46 / 54
45 勝っても負けても現実逃避。
……なんとなく、こんなことになるんじゃないかとは思っていたさ。
河川の氾濫を止めたことで聖女伝説がとんでもなく加速したよ。
いや、作業中に見られていることには気づいていたんだけど、そんなのにかまっている余裕なんてなかったし。あと何人か困っている人を救助したりもしたさ。
いくら私が他人との関わりを極端に避けているとはいえ、目の前で濁流の中に取り残されている母子とか見つけたら助けるさ。それでお腹を減らしている子供とかいたらチクワぐらいあげるよ。
そうしたら「聖女さま」ときたもんだ。
だからその度に私は口を酸っぱくして言ってやったさ。
「私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!」
なのにこっちがムキになって否定すればするほどに、行く先々で聖女コールが巻き起こるんだ。本気で嫌がってるのに謙遜だとか奥ゆかしいだとか、幻想フィルターが酷過ぎる。お前ら全員、いっぺん眼科にいって精密検査してもらってこいと声を大にして叫びたい。
「もう私、疲れちゃったよシルバー」
「べつにいいじゃろ。好きに呼ばせておけばいい。聖女であろうとなかろうとハナコはハナコであろうに」
やたらと男前な台詞を吐くフェンリル。
ぐぬぬ……、正論すぎて反論できない。
でも私の聖女伝説を煽ったのは何も自分の行動や、助けた人たちだけのせいじゃないんだ。こちらがせっせと雨の中を走り回っているときに、王国の中央の連中は何もしなかったんだよね。本当にびっくりするぐらいに動かなかった。自分たちは安全な高台にて、ずっと雨のあがるのを待っているだけだったんだ。
これって河川域や辺境の民にしてみれば、国に裏切られ見捨てられたってなるわけで、その分の反感がごっそりとこっちに流れてきたんだと思う。
もしかして王様の遠まわしな意趣返しか? と疑いたくなるぐらいに。
世間から聖女と呼ばれるほどに、私は頑なに森の廃村に引き篭った。そして不貞腐れてひたすらチクワをかじり、レッドやシロと戯れて現実逃避した。愛い愛い。
そんな間いにも情勢はどんどんと動いていく。
不作続きによる飢饉の発生、引き分けと言い張っているが実質上の先の敗戦、人の流出による空洞化や経済不振などの様々な悪影響、長雨時の災害対応及び辺境民からの反発、その他諸々とこれまでちりちりと積もりに積もった鬱積がここにきて噴出して、王の求心力は低下の一途どころかスカイダイビングのごとく急降下をたどる。
しかもこのままではパラシュートが開かずに大地に激突して、グチャリとなるほどの勢いにて。
ここで自分自身を冷静に見つめ直し猛省して、真摯に内政に取り組み、臣下や民の信頼回復に努めるのを賢王。
安易に一発逆転の手を狙って、外部に敵を設けたり適当な夢や目標を掲げて、みなの意識と批難の目を逸らして誤魔化そうとするのが愚王。
残念ながら王国の現在の支配者は後者であった。
『王国軍、魔族領に侵攻す』
その報が冒険者ギルド経由にて届き、私は心底呆れた。
「どう思う?」
「勝ち目はないじゃろう。疲弊しきった国力にあがらぬ士気、対する魔族はハナコの持ち込んだチクワ肥料で飢饉も防げたし、なんだかんだで元気溌剌じゃ」
「……だよね。ここはじっと我慢の子だと凡人の私なんかは思うのですが」
「先の行動といい、どうにも現王は短絡的な性質のようじゃの。とっとと廃位にして首をすげ変えねば国が危ういぞ」
「げっ! この上、クーデターとか内乱勃発とか勘弁してよね」
「もしくは戦のどさくさに紛れて処分されるか。戦場ではどこから流れ矢が飛んでくるかわからんからのぉ、どうとでも処理できるし」
「哀れ王様……、南無南無」
気の早い私は王様の冥福を、たぶんこの世界で誰よりも早く祈ったと思う。
でもまさか、あんなことが起こるだなんて思いもよらなかったんだ。
結果としてこのお悔やみの先取りが無駄にはならなかったんだけど、さすがにそれを無邪気に喜べるほど私も外道じゃないよ。
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~
夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。
そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。
召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。
だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。
多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。
それを知ったユウリは逃亡。
しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。
そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。
【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。
チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。
その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。
※TS要素があります(主人公)
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。