わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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261 赤い心臓

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 巨大な台座のような岩山。
 その上にぽんと置かれてあるオモチャの積み木を適当に重ねたような歪な塔。
 背丈はたいしたことないが、地下にも降りられるような構造になっている。
 岩山内部には網の目のような通路が張り巡らされ、同じような小部屋がたくさん。それらを抜けてさらに深部まで潜ると、神殿のように静謐な空気に満ちた空間が大小いくつも混在している。
 嘘か真か、一帯がはるかいにしえの時代に星の海より渡ってきた船だという伝承が残るも、それを知る者はすでにほとんど残っていない忘れられた地。
 いまでは聖騎士らの活動拠点となっている。
 そこを訪れていたのは、第五の聖騎士ストラノ。
 ストラノは発掘し終えた「赤い心臓」と呼ばれる真紅の石碑を届けに来ていた。
 大切な荷物の方は空間を操れる第三の聖騎士ワルドに任せ、ストラノは第九の聖騎士グリューネの案内で、第一の聖騎士であるゼニス大司祭が待つところへと向かっている。任務完了の報告と別れの挨拶をするために。
 他の聖騎士たちとは違いストラノは「青い心臓」と「赤い心臓」と呼ばれる対の石碑を見つけ出すまでとの約束にて、ゼニスらに協力していたのである。
 かつては好奇心の赴くままに各地を放浪し、行き倒れていたところを救われ聖騎士としてのチカラを授けられ仲間となったものの、ムダな争いを好まず、また縛られることを嫌う生来の性格が組織の一員として生きることを頑なに拒む。
 ゼニスもまたそんなストラノの性質を知った上で、彼の能力を買って契約を交わしていたのである。

 長い通路を並んで歩くグリューネとストラノ。
 ストラノの吐き出すタバコの煙を邪険に手で払いながら、露骨に美しい顔をしかめているグリューネ。

「ワルドから聞いたんだが、バァさんが死んだってのは本当か?」
「はい。確かにリネンビさまはお亡くなりになりました」

 ストラノの問いにグリューネは淡々と答える。
 リネンビとは第四の聖騎士であった老女のこと。

「寿命が尽きた……、なんてことはねえよなぁ」
「ええ。あの死に顔を見た限りでは。ゼニスさまによれば、おそらくあちらの世界で負けたのだろうと」

 ベッドに仰向けに寝たまま、宙へと突き出すかのようにして硬直していたのは、枯れ枝のような両腕。とっさに向かってくる何かから、己の身を守ろうとしているかのよう。
 目玉が飛び出んばかりにカッと見開かれ、浅黒く変色したシワだらけの顔には、バケモノでも目撃したかのような驚愕の表情が深く刻まれていた。
 リネンビの最期の様子を聞いてストラノは、「マジかよ。信じられん。でもいったいどうやって」と首をひねらずにはいられない。

 他者の夢の中へと自由に入り込み、これを自在に操る異能。
 そこではすべてがリネンビの支配下に置かれることになる。
 一度囚われたが最後、自力脱出は不可能な夢の牢獄の番人。
 だがそれだけじゃあない。夢での死は現実にも深く関与する。精神の衰弱や死が時には肉体の死にも直結するのだ。
 ゆえに不可避の処刑人とも呼ばれ、恐れられていたリネンビ。
 精神世界では無類の強さを誇るリネンビではあるが、現実世界においては戦闘力をほぼ持ち合わせてはおらず、ただの老女に過ぎない。その弱点を突かれて倒されたのならば、まだ納得もできるのだが、事実はそうではないという。
 このことがストラノをおおいに困惑させていた。

 しばらく黙り込んで歩いているとグリューネがぼそり。「未確認ですが、おそらくは例の女勇者の関与が濃厚かと」

 ギョッとするストラノ。驚きのあまり、おもわずくわえていたタバコを落としそうになった。
 ことあるごとに聖騎士たちの活動の妨害をし、ときには手ヒドイ傷を負わせ、秀でた戦闘力と経験を持つ第二の聖騎士ラドボルグをはじめとする数名を殺害したとされる女勇者。
 そのせいで九人いた聖騎士らも、いまや五人となり、自分が去ればついには半数を割ってしまうことになる。
 だからとてストラノに残るという選択肢はない。たとえゼニスより残留を強く求められたとしても。

「なぁ、ラドボルグだけじゃなくリネンビのバァさんまで倒すようなヤツ、どう考えてもふつうじゃねえぞ。おまえさんも今のうちにずらかった方がいいんじゃないのか? それだけの器量なら、どこででもやっていけるだろうに」

 黒に近いダークブラウンのブルネットの長い髪をゆらしながら隣を歩く美女に、ついそんな言葉を口にしてしまうストラノ。
 でも返答の代わりに上等な宝石のような青い瞳にて、非難がましい視線を向けられ、すぐに後悔した。

「わたしはゼニスさまによって救われました。もしもあの方に出会えなければ、きっとオスミウムの秘密の花園で腐るままに朽ちていたことでしょう。ここだけの話、本音を言わせてもらえれば、女神イースクロアの真意なんてべつにどうでもいいのですよ。ゼニスさまが望むことを行う。ただそれだけでわたしは満たされる。まぁ、あの方の一番に慣れないのは、ちょっと悔しいですけれどもね」

 初めて聞いたグリューネの心の内。
 どこまで本気なのかはわからないけれども、報われない愛に殉じるに等しい哀しい生き方に、ストラノは複雑な表情を浮かべる。つい「やめておけ」という言葉が出そうになるも、これを飲み込んだ。
 どう生きて、どう死ぬか。
 考え方は人それぞれ。自分が好き勝手するというのに、他人のソレを否定するのは、いくらなんでも説得力がなさすぎるから。



 案内されるままにストラノが辿り着いたのは、塔の屋上。
 グリューネはここまで彼を連れてきたところで、一人階下へと戻って行った。
 手を伸ばせば雲が掴めそう。
 というほどの高さでもなく、空が近いと実感するほどでもない。
 雄大な景色が見渡せるわけでもなく、なんとも中途半端で微妙なところ。
 そんな場所で、静かに佇んでは真昼の月を見上げていた銀髪の痩身が、ゆっくりと振り返る。
 くわえタバコの無精ひげの男の顔を見るなり、「やぁ、久しぶりだね、ストラノ」と言ったのは第一の聖騎士ゼニスであった。


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