にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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017 秘密の花園

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 バスケットボールを小脇に抱え、たたずむ古峰玲央。額にほんのり汗をかいている。
 地区大会が近いので、食後の運動がてら自主練でもしていたのだろう。
 よもやの接近遭遇に、和香はどぎまぎ。
 それでもどうにか平静を装って「ううん、ちがうよ。わたしはスズちゃんのお手伝い」と返事する。
 すると玲央は「あぁ、そうか。音苗さんと赤宮さんってば仲がいいもんね」とにこり。
 ちなみに赤宮というのはスズちゃんの苗字だ。
 彼女のフルネームは赤宮五十鈴である。

(うぅ、なんか気まずい)

 予期せずして、花園にてイケメンとふたりきり。
 この状況を無邪気に喜べるほど、和香のハートは強くない。スズちゃんがつねづね口にしているように「イケメンは遠くから眺めているぐらいがちょうどいい」というのは本当であった。
 だから和香は土いじりを再開した、黙々と雑草を抜く。
 そのため会話が半端に途切れてしまった。
 にもかかわらず、いっこうに立ち去ろうとしない玲央。
 ばかりか、天気のことや花のことなんかを話題にしては、しきりに話しかけてくるではないか。まるでとってつけたような内容にて、無理に話の接ぎ穂をしているかのよう。
 なんとなく彼らしくない。和香はそうおもった。
 すると案の定であった。

「え~と、その……ところで、さっき白いシェパードがどうとか言ってなかったかな?」

 どうやら玲央の本命はこの質問であったようだ。
 それならそうと最初から言えばいいのに、ずいぶんと回りくどい。
 和香は内心首をかしげながらも「うん、言ってたよ」と答える。
 とはいえ、さすがに危ないところを何度も助けてくれた恩人ならぬ恩犬であることは秘密。
 だから「まえに河川敷で見かけて、かっこよかったから。どこのワンちゃんなのかなぁとおもって」などと、当たりさわりのない回答でお茶を濁す。
 そうしたら玲央は「あぁ、なんだ、そうだったんだね」と露骨に安堵したような表情をみせたもので、和香は「ん?」といぶかしむ。

 妙な反応だ。どうにも気になったもので、和香はもう少し突っ込んでみようとしたのだけれども、残念ながらここでタイムアップ。
 スズちゃんが戻ってきた。重くなったジョウロを持って「うんしょ、うんしょ」
 紳士な玲央は、そうと知るなり駆け寄っては運ぶのを手伝ったものだから、これにはスズちゃんの方が面喰らう。
 ジョウロを運び終えると玲央は「じゃあ」と自主練へ戻っていった。

 あとに残されたふたり。
 しばし呆けるも思い出したように水やりを再開する。

「それにしても人が水くみに行っている隙に、花壇でこっそり逢引(あいびき)とはねえ……やるなワカちゃん。でもいつの間にそんな仲に?」

 スズちゃんはにやにや。
 誤解である。
 和香はあわてて手を振り「ちがうよーっ!」と全力で否定した。

「っていうか、わたしもビックリしたんだから。向こうが急に声をかけてきたんだってば」

 なのにスズちゃんときたら、なおも「ほんとかなぁ、あやしいなぁ」と胡乱な目を向けてくる。

「ふ~ん、でも前にワカちゃんが学校を休んだ時も、古峰くんの方から教室で話しかけてきたじゃない? ふつうどうでもいい相手の心配なんてしないよ。いくらクラスメイトでもね。ましてや男の子同士や女の子同士じゃなければ、なおさら。
 これは……もしかしたら、もしかするんじゃないのぉ」
「いやいやいやいや、さすがにそれはないって。そんな雰囲気じゃなかったし。なにより古峰くんが気にしてたのってイヌのことだもの」
「イヌ?」
「そう、イヌ」
「あっ! それってさっきワカちゃんが言ってた白いシェパードのことかしらん」
「うん、それだよ。ところでスズちゃんは見かけたことないかな? 本当に真っ白だし、けっこう目立つとおもうんだけど」
「あー、たしかに目立ちそうだよねえ。ましてや最近は小さいのばかりだから大きいのは特に……というか、それノラ? それとも飼いイヌ?」

 スズちゃんの言葉に、和香はハッとする。

(あっ……そういえば、ホワイトナイトさまってば首輪をしてなかった)

 ということはノラになるのか。
 だがそのわりにはずいぶんと品があったし、態度も落ちついておりキレイでもあった。
 ノラ特有のやさぐれた感じはみじんもなく、白い毛は艶サラ。痩せてもいなかった。あれはしっかりと食事を摂っている体だ。
 なのに首輪をしていない。
 あれほど人目を惹く容姿とサイズともなれば、ひょっとして通報案件?
 でも……

 ウンウンうなっている和香に、スズちゃんが「そんなに気になるんなら、一度保健所にでも問い合わせてみたら?」と言った。
 それに和香は「あー、うん、そうかも」と生返事。
 あんまり乗り気にならなかったのは、じかに白いシェパードと接した経験から。
 よしんばノラだとて、きっとあれは人の手には負えない。
 そんな気がしてしょうがない和香なのであった。


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