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215 小さな虹
しおりを挟むお手紙をもらった。
たまに孤児院の子や、移住村の子たちから届くことはこれまでにもあった。
たどたどしい文字にて一生懸命に書かれた感謝の言葉。たまに「公園のブランコを増やして、リンネしゃま」とかいう、かわいらしいおねだりなんかも添えられているけれども、気持ちのこもった手書きの手紙を貰うと、やはりうれしいものである。
そんな中に混じって届いた一通。
キレイな筆跡にて内容は救援要請だった。
なんでもリスターナを目指して旅をしていたら、目前にて仲間たちが賊の手に落ちたとかで、どうか同じ異世界渡りの勇者のよしみにて、手を貸して欲しいうんぬんかんぬん。
いやいや、よしみもなにも、赤の他人なので何ら助ける義理もないんだけど。
ないんだけど、手紙の内容が本当であれば悪さをしている連中がいるということ。
それもリスターナの目と鼻の先にて。こいつは少々おもしろくない。
なによりこいつを放置しては、せっかく集まり出している観光客や商取引の相手にも迷惑が及ぶかと考えたわたしは、とりあえず手紙の送り主が滞在しているという村へと向かうことにした。
国境を越えたところにある森の中。
例の村へと通じる小道にて。
道を塞ぐかのように、真ん中でうつ伏せに転がっている黒髪の女を見つける。
若い娘が異世界渡りの勇者だということはひと目でわかった。
どうしてだか勇者同士は互いを認識できる。たとえ行き倒れと成り果てていても。理屈は知らん。
わたしとルーシーは、しばらくじーっと観察。
女はピクリとも動かない。まるで屍のようだ。あと金目の物は見当たらない。
だからわたしはかまわずムギュっと頭を踏みつけて、先を急ごうとした。
ルーシーもこれに倣う。でもルーシーは「ちょうどよかった」と、ついでに背中の上でクツの裏にこびりついていたドロを拭き拭き。森の中は湿気にて、ところどころぬかんでおり、履物が汚れやすいのだ。
お人形さんが、女の背にて軽やかにタップダンスを踊る。
金目の物を持たない死体になんぞ用はないと、わたしは安直に考えたのだが、青い目をしたお人形さんはソコに足拭きマットにするという活用法を見い出す。
それを見て、自分はまだまだだと痛感。
お人形さんは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
すると足下から聞こえてきたのは、苦しげな女の声。
そりゃあ、頭を踏みつけられて、顔を地面に押しつけられ、背中でゴシゴシされたら誰だって苦しい。しまいにはジタバタ暴れはじめた。
女は生きていた。そしてとっても元気だ。
だからそのまま「じゃあね」と通り過ぎようとすると、背後から「ちょっと待ちなさいよ!」と怒鳴られた。
ふり返ったら顔中ドロドロにて、乱れ髪の女がもの凄い形相にてこちらを睨んでいる。
美人さんだけど、なまじ顔立ちが整っているせいか、凄惨さが溢れており、般若のお面かとおもった。
「なにか御用ですか? ワタシたちはこの先の村に用事があって急いでいるのです」とルーシーさん。
お人形さんの塩対応に、女がさらに憤る。
「『なにか?』じゃないわよっ! どうして私を助けないのよ! それどころか踏んづけて通り過ぎるとか、あんたらいったいどんな神経をしているのよ!」
やたらと活きのいい行き倒れの女がぷりぷり怒っている。
挙句に何故だか「自分も村まで連れていけ」とうるさい。
それだけ元気ならば自力で大丈夫だろうと思うのだけれども。
わたしが率直な意見を口にしたら「足をくじいているの! お腹も減っているの! とっても疲れているの! 賊に仲間が捕まっちゃったから何とかしようとしたんだけど、ドジ踏んでこんな目にあっているの! だから助けなさいよ!」と女が逆ギレ。
ふむ。どうやらこの人が救援要請のお手紙を出した方だったらしい。
見れば確かに右足を引きずるような立ち姿。全身ズタボロにて、いかにもついさっき返り討ちにあって、ほうほのていで逃げ出してきました感が漂っている。
おおかたこちらの返事を待ちきれずに無策にて単身で突撃、逆にやられてしまったと。
よほど痛むのか歩くのも難しそう。でもおぶっていくのはめんどうくさい。ドロでこっちの服まで汚れるのもイヤだ。
だから「だいたいよくなるポーション」を与えたら、ひと口飲むなり女が盛大に吹いた。
コントばりの吹き出しにて、空気中に見事に散った細かな飛沫が、木漏れ日を受けてキラキラ小さな虹を描く。
なんとなくそんなことになりそうな予感があったわたしとルーシーは、いち早く脇に避けておりセーフ。
それでもって女はより一層怒った。
「なんてモノを飲ませるのよ! 私を毒殺する気かっ!」
般若が怒髪天を衝いている。軽く口に含んだだけですっかり治った右足にて、地面をダンダン鳴らし、地団駄を踏んでいる。
この女、ずっと怒ってばかりだ。
それにしても女のヒステリーとはかくも醜いものなのか。
わたしはつくづく思い知ったよ。今後は自分も気をつけるとしよう。
おもわぬ遭遇にて時間をムダにしたわたしたち。
お荷物を抱えて村に着いたのは夕暮れ前。なお、そのお荷物の名前はマドカというそうな。聞いてもいないのに自分から名乗ってきた。逆ギレ女は存外、礼儀正しい。
村は二十戸ほどの小さな集落にて、普段はたいてい無人。木材を切り出したり薬草などを採集したり狩りをするときに、宿泊所として利用されている場所なんだとか。
一行を出迎えてくれた、やたらと人相の悪い木こりのおっさんが教えてくれた。
空いている小屋ならどこでも自由に使っていいというので、適当なところを選び腰を落ち着けたときには、もうとっぷりと陽が暮れていた。
「夜の森で無闇に動くのは得策ではありません。今夜はゆっくりと休んで、明日の朝イチで救出に向かうとしましょう」
ルーシーの提案に、マドカは渋い顔をするも、わたしは素直に従うことにする。
二対一の多数決にて、とっとと夕食をすませて、早寝した。ぐぅ。
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