256 / 298
256 青い瞳の憂鬱
しおりを挟むひさしぶりにルーシーを伴いカネコカフェに顔をだしたら、わらわらとカネコどもに群がられて、もみくちゃにされる。
一つ目と出っ歯が特徴的なネコ型種族たちが、長い尻尾をうねうねさせてはまとわりついてくる。もっともカラダのサイズはトラ並なので、「モフモフいえーい!」などと楽しむ余裕はなく、ただただ苦しい獣毛地獄。
おーおー、そんなにわたしのことを心配してくれていたのかと感激しかけたけれども、よくよく話しを聞いてみるとちがった。
「起きてよかったにゃん」
「リンネが寝ている間、まるで生きた心地がしなかったにゃん」
「みんなピリピリしてるから、超こわかったにゃ」
「やさぐれ人形たちが、おっかなかったにゃん」
「目を合わせたら、きっとヤラれていたにゃん」
「うかつなことを言ったヤツは、バリカンで五分刈りにされてたにゃ」
「アレはむごすぎるにゃん」
「知り合いはトラ刈りにされていたにゃ。アレはちょっとイケてたにゃん」
「ストレスで寿命が半日は縮んだにゃん」
「寝る子は育つはウソにゃん。ちっともリンネの胸が育ってないにゃ」
「いいや、ちゃんと育ってるにゃん。ふてぶてしさが二割マシにゃん」
「破廉恥度もしっかり育ってるにゃ」
「かつてはそこはかとなく漂っていた破廉恥が、いまやアリアリにゃん」
「にじみ出る破廉恥パワーが全開にゃん」
「スーパー破廉恥の誕生にゃ」
どうやらわたしがちっとも目覚めないから、ルーシーを始めとしたリンネ組全体がイライラして雰囲気があまりよくなかったようだ。
図々しく他人さまの食卓に紛れ込み、堂々と夕食を平らげるカネコたちですらもが、ビビって敬遠していたということは、よっぽどであったのだろう。
そいつはすまなかった。身内が迷惑をかけたな。
が、最後の方の「破廉恥」連呼は許さん!
誰が破廉恥顔じゃ!
蜘蛛の子を散らして逃げるカネコたちを、「ウンガー!」とわめきながらホウキ片手に追いかけ回すリンネ。
カネコカフェに遊びに来ていた子どもたちも、これに混ざって「わー」「きゃあ」言いながら、いっしょになって元気よく笑いながら駆け回る。
なにがなにやらよくわからない状況を尻目に、いつの間にか避難していたルーシー。施設内のイートインスペースのテラス席にて、女主人の様子を眺めていた。
「あの分では、もう大丈夫そうだね」
お人形さんに声をかけたのは、カネコカフェの運営を任されている三人娘ジミンズのうちの一人。
「ええ、チエさんにもずいぶんとご心配をおかけしました」
ルーシーに深々と頭を下げられて、チエはあわてて手をふる。
「よしてよ。うちらこそミヨやメグともどもまとめて面倒を見てもらっている身なんだからさ。むしろこっちがいくら頭を下げても下げ足りないぐらいなのに。それにこうして勇者である私たちが安心して過ごせているのも、ルーシーたちが守ってくれているおかげなんだから」
異世界渡りの勇者はダブルチート持ち。
裏社会での市場価格は高騰しており、それを目当てにつけ狙う輩も多い。
ゆえに所属不明のノラ勇者は、格好の餌食となる。しかしこのリスターナでは、そんなマネは許されない。不心得者どもは国境でシャットアウト。よしんば運よくもぐり込めたとて、厳重な警備網に引っかかって即御用。もしくは秘密裡に処理される。
チエが感謝を述べていたのはこのことであった。
ルーシーとチエはしばし歓談しながら、リンネがはしゃぎまわっている姿を見つめていた。
会話の中でチエが何げに口にした「リンネちゃんは果報者だね」という言葉。
これを耳にしたとたんに、ルーシーが急に黙り込んでしまう。
どうしたのかとチエが怪訝な表情を浮かべると、青い目をしたお人形さんが「本当にそうなのでしょうか?」とぽつり。
「たしかにはたから見れば、お気楽極楽にて、毎日わりとご機嫌に過ごしているように見えます。でもそれは健康スキルの作用に頼るところが大きいのです。健康という文字のイメージからは、いいことだらけのように感じられるかもしれませんが、アレはそんな生易しいモノではありません。アレは人を人ではない別の何かに押し上げるモノ。リンネさまには毒も攻撃もまず通じません。本来であれば食事もオヤツもお茶も睡眠すらも必要ありません。生命体が生きるために必要なすべてが不用。確かに笑うことはあります。泣くこともあるし、怒ることもあります。ですがそれも一定の範囲内にてのみ。健康ゆえに、範囲を大きく逸脱することがない。これがどういう意味だか、チエさんにはおわかりになりますか?」
ルーシーからの問いかけにチエは首をふった。
「狂ってこその恋と申します。でもそれほどまでに誰かを本気で好きになることがない。おそらく本当に大切に想っている存在を失えば、涙を流し嘆き悲しみはするのでしょう。でもそれとてもやはり一定の範囲内に収まったまま。人の心というものは、本来は喜びに狂い、怒りに狂い、哀しみに狂い、楽しみに狂うもの。感情の爆発があるからこそ、心は激しく躍動するのです。わずかな瞬間とはいえ、解き放たれるのです。ですがリンネさまにはソレが許されない。あの方はずっと健康スキルという鎖に繋がれたまま」
健康であるがゆえに、精神が安定している。
トラブルに見舞われるたびに、オロオロと動じている風に見えるけれども、それは長年の経験にてカラダに染みついた条件反射のようなもの。
狂うことすらも許されない生が、果たして本当にしあわせなのか?
「もっとも、リンネさまがその鎖から解き放たれたのならば、ワタシたちは完全に用済みになってしまいますけれどね」
完全無欠の高レベル生命体。
良くも悪くも健康スキルにて健全。逸脱しないがゆえに、その内包されているチカラが真に振るわれることもない。
たとえ当人が全力全開だと信じ込んでいても、しっかりとブレーキがかかっている。
だが何ごとにも絶対はない。
もしもそのブレーキが耐えきれずに、ついに壊れてしまったら?
……などという話をされて、チエはおもわずゴクリと生唾を飲み込む。
彼女の様子にくすりと笑みを浮かべた青い目をしたお人形さん。
「少々お喋りが過ぎたようですね。今の話はどうか忘れて下さい。それでは、ワタシはこれにて失礼します」
ルーシーはペコリと頭を下げると、カネコたちの逆襲にあって、お手玉にされ宙をぽんぽん跳ねているリンネの下へと向かって歩き出す。
「そういえば『女神に会心の一撃を入れるために』って、やたらと熱心に戦力増強をしているけれど、もしかして本当は……」遠ざかってゆく小さなカラダを見送りながら、チエはおもわず身震いをしつつ「いや、さすがにそれは考え過ぎか」とつぶやいた。
7
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる