剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

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032 八葉

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 アスラより先に舞台へとあがっていた男を見て、わたしは眉根を寄せる。
 なんとも奇妙な武器を所持していたからだ。
 とても大きなくの字をした、あれは剣?

「ずいぶんとヘンテコな武器だねえ」
「あれは飛去来器……主に狩猟で用いられる投擲武器よ、チヨコちゃん。でもずいぶんと大きいわ」

 ケイテンの話では、本来はせいぜい大人の腕ほどだというのに、男が肩に担ぐようにして持っているそれは、屈強な体躯を誇る戦士の足よりもなお太く大きかった。

「厚みもかなりあるし、ヘタな両手剣よりもずっと重いはず。それを苦もなく持っていることからして、見た目の優男っぷりを鵜呑みにしないほうがよさそうね」

 アスラの対戦相手はすらりとした長身。痩身とまではいわないが他の参加者らに比べると線が細く、どこかひょうひょうとした雰囲気をまとっている。
 でも、ケイテンの話の通りならば、その身の内に秘めた膂力はかなりのもの。
 すると案内役のお付きの人が「彼はハチヨウ。『草原の風』の異名を持ち、過去に一度優勝しています。今回の大会でも最有力候補のひとりですよ」と教えてくれた。
 お兄さんと呼ぶにはムリがあり、おっさんと呼んだら傷つきそうな微妙なお年頃のハチヨウは、相当の実力者であるようだ。
 フム。アスラも初戦でそんな相手に当たるとは、なんとクジ運の悪い。

  ◇

 審判の合図により、アスラとハチヨウの試合が始まった。
 超重量級の投擲武器を持つ相手に対して、アスラがとった戦法は単純明快。
 敵が攻撃を放つ前に距離をつめて、長剣と短剣の二刀流による怒涛の攻めでいっきに決めるというもの。
 床を這うような低い姿勢にて矢のように駆けるアスラ。
 瞬く間にハチヨウの懐へ潜り込もうとする。
 させじと飛去来器がブンと横薙ぎにふるわれた。
 これをさらに頭を下げることで難なくかわしたアスラは、勢いのままに突っ込もうとした。しかしその身が唐突にはじかれる。
 横一文字に疾走した飛去来器が途中でくるんと回転。ハチヨウが最小限の手首の動きだけで、切っ先の軌道を変化。アスラの頭上を通りすぎた攻撃が、ハチヨウの腕を中心に逆上がりして、下からかちあげ気味の一撃となる。
 もしもアスラが短剣にてとっさに防がなければ、脇腹にもろに喰らって、それで試合は終わっていたことであろう。

 吹き飛ばされ横転したアスラが、衝撃を利用してすかさず立ちあがる。
 攻撃が当たる直前に自ら飛んでいたらしく、被害は軽微。

「ほう、いい反応だ。やるねえ」

 ハチヨウはうれしそうに口笛をぴゅうと吹いた。
 その腕や首、胴のまわりを大きな飛去来器が、まるで意思を持つかのようにして、自在にぐるぐる回っている。
 武器の持つ重さ、重心の操作、高低の差で生じるチカラ、勢い、遠心力、これに自分の膂力のみならず全身の筋肉を駆使することによって、はじめて可能となる動き。
 そんな人間離れした技を、ハチヨウは息をするかのごとく平然と行っている。
 大練武祭で二度優勝すると与えられるという「聖」の称号。それに手が届くところにいる男。
 実力をまざまざと見せつけられても、アスラは戦意を失わない。
 仮面の剣士は「はっ!」と気合いを吐き、果敢に立ち向かう。

  ◇

 刃が閃き、大小、二本の剣が四にも六にも見える。
 強敵を前にしてアスラの成長が著しい。
 おそらく物語や芝居ならば、このまま押し切るのだろう。
 けれどもここは現実。強者がいて弱者がいる。勝者がいて敗者がいる。奇跡は存在するけれども、そうそう都合よくは落ちてこない場所。
 そしてアスラが対峙しているのはハチヨウという大会屈指の実力者。
 あえて接近戦に応じるハチヨウの姿は、さながら稽古をつける師のよう。べつに対戦相手を愚弄しているわけでも、遊んでいるわけでもない。
 ハチヨウの浮かべる表情にはいやらしさは微塵もなく、ただがむしゃらに立ち向かってくる若人への羨望とその成長への称賛、よろこびがあるばかり。
 実際のところ、アスラは遥かに格上を相手にしてよく戦った。
 ついにアスラの攻めが鈍くなる。疲労もさることながら、自身の持つすべてを出し尽くしたがゆえの枯渇による停滞。
 これを見届けたところでハチヨウがついに動く。

「まったく、嫉妬を覚えるほどの武才だな。たしかアスラといったか。三年後にまたやろう」

 言うなりハチヨウの腕から先が消えた。
 いや、正しくは右から左へと、水平にものすごい速さで払われただけ。
 けれどもいままでとちがうのはそれだけじゃない。
 よくよく見れば手にあった飛去来器の厚みが、半分ぐらいの薄さになっている。
 直後に観客たちが耳にしたのは「ひゅん」という鋭い風切り音。
 会場内を駆け抜ける風が観客たちの頬をなで、髪をかき乱す。
 ハチヨウの手元より分かたれ、放たれたのは四枚のくの字の刃。通常よりもずっと大きな飛去来器は、薄刃を重ね合わせた集合体であったのだ。
 放たれた薄刃が疾風となり、四方よりアスラへと襲いかかる。
 ほぼ同時に殺到した凄まじい攻撃。
 アスラの身がはじかれ宙を舞った。


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