異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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45 勝っても負けても現実逃避。

 
 ……なんとなく、こんなことになるんじゃないかとは思っていたさ。
 
 河川の氾濫を止めたことで聖女伝説がとんでもなく加速したよ。
 いや、作業中に見られていることには気づいていたんだけど、そんなのにかまっている余裕なんてなかったし。あと何人か困っている人を救助したりもしたさ。
 いくら私が他人との関わりを極端に避けているとはいえ、目の前で濁流の中に取り残されている母子とか見つけたら助けるさ。それでお腹を減らしている子供とかいたらチクワぐらいあげるよ。
 そうしたら「聖女さま」ときたもんだ。
 だからその度に私は口を酸っぱくして言ってやったさ。

「私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!」

 なのにこっちがムキになって否定すればするほどに、行く先々で聖女コールが巻き起こるんだ。本気で嫌がってるのに謙遜だとか奥ゆかしいだとか、幻想フィルターが酷過ぎる。お前ら全員、いっぺん眼科にいって精密検査してもらってこいと声を大にして叫びたい。

「もう私、疲れちゃったよシルバー」
「べつにいいじゃろ。好きに呼ばせておけばいい。聖女であろうとなかろうとハナコはハナコであろうに」

 やたらと男前な台詞を吐くフェンリル。
 ぐぬぬ……、正論すぎて反論できない。
 でも私の聖女伝説を煽ったのは何も自分の行動や、助けた人たちだけのせいじゃないんだ。こちらがせっせと雨の中を走り回っているときに、王国の中央の連中は何もしなかったんだよね。本当にびっくりするぐらいに動かなかった。自分たちは安全な高台にて、ずっと雨のあがるのを待っているだけだったんだ。
 これって河川域や辺境の民にしてみれば、国に裏切られ見捨てられたってなるわけで、その分の反感がごっそりとこっちに流れてきたんだと思う。
 もしかして王様の遠まわしな意趣返しか? と疑いたくなるぐらいに。

 世間から聖女と呼ばれるほどに、私は頑なに森の廃村に引き篭った。そして不貞腐れてひたすらチクワをかじり、レッドやシロと戯れて現実逃避した。愛い愛い。
 そんな間いにも情勢はどんどんと動いていく。
 不作続きによる飢饉の発生、引き分けと言い張っているが実質上の先の敗戦、人の流出による空洞化や経済不振などの様々な悪影響、長雨時の災害対応及び辺境民からの反発、その他諸々とこれまでちりちりと積もりに積もった鬱積がここにきて噴出して、王の求心力は低下の一途どころかスカイダイビングのごとく急降下をたどる。
 しかもこのままではパラシュートが開かずに大地に激突して、グチャリとなるほどの勢いにて。

 ここで自分自身を冷静に見つめ直し猛省して、真摯に内政に取り組み、臣下や民の信頼回復に努めるのを賢王。
 安易に一発逆転の手を狙って、外部に敵を設けたり適当な夢や目標を掲げて、みなの意識と批難の目を逸らして誤魔化そうとするのが愚王。
 残念ながら王国の現在の支配者は後者であった。

『王国軍、魔族領に侵攻す』

 その報が冒険者ギルド経由にて届き、私は心底呆れた。

「どう思う?」
「勝ち目はないじゃろう。疲弊しきった国力にあがらぬ士気、対する魔族はハナコの持ち込んだチクワ肥料で飢饉も防げたし、なんだかんだで元気溌剌じゃ」
「……だよね。ここはじっと我慢の子だと凡人の私なんかは思うのですが」
「先の行動といい、どうにも現王は短絡的な性質のようじゃの。とっとと廃位にして首をすげ変えねば国が危ういぞ」
「げっ! この上、クーデターとか内乱勃発とか勘弁してよね」
「もしくは戦のどさくさに紛れて処分されるか。戦場ではどこから流れ矢が飛んでくるかわからんからのぉ、どうとでも処理できるし」
「哀れ王様……、南無南無」

 気の早い私は王様の冥福を、たぶんこの世界で誰よりも早く祈ったと思う。
 でもまさか、あんなことが起こるだなんて思いもよらなかったんだ。
 結果としてこのお悔やみの先取りが無駄にはならなかったんだけど、さすがにそれを無邪気に喜べるほど私も外道じゃないよ。


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