31 / 50
031 大練武祭、開幕。
しおりを挟む大練武祭。
本選出場者は各地の予選を勝ちあがってきた三十六名に、飛び入り参加枠の四名が加わり、計四十名で覇を競う。
対戦形式は一対一の勝ち抜き戦。
十人ずつ四つの組に分かれて武芸を競い、各々の組で勝ち残った最上位者四名にて再抽選。
準決勝、決勝を経て最強を決める。
事前に説明を受けてわたしは「なぁんだ。選定の儀の規模をちょっと大きくしたものか」と思った。
選定の儀とは、神聖ユモ国にて行われた武芸大会のこと。勇者のつるぎミヤビにふさわしい人物を探し出すとの名目で行われた。詳細は割愛するが、裏でいろいろあってたいへんだったから、あまりいい思い出はない。
今回わたしは賓客として招かれた身にて、王さまから開会の挨拶を頼まれた。
けれども堅苦しい言葉は不用。
ちょいと天剣にて、場内をびゅーんとしてくれるだけでいいとの話。
だからわたしは白銀の大剣姿のミヤビにのって、会場につめかけた観客たちの頭上を「ひゃっほー」
背後にぐるぐる回転しながら飛ぶ漆黒の大鎌姿のアンと、同じくぐるぐる回転して飛ぶ蛇腹の破砕槌姿のツツミを従えて、颯爽と宙を駆る。
それだけだと愛想がないので、紙吹雪のオマケつき。
これが大受け。
観客たちは総立ちにて「剣の母さまー」と大熱狂。
その興奮のままに、大練武祭が始まる。
◇
槍の名手によりくり出された鋭い穂先。
刺突を鉄製の手甲でそらし、すかさず懐へと踏み込もうとするのは体術の使い手。
させじと槍の石突が跳ねあがる。
半歩ほど身を引いてかわしたすきに、ふたたび両者の距離が開く。
優れた武芸者同士の戦いになると、勝敗を決するは一撃。どちらが先にそれを相手に叩き込むか。
問題はそれをより確実に当てる間合いと位置の確保。
激しいやり取りの合間にまぎれ込ませた虚実。
高度な戦術と洗練された技の応酬。
ある観客は戦いにただただ熱狂し、ある観客は息を呑み、またある観客は一心に見つめて何かを得ようとする。
かくして始まった大練武祭。
開催期間は四日間。
最初の二日で各組の最上位を決めて、なか一日休みを挟み、最終日の午前中に準決勝、午後から決勝を行う。
すべての試合が終了したらそのまま都をあげてのお祭りへと移行して、優勝者とユラ神を称え、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎがひと晩中続くといった流れ。
大会の概要を説明されたとき、わたしは選定の儀の延長のような印象を受けていたのだが、どうしてどうして。
まず規模がちがう。
大闘技場内に設置された四つの石舞台にて同時に展開される試合。
客席と試合会場が近いから、伝わる迫力がぜんぜん比べものにならない。
剣戟音どころか、戦士たちの息づかいをも聞こえてきそうな距離。
賓客用の席でもそれなのだから、一般客はもっと近い。それこそ戦っている当人たちが身にまとう熱を共有するほどに。
選定の儀のときなんて、めちゃくちゃ離れていたから、戦いなんて豆粒ぐらいにしか見えなかったというのに。
まぁ、そのおかげで水の才芽を応用した遠見の術が編み出せたんだけどね。
おしむらくは日常生活においては、ほとんど使い道がないことだ。一度、この術で何かとお世話になっている女官のカルタさんの肌の状態を調べようとしたら、しこたま怒られた。
以来、その術の存在をも忘れるほど放置していたのだけれでも、わたしはひさしぶりにこっそりと使用する。
とはいえ戦いを見物するためではない。
見るのはちょうどわたしたちの席とは会場を隔てて、反対側にある賓客用の席に陣取っている連中。
案内役の人にそれとなくたずねたら「商連合オーメイの方々です」とのこと。
真偽のほどはともかく、何やらきな臭いところがある商連合。それでもいずれは顔をあわすことになるので、ちょいと見ておこうと思い立った次第。
目をギュッとつぶって、涙を絞り出し瞳に潤いをあたえる。
その際に水の才芽を発動、「見えろ、みえろ、えろえろ」と念ずる。
まぶたをそっと開ければあらふしぎ!
視界良好にて、すっきりしゃっきり。遠くも鮮明に見えちゃう。これぞ遠見の術。
で、いきなり視界に飛びこんできたのは、グフグフと笑いそうな巨漢の太っちょさん。
上等そうな生地がふんだんに使われたゆったりした衣服。全体が水ぶくれしたようなカラダ。かわいげのない指にはゴテゴテした宝石の指輪。金の首飾りがたるんだ肉に埋もれており、優雅さの欠片もない。
傲慢、強欲、暴食、怠惰……。
そんな言葉がつらつらと思い浮かぶような容姿。
まるで人の持つ悪徳を濃縮してこしらえた肉団子のようにて、ひと目で「やばい」と感じさせる人物。
けれども、わたしがいっそうの警戒を覚えたのは、巨漢のとなりにいた黒い長衣姿。
頭まですっぽりと覆われており、口元も隠されているから顔はわからない。
ただその奥にある闇がものすごく気になった。
眺めているだけで心がざわつく。どうにも胸がむかむかして、イヤな感じがする。
そしてわたしはこの感覚を……知っている?
思い出そうとして記憶の引き出しをガサゴソ漁る。
けれどもそのとき、隣に座っていたケイテンが「チヨコちゃん」と小突いてきたので思考が中断され、はずみで遠見の術も解けた。
ケイテンが指さしていたのは、四つの石舞台のうちの南西のところ
そこにはこれから戦いへと臨もうとする仮面の剣士の姿があった。
アスラの登場である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる