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015 ホワイトナイトふたたび
しおりを挟む「ごろにゃあ、にゃあにゃあ。(おら、とっとと逃げるぞ。もたもたすんな)」
コテツに呼ばれて、和香は「にゃ(すぐ行く)」と返事する。
だがしかし、合流しようとしたところで――
ひゅん!
鋭い風切り音。
素早く背後から降ってきた何かによって、いきなり首をキュッと絞められたもので、和香は「ぐえっ」
身動きを封じられてしまった。
長い棒の先端にワイヤーの輪っかが付いた捕獲道具だ。
道具を手にあらわれたサングラスの兄貴分により、和香はふたたび囚われの身となってしまう。
どうにかして逃れようとジタバタするもダメであった。
ワイヤーががっちり首に食い込んでおりはずれない。
ばかりか気道を圧迫されて、い、息が……
痛みと呼吸困難により、和香は次第に意識がぼんやりしてくる。
悪漢の手に落ちた茜色のネコ。
それを助けようとコテツと仲間たちが敢然と挑みかかるも――
「ぎゃっ」
「にゃにゃ」
「うな~ん」
コテツたちはことごとく返り討ちにされてしまう。
サングラスの兄貴分は強かった。
また和香が人質ならぬネコ質にされていたことも、コテツたちの不利となる。卑怯にもサングラスの兄貴分は和香を盾に使ったのだ。そのせいでまごついているうちに、コテツたちは次々とやられてしまったのである。
なおその間に、スフィンクスもチンピラ風の弟分により捕まってしまい、万事休す。
かとおもわれたのだけれども……
ウ~~ウ~~。
ウ~~ウ~~。
ウ~~ウ~~。
聞こえてきたのは、パトカーのサイレンの音。
どんどんこっちに近づいてきている。
これに男たちはギクリ、顔を見合わせた。
「あ、兄貴、もしかしてここがバレたんじゃあ……」
と、弟分はオロオロ。
「ちっ、けっこうな数が逃げちまったからな。おおかたお節介な誰かが通報したんだろうよ。
となればバレるのも時間の問題か……。
ふんっ、まぁ、いいさ。どのみちこのヤサは近いうちに引き払うつもりだった。
おい、おまえはとりあえずそいつとこいつをキャリーケースにぶち込んでおけ。それがすんだら車をとってこい。
俺はその間にノートパソコンや撮影機材なんかの金目の物をまとめておく」
とは、サングラスの兄貴分。
かくして撤収準備を始める男たち。
兄貴分はロフトの方へと向かう。弟分は階下にて作業にとりかかる。
でも作業を始めてすぐのことであった。
「ぐわっ!」
苦悶の声をあげたのはチンピラ風の弟分である。
ぷるぷる震えているスフィンクスと、ぐったりのびている茜色のネコをキャリーケースに収納すべく、のばした腕がいきなり血飛沫をあげた。手首のあたりがばっくり切れている。
かとおもえば、続けて右足のアキレス腱のあたりに激痛が走った。
先ほどのネコたちの攻撃とは比べものにならない痛み、血がどくどくと流れている。
真っ青になり、とてもではないが立っていられない。弟分は傷口を抑えてうずくまった。
そんな弟分を静かに見下ろしていたのは、一頭の白いシェパードであった。
階下の異変に気がついたサングラスの兄貴分が「おい、どうした? 何があった?」と階段を降りてくる。
だが弟分へ駆け寄ろうとしたところで、物陰から飛びかかってきた白い影に不意打ちされてしまい「ぎゃっ」
こちらも両足のアキレス腱を噛み切られて、たちまち身動きを封じられてしまった。
男ふたりを苦もなく倒してしまった白いシェパード。
無言のまま立ち去ろうとする。
その背に、目を覚ましたばかりの和香が声をかけた。
「にゃ、にゃにゃにゃ? (もしかしてあなたが助けてくれたの?)」
白いシェパードはわずかにうなづき、こう言い残して去っていった。
「わんわん。(じきに警察が来る。あとは好きにするといい)」
警察のごやっかいになったら、たぶん保護施設に放り込まれてしまう。
あるいは保健所送りなんてことも。
なにせいまの和香は野良みたいな立場なもので。
だから和香はお言葉に甘えることにした。目を回しているコテツたちを叩き起こして、いっしょにそそくさと退散させてもらうことにする。
なおスフィンクスは相談の上でここに残ることにした。
彼にはちゃんとした飼い主がいるそうで、警察に保護されたらすぐに家へ連絡がいくとのこと。なにせスフィンクスは高価で珍しい品種なもので、きっと飼い主は飛んで迎えにきてくれるはず。
というわけで「じゃあね、バイバイ」とお別れして、和香たちは倉庫をあとにした。
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