異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

文字の大きさ
47 / 54

46 紅い災い。

 
 神域の森を大きく迂回した地点にある平原にて、王国軍と魔族軍は激突する。
 この地では過去に幾度となく両者がぶつかり、多くの血を流していた。
 勇者と勇者候補らを多数有する王国軍、総勢二万。
 魔族は近隣の砦などから駆けつけた軍勢が一万と五千、だが順次後続が馳せ参じる手筈になっていた。
 
 序盤こそは数の優位性を活かして王国軍が押していたが、それも長続きはしなかった。これは攻める側の士気と守る側の士気に大きく差があったからである。
 長雨でぬかるんだ地面を踏みしめての連日の無理な強行軍、その末の戦闘に王国軍の兵らは一向に奮わず、対する魔族側は敵勢を自陣深くへと誘い込んでからの迎撃にて、地の利もあり英気も体力も充分に余裕があった。
 誘導されて突出するたびに包囲殲滅されていく王国兵。
 いかに勇者が優れた能力を持とうとも、彼らの体は一人一体しかない。東で戦っていれば南が疎かになるし、左を防げば右を突破される。あえて戦線が薄く拡散するように散らす魔族の軍の策に翻弄されて、個別行動を強いられる勇者や勇者候補生ら。しかも魔族たちは彼らとは無理に戦おうとはせずに、すぐに蜘蛛の子を散らすように逃げてしまう。
 不毛な追いかけっこにて疲労だけが蓄積されていく異世界人たち。
 ただでさえ異様な雰囲気と緊張感にてガリガリと精神力が削られる戦場にあって、彼らはじきに満足に動けないようになっていき、撤退を余儀なくされていった。
 こうして初戦は魔族側の圧勝に終わり、王国軍はたった一日にて二千もの将兵を失うこととなってしまった。

 二日目は先日と同じ愚を犯さないように、王国軍は斥候を放ち周辺の地理と状況の把握につとめたので、戦闘は散発的に起こるだけであった。
 三日目は戦力を集中して、勇者らを先陣に行軍スピードを抑えつつ着実に進撃する王国軍。いかなる挑発や策にも乗ろうとはせずに、ひたすら自分たちのペースにて動く軍勢にはつけ入る隙がなくて、魔族軍も大した成果を上げられずに一日を終える。夜襲も仕掛けたが、こちらも王国兵らの警戒が厚くて思うような効果を出せなかった。
 四日目は両陣営ががっつりと組み合う形になり、勇者という武力と数で勝る王国軍が攻勢をかける。しかし昼過ぎあたりから到着した魔族の援軍によって盛り返され、夕暮れ時には痛み分けとなっていた。
 そして運命の五日目が訪れる。

 朝靄の中、不意に起こった怒号と剣戟と悲鳴。
 てっきり敵の朝駆けによる奇襲攻撃かと思った王国軍。だが敵はこれまで見たことのない連中であった。まるで腐りかけた死体のようなものが蠢いている。それらが紅い目を妖しく光らせ、兵へと殺到しては無造作に肉へと喰らいつき、これを引きちぎり、血を美味そうに啜る。そうして喰われた者もまた同様の姿に成り果てて、同胞へと襲いかかってきた。これに軍勢は恐慌をきたした。
 これは王国軍だけのことではなかった。
 魔族側でも同様なことが起こっていたのである。
 ただしこちらは指揮官の判断にていち早く対処したおかげで、被害を最小限に止めて現場を離脱することに成功する。それでも千近くの将兵を失うことになったのだが……。
 哀れなのは王国軍であった。なまじ自陣をしっかりと柵で覆い守りを堅牢にしていたために、そこは逃げ場のない袋小路の様相を呈することとなる。
 瞬く間に増えていく被害、そのたびに味方は減り謎の敵が増える。
 これにいち早く対応したのは異世界から来た人間たちであった。
 彼らは敵の正体や性質に思い当たったのである。それが彼らの世界にあった映画やゲームの中に度々登場する、人喰い種や生きる屍と呼ばれる者たちであるということを。
 噛まれたり血を浴びると危険だと知っていた彼らは、すぐに柵を破壊して味方を逃がすことに専念する。朝靄の中で敵味方が入り乱れる混戦の中、勇者たちはその名に恥じない働きをした。それでも被害は甚大で全軍の半数近くを失うこととなる。その中には王様や側近らも含まれていた。
 なまじ自陣の中でもっとも安全と思われる、中央部に彼らの居場所が集中していたのが裏目となってしまった。
 ちょうど渦の真ん中に取り残されたような格好になった王様。
 そんな彼を身を挺して守ろうとした者は誰もいなかった。



 王国軍敗走、魔族軍撤退、謎の敵出現の報を私は魔族の使者から受け取った。
 まるで伝染病のように広がる性質を持っているので、くれぐれも注意して下さいとの魔王からのメッセージ付きで。
 これに遅れること三日後、今度はギルドマスターより同様なことが書かれた手紙が届いた。
 この二つの報せを受けて考え込んでいたシルバーが、おもむろにその謎の敵を見てみたいと言い出す。なにやら心当たりがあるみたいなご様子。

「一人で見に行ってくる」

 そう言う彼に「水臭いぜ、相棒」と私は応じて、すぐさま旅支度を始める。いくら出不精とはいえ家族にも等しい仲間を、一人ぼっちで行かせるほど薄情ではない。
 レッドやシロも、もちろんついて行く気満々である。
 なおも渋るフェンリルに「いざとなったらレッドに乗って空に逃げるから。そうしたらシルバーも全力を出せるでしょ」と説得してどうにか納得させる。
 そうそう、レッドってば晴れて不死鳥になったんだよ。
 大きくなったらウチよりデカいどころの話じゃなかったけどな。体の大きさだけならばドラゴンといい勝負だと思う。でも自由自在に体の大きさを変えられるし、炎を操ったりと芸達者な分、うちの子の方がずっと優秀だけどね。

 こうして私こと山田花子は三匹と一緒に、謎の敵が出現したという平原まで遠出することとなった。


感想 201

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。