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030 英雄の像
しおりを挟むクンルン国の首都アルマハル。
中心にあるふたこぶの丘。その大きな方にそびえ立つ大闘技場。
本日はケイテンを供に案内役の人に連れられての見学会。
ふもとから頂上へと通じる石段は二百を超え、一段一段の幅も広い。
両脇には屈強な戦士たちの石像が並び立つ。
これすべて、過去の大練武祭にて優勝した猛者たち。
いかにも強そうな戦士たちに混じって、女性の像もちらほら見受けられる。
わたしが物珍しげに眺めていたら、案内役の人が教えてくれた。
「たしかに男と女とでは、男の方が強靭な者が多いのは事実です。ですが、ときおりあらわれるのですよ。まるでユラ神の寵愛を一身に集めたような、とんでもない女性の武辺者が」
わたしが説明に耳を傾けながら眺めていた石像の女性は、二百年ほど昔に活躍した棒術の達人。その圧倒的技量にて優勝をかっさらったばかりか、生涯不殺の教えを貫いたんだとか。
英雄を倒せば、いちやく己の名があがる。
だから強くなればなるほどに、有象無象が群がってくる。
武の世界あるある。これを片っ端から千切っては投げ千切っては投げ。
しかもすべてを殺さずに屈服させるとか。たんに勝つことよりもはるかにムズカシイ。
それを有言実行しちゃったんだから、たしかにとんでもない女の人である。
わたしがほとほと感心していたら、急に付近が騒がしくなった。
ふり返れば、数段下にて男たちが「肩がふれた」だの「あやまれ」だのとモメており、見る間に取っ組み合いのケンカが始まった。
わたしは「またか」とぼやく。なぜなら似たような光景を何度も目にしていたから。
大練武祭を直前に控えているこの時期。
都全体が熱を帯びており、ただでさえ血の気が多く勝負事が大好きなクンルンの人たちは、めちゃくちゃイキリ立っている。
まるで戦車競技の出走前の騎竜のように鼻息が荒い。
だからそこかしこにて暴力沙汰が頻発。
毎度のことらしいのだが今回は特にひどいらしい。取り締まる警邏の面々も大忙しにて、人員を大幅に増やしたのにもかかわらず、手が足りてないのが実情。牢屋もとっくに満杯にて、急遽仮設までしたんだとか。
「たいへんだねえ」わたしが同情すると、案内役の人が「お恥ずかしいかぎりで」と頭をぼりぼり。
なんぞと話をしていたら、ケンカがさらに大きくなりつつあった。
どうやら周囲の野次馬たちまでもが加わっての乱闘騒ぎになりそう。
身の危険を感じたわたしたちは、さっさと石段をのぼることにした。
◇
石段をのぼるごとに、大闘技場の威容が迫る。
近くで見上げると圧巻の巨大建造物。
丘の上にこれを造ったということは、この斜面を重たい建材をかついで何往復もしたということ。
石切り場は北方にあるという話だが、いったいどれほどの労力が費やされたのか想像もつかない。
いや、この国の人たちの性格を考えたら「いい鍛錬になるぜ」とかいって、こぞって参加しそうだな。
そう考えるとこちらから見下ろせる位置にある、小さな丘の事務所っぽい城があわれであった。
大闘技場に注がれた情熱の百分の一でもむこうに回してあげたら、相応のお城になれたであろうに。
クンルンの民は王族の勤労に深く感謝しているというわりには、ちょっと冷たい。
ついついそんな本音がわたしの口からぽろり。
すると案内役の人があわてた。
「それは誤解ですよ。お城の方もちゃんと建てようとしたんです。しっかり豪勢なのを。ですが当時の王族がそれをかたくなに拒んだのです。『下手に立派になって広くなって階層も増えたら、移動がシンドイ』って」
それどころか坂道をのぼったりおりたりするのもめんどうくさいから、いっそのこと丘の下に城を置いてくれとも言った。
が、さすがにそれでは格好がつかないと、どうにか現状に落ち着いたという。
あれ? なんでかな。
この話を知ったとたんに、わたしの目には丘の上にあるお城が監獄っぽく見えてきたよ。
あと首都を守る壁が、王族を逃がさないようにするための柵のようにも。
◇
おっちらおっちら石段をのぼり、ようやく大闘技場前へと到着。
正面入り口には、巨大な石像が二体。
左側にて腕を組んで仁王立ちしているのは、おなじみの獅子頭の炎風の神ユラ。
右側にて剣を胸の前でかかげ毅然と立っているのは、伝説の超戦士・蒼い狼ロウ。
聞けばこの蒼い狼さん。大練武祭にて前人未踏の七連覇を達成。殿堂入りしたんだとか。
ちなみに大練武祭にて二度優勝すると「聖」の称号が与えられる。
あつかう武器が剣ならば「剣聖」となり、槍ならば「槍聖」となり、弓ならば「弓聖」となり、拳ならば「拳聖」といった具合に。
聖の称号は、その道において当代随一の達人を意味しており、これを開祖とする流派は多数の門人を抱えて、隆盛を誇ることになる。
もっとも生涯弟子をとらず、ひたすら己の道を邁進し、孤高に生きる武人も少なくないという。
わたしは蒼い狼の彫像を見上げつつ、内心で「うーん」と首をひねる。
「ずいぶんと精悍な男前だよね。というか、これを袖にしたとかいう女がすごすぎる。うん、こりゃあ、うちの里にいるロウさんとはやっぱり無関係だよ。なにせあっちはボケボケの爺さんだし」
独りごちていたら、ケイテンと案内役の人がいつの間にやら歩きだしており、置いてけぼり。
わたしはあわててトテトテ追いかける。
「しかし、よもやアスラが本当に予選を勝ち抜くとはねえ。なんだかんだで強かったんだ。このままの勢いで優勝は……さすがにムリだろうけれども、当日は大穴狙いで賭けてみるのもおもしろいかも」
いよいよ、明日、大練武祭が始まる。
はたして天剣(アマノツルギ)の担い手にふさわしい人物はあらわれるのか。
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