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第二話 高槻の芝生一族
しおりを挟む西に堺、東に京、どちらにいくにも歩いて二日もあればこと足りる。
そんなところにあったのは高槻という土地。
北に山地、のっぺりとした平野を挟んで、中央を芥川なる清流が縦断し、南に横たわる淀の流れへと合わさっている。
はつかにも 君をみしまの芥川 あくとや人の おとづれもせぬ
そう詠んだのは平安の世の歌人、女房三十六歌仙の伊勢の御。
こんな昔の歌を持ち出したのは、それぐらい歴史だけは古い土地柄だということ。
だからとて格別、名物があるわけでも、名所があるわけでも、偉人を輩出したわけでもない。
立地的にはそこそこ重要ながらも、街道沿いにさえぎるものとてなくて、丸裸。
自然の要害もなく、攻めやすくて守りにくい。その気になればどこからでも侵入できるがゆえに、必死になって手に入れたとて、管理するのにたいそう手間がかかる。
そのわりには石高だってしれている。とどのつまり労力にまるで見合わない。
おかげさまにて戦国乱世にあっても、きら星のごとき英傑や猛者たちから素通りされるばかりにて、争いといえば地元の寺社らと、新興の伴天連とのケンカぐらい。
なんともゆるい土地。
その南の端の方、淀の川にほど近い一帯を支配していたのが、芝生家の一族。
「芝生」とかいて「シボ」と読む。断じて「シバフ」ではない。名前の由来は不明。響きが不吉なので、初見時の相手はたいてい名を聞いて、ギョッとなることが多い。
いつのころからここに住み着いたのか、一族の古老とて知らぬほどもまえから住んでいる。
じつはこの一族、忍びの家系。
といったところで、伊賀や甲賀なんぞとは比べものにならない、弱小集団。
一族や里のみんなは、いちおうは鍛錬を積んでいる。だがあくまで素人に毛が生えた程度のしろもの。
各地より百や二百もの子どもを買い求めては一か所に集めて、信じられないほどの過酷な鍛錬を課し、最終的には優秀な忍者を十指ほど育てるような連中とは、どだい覚悟も自負も力量もちがいすぎる。
戦国の世の裏で暗躍している連中なんて、大なり小なり化け物の類。
そんな人外どもと比べたら、よちよち歩きの子猫みたいなもの。
それが芝生一族。
忍びとしての歴史はとんでもなく古いらしいが、立派なのは家系図だけ。秘術なんぞはとうに失われて久しく、先祖伝来の文献はあらかた鼠にかじられた。再興をかかげる気概なんぞ毛頭なし。
いまではその名を知っている者を探すほうが困難を極めるであろう。
そして鈍牛こと、仁胡である。
かれはそんな芝生一族のなかでも、とびっきりのダメ忍者であった。
チカラは強い。米俵を三つも四つもひょいと担いではケロリとしている。
だが気性があまりにもやさしすぎた。
村の子どもらと角力をとれば、みずからコテンと転がり笑っているような青年。
クナイを投げれば的を大きく外し、刀を持たせたら扱いが下手すぎてポキリと折ってしまう。鍬でも握らせたほうが、よほど役に立つ。
忍びと名乗ると同業者らから怒鳴り散らされそうな実力。
そんな青年に天下人の首をとれとは、はたして芝生慈衛の真意やいかに?
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