32 / 50
032 八葉
しおりを挟むアスラより先に舞台へとあがっていた男を見て、わたしは眉根を寄せる。
なんとも奇妙な武器を所持していたからだ。
とても大きなくの字をした、あれは剣?
「ずいぶんとヘンテコな武器だねえ」
「あれは飛去来器……主に狩猟で用いられる投擲武器よ、チヨコちゃん。でもずいぶんと大きいわ」
ケイテンの話では、本来はせいぜい大人の腕ほどだというのに、男が肩に担ぐようにして持っているそれは、屈強な体躯を誇る戦士の足よりもなお太く大きかった。
「厚みもかなりあるし、ヘタな両手剣よりもずっと重いはず。それを苦もなく持っていることからして、見た目の優男っぷりを鵜呑みにしないほうがよさそうね」
アスラの対戦相手はすらりとした長身。痩身とまではいわないが他の参加者らに比べると線が細く、どこかひょうひょうとした雰囲気をまとっている。
でも、ケイテンの話の通りならば、その身の内に秘めた膂力はかなりのもの。
すると案内役のお付きの人が「彼はハチヨウ。『草原の風』の異名を持ち、過去に一度優勝しています。今回の大会でも最有力候補のひとりですよ」と教えてくれた。
お兄さんと呼ぶにはムリがあり、おっさんと呼んだら傷つきそうな微妙なお年頃のハチヨウは、相当の実力者であるようだ。
フム。アスラも初戦でそんな相手に当たるとは、なんとクジ運の悪い。
◇
審判の合図により、アスラとハチヨウの試合が始まった。
超重量級の投擲武器を持つ相手に対して、アスラがとった戦法は単純明快。
敵が攻撃を放つ前に距離をつめて、長剣と短剣の二刀流による怒涛の攻めでいっきに決めるというもの。
床を這うような低い姿勢にて矢のように駆けるアスラ。
瞬く間にハチヨウの懐へ潜り込もうとする。
させじと飛去来器がブンと横薙ぎにふるわれた。
これをさらに頭を下げることで難なくかわしたアスラは、勢いのままに突っ込もうとした。しかしその身が唐突にはじかれる。
横一文字に疾走した飛去来器が途中でくるんと回転。ハチヨウが最小限の手首の動きだけで、切っ先の軌道を変化。アスラの頭上を通りすぎた攻撃が、ハチヨウの腕を中心に逆上がりして、下からかちあげ気味の一撃となる。
もしもアスラが短剣にてとっさに防がなければ、脇腹にもろに喰らって、それで試合は終わっていたことであろう。
吹き飛ばされ横転したアスラが、衝撃を利用してすかさず立ちあがる。
攻撃が当たる直前に自ら飛んでいたらしく、被害は軽微。
「ほう、いい反応だ。やるねえ」
ハチヨウはうれしそうに口笛をぴゅうと吹いた。
その腕や首、胴のまわりを大きな飛去来器が、まるで意思を持つかのようにして、自在にぐるぐる回っている。
武器の持つ重さ、重心の操作、高低の差で生じるチカラ、勢い、遠心力、これに自分の膂力のみならず全身の筋肉を駆使することによって、はじめて可能となる動き。
そんな人間離れした技を、ハチヨウは息をするかのごとく平然と行っている。
大練武祭で二度優勝すると与えられるという「聖」の称号。それに手が届くところにいる男。
実力をまざまざと見せつけられても、アスラは戦意を失わない。
仮面の剣士は「はっ!」と気合いを吐き、果敢に立ち向かう。
◇
刃が閃き、大小、二本の剣が四にも六にも見える。
強敵を前にしてアスラの成長が著しい。
おそらく物語や芝居ならば、このまま押し切るのだろう。
けれどもここは現実。強者がいて弱者がいる。勝者がいて敗者がいる。奇跡は存在するけれども、そうそう都合よくは落ちてこない場所。
そしてアスラが対峙しているのはハチヨウという大会屈指の実力者。
あえて接近戦に応じるハチヨウの姿は、さながら稽古をつける師のよう。べつに対戦相手を愚弄しているわけでも、遊んでいるわけでもない。
ハチヨウの浮かべる表情にはいやらしさは微塵もなく、ただがむしゃらに立ち向かってくる若人への羨望とその成長への称賛、よろこびがあるばかり。
実際のところ、アスラは遥かに格上を相手にしてよく戦った。
ついにアスラの攻めが鈍くなる。疲労もさることながら、自身の持つすべてを出し尽くしたがゆえの枯渇による停滞。
これを見届けたところでハチヨウがついに動く。
「まったく、嫉妬を覚えるほどの武才だな。たしかアスラといったか。三年後にまたやろう」
言うなりハチヨウの腕から先が消えた。
いや、正しくは右から左へと、水平にものすごい速さで払われただけ。
けれどもいままでとちがうのはそれだけじゃない。
よくよく見れば手にあった飛去来器の厚みが、半分ぐらいの薄さになっている。
直後に観客たちが耳にしたのは「ひゅん」という鋭い風切り音。
会場内を駆け抜ける風が観客たちの頬をなで、髪をかき乱す。
ハチヨウの手元より分かたれ、放たれたのは四枚のくの字の刃。通常よりもずっと大きな飛去来器は、薄刃を重ね合わせた集合体であったのだ。
放たれた薄刃が疾風となり、四方よりアスラへと襲いかかる。
ほぼ同時に殺到した凄まじい攻撃。
アスラの身がはじかれ宙を舞った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる