4 / 83
第四話 芝生慈衛
しおりを挟む「おい、鈍牛、どこだ? ちょっとこっちにきて、ワシの腰を揉んでくれ」
日当たりのいい縁側にて横になり、そう声をあげていたのは芝生慈衛。
一族の長にして芝生の庄の長者どんは、日がな一日を、こうやってゴロゴロしているのが仕事だと考えているうつけ者。
だが里のみんなはこれを奨励している。
なぜなら駄目な者が下手にやる気を出すことほど、周囲が迷惑をこうむるから。思いつきであれこれ指図をしては場を荒らす。のちのちの余計な手間を考えると、彼にはこうしてもらっているほうが、よっぽど自分たちの仕事がはかどるというもの。
慈衛の呼びかけに返事はいっこうになく、いつもならばすっとんでくるというのに、待てども待てども姿をあらわさない。
頭領たる自分の呼びかけに応じぬとはけしからん、と慈衛。
ふくれっ面にて「おい、鈍牛」と呼びながら屋敷内をウロウロ。
しかしどこにも見当たらない。あの野郎、でかい図体でどこに隠れやがったと、ますます不機嫌に。
すると「なんだいあんた、うるさいよ」とハタキ片手に姿を見せたのは、やや恰幅のいい彼の奥方の珠。たすきがけにて姿を見せている二の腕のたくましいこと。とれたての大根のごとく立派にて、芝生家を切り盛りしているおかみさん。彼女あっての芝生当主家。
「おう、おまえか。鈍牛の奴を見なかったか。さっきから探しているんだが」
「見なかったかって、何を言ってるんだい。あんたが使いを頼んだってんで、あの子なら朝も早くに握り飯をもって出かけちまったよ」
「なに? おれが使いを頼んだだと。はて」
腕を組んで考え込んだ慈衛。
そういえばゆうべの酒の席にて、なにやら奴に命じたような……。
だがなかなか思い出せない。
こう、ノドの奥に魚の小骨がささったかのようで、これがどうにも気持ちわるい。だからなんとか思い出そうとしているのに、うんうんと唸る旦那を「そうじのじゃまだよ。うんうん気張るのは厠だけにしとくれ」と珠。手にしたハタキにて夫の頭をパタパタ。
ゲホゲホ咳き込んだひょうしに、せっかくでかかっていたモノが、どこぞに消え失せてしまった。
あるいはこのとき、慈衛が思い出していれば、すぐさま誰ぞにあとを追わせて止める手立てもあったのだが、あいにくと彼が思い出したのは後々になってからのこと。
このことを彼はあとで心底悔いることとなる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる