され、そこでクラスメイトの男子たちによってたかって乱暴された。
女子たちはそんな私の姿をみて、ただニヤニヤと笑っているばかりであった。
私はことがすむまで仮面スキルにて、人形となり己の感情を殺しやり過ごす。
するとそんな中で不思議なことが起こる。
私の中でチカラがずんずんと高まっていくのを感じたのだ。
通常は地道な訓練を積み、敵を倒し、数多の戦いと死闘を経てようやく成長するレベル。
しかし「禍還元」のギフトは、他者を不幸にすることで、自身の能力を高めてくれる。
つまり私は自分が理不尽な目に合っているというのに、同時に彼らや彼女たちをどんどんと腐らせている。罪を犯させることでみんなを不幸にしているというわけ。
なんとも奇妙な理屈だ。
被害者も気の毒だけれども、加害者も道を踏み外して人生を棒にふるから、可哀想とでも?
確かに悪いのは加害者、でも襲われる方にも原因があるよねとでも?
なんだかんだで自己責任の自業自得とでも?
ふざけるなっ! ふざけるなっ! ふざけるなっ!
とめどもない怒りが、ふいに巻き起こり嵐となって全身を駆け巡る。
私はゆっくりと手をのばすと、自分に覆いかぶさっている男の首を掴む。
このケダモノ、名前はなんといったか……。ぼんやりとしばし考えるも出てこない。
諦めて手にチカラを込めた。
ボキリという鈍い音ともに、涎をたらして男はあっさりこと切れた。
「なんだ、ずいぶんと簡単な話じゃないか。くだらない。私はこんなものをずっと後生大事にしていたのか」
突然の私の豹変。呆気にとられるクラスメイトたち。
次々に手近なところへと手をのばす。その腕は赤黒く変色しており、ずいぶんと逞しくなってまるで鬼の腕のよう。
私は鼻歌まじりにてクラスメイトらを始末していく。
みんなをたっぷり不幸にした私。そのチカラは、すでにこの場の誰もが抗えないほどにまで高まっていた。
ゆえに誰も逃げられない、逃がさない。
みんなみんな手折ってあげる。
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※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
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※カクヨム、なろうでも公開しています
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