にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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018 UMAウィキペディア

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 土曜日の午後。
 和香は近所にある図書館へときていた。
 目的は動物図鑑である。
 動物とおしゃべりできるという能力を得たものの、異種族交流はおもいのほかむずかしかった。

 ネコ同士ならばまぁまぁ、相手がイヌになると微妙、トリとかそれ以外だと……う~ん。
 言葉が通じるイコール会話が成立するわけではない。また一見すると会話が成立したとて、ちゃんと意志の疎通ができているわけでもない。
 人間にも賢い人やあわてん坊がいるように、動物にも頭のいいのもいれば、まったく他人の話に耳を傾けないのもいる。
 またネコにはネコの、イヌにはイヌの価値観みたいなのがあって、大切にしていることがある。
 これが地雷みたいなものにて、うっかり踏んだらとたんにバン! たちまち興奮状態となってしまい会話どころではなくなってしまう。

 動物たちと仲良くおしゃべりできるだなんて、なんてメルヘンチックと無邪気に喜んでいた己がうらめしい。
 さりとて匙を投げて、動物たちとのコミュニケーションを放棄するのはいささか惜しいわけで……
 だから和香は相手のことを知るべく、勉強しようと思い立った次第であった。

  ◇

 街に住む動物たちというタイトルの図鑑を広げては、ふむふむ。
 気になった情報をノートにメモしていく。
 そうしたら「あれ、音苗さんも来てたんだ。珍しいね」なんぞと声をかけられた。
 一瞬、まさかまた……と警戒する和香であったが、すぐに自分の早とちりに気がついた。
 古峰玲央じゃない、クラスメイトの高槻悠太であった。

 悠太は眼鏡男子にて、おちゃらけた男子たちが多いクラスにあって数少ない良識派、学級委員長を務めているだけあってマジメで堅実な人柄だ。眼鏡と前髪に隠れているけれども、よくよく見てみれば「あれ? けっこう整ってるかも」といった容姿にて。
 クラスの女子たちからは総じて高評価だ。

「付き合うなら古峰くん、結婚するなら高槻くん」

 なんていわれている。和香もその意見には賛同している。
 一般家庭にトキメキはいらない。平穏が一番、波風はマンガやドラマの中だけでいい。
 そんな悠太だが、ひとつだけガッカリポイントがあった。
 困ったクセというか趣味を持っているのだ。

 ネッシー、チュパカブラ、シーサーペント、ヒバゴン、雪男、ビッグフット、ツチノコ、フライングヒューマノイド、ガタゴン、ケサランパサラン、カエル男、ジェボーダンの獣、口裂け女、人面犬、八尺さま、翼猫などなど。

 嘘か誠か。
 UFO,妖怪、未確認生物などと呼ばれる者達。
 万事において常識的なくせして、何故だか悠太は超常のモノが大好きであった。
 日頃マジメ一辺倒に生きている反動か、それらに対してのみ並々ならぬ情熱を傾けている。
 つねにぶ厚い専門書を持ち歩き、知識量も半端なく、歩く妖怪大百科とか、動くUMAウィキペディアなんぞとの異名を持つ。
 うっかり話を振ろうものならば、とたんにスイッチが入ってしまい、熱弁が延々と続く。

「あれさえなければいいダンナになるのにねえ」

 と、女子一同が遺憾におもっている。
 そんな悠太がどうして図書館に居るのかといえば、「ここは僕のホームみたいなものだから」とのこと。
 この図書館には彼が好む書籍が多数所蔵されてあるそうで、暇さえあれば通いつめており、すっかり常連なんだとか。

 悠太は和香の隣に座って、写真集ほどもある大判のUMA図鑑を読み始めた。
 べつに彼の行動に他意はない。
 たまたま他の席が空いていなかっただけのこと。
 もともと館内では静かにするのがマナーなもので、とくにそれ以上会話が膨らむこともなく、ふたりは黙々と読書を続けた。

 そうして一時間ほども経ったところで、「う~ん」と和香は大きく背伸びする。とりあえず身近にいそうな動物の生態については、ざっと知識を詰め込んだ。
 とはいえ、あくまでなぞった程度なので、より深く理解するためには、今後も勉強を継続する必要があるだろう。

(御所さまぐらい力があったら、こんな苦労もたぶんいらないんだろうなぁ)

 心の中でぼやきつつ、和香がちらりと横を見れば、悠太は食い入るようにして図鑑を眺めていた。
 邪魔をするのも悪いと考え、和香はそっと席を立つ。
 動物図鑑を棚に戻し、図書館を出たところで和香は「げっ」
 通りを挟んだ向こう側にいたのは、三輪瑠璃と取り巻き達、『玲央さまファンクラブ』の面々であった。

 瑠璃たちも和香の存在に気がついて「あっ!」
 じつはここのところ学校では彼女たちにまとわりつかれており、和香はいささかうんざりしていた。
 原因はもちろん古峰玲央である。
 なぜだか、ちょいちょい絡んでくるようになった王子さま。
 玲央の動向は、校内に張り巡らされたファンクラブ会員らによる監視網によって、逐一上層部に報告されており、ことあるごとに和香のところに三輪瑠璃が突撃してくるようになったのだ。

「ちょうどよかったわ、音苗さん。少しお尋ねしたいことが――」

 瑠璃の言葉を最後まで聞くことなく、和香は脱兎のごとく逃げ出した。
 が、前にも述べたが和香の人間時の運動能力はたいしたことがない。
 比べて瑠璃は忙しい合間に、水泳やダンスにピアノや学習塾などなど、習い事をいくつも駆け持ちしている才媛である。加えてスタイルがよく、股下が長いのは伊達じゃない。

 タンッ!

 ガードレールに手をかけ、華麗に飛び越えたとおもったら、いっきに道路を横断しては「待てーっ」と刑事ドラマばりの追跡を始めたもので、和香は「ひぃいぃぃぃぃ」
 必死に逃げる和香。
 図書館の前の通りを、今度は反対側へと。
 すると建物入り口のところに悠太の姿があった。

「あっ、ちょうどよかった。音苗さん、これ忘れ物」

 彼が差しだしたのは一本のシャープペンシル。
 たしかに和香の持ち物である。
 けれども、いまは取り込み中にてそれどころではない。
 和香は「ごめん」と悠太の前を素通りしてそのまま駆けていく。


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