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030 フォルの野望
しおりを挟むフォルは梅津組の若頭である。
そして野心家のフォルは、ずっと美タヌキであるサンを狙っていた。
頭領の娘であるサンを嫁にして、ゆくゆくは組の実権を握り、その勢いのままに茂勢組をもたいらげ、どんぐり山天下統一を目論む。
サンはそんなフォルの本性をはやくから見抜いており、ことあるごとに尊大に振る舞う彼を内心嫌っていた。
でも、どれだけ嫌がろうともこのままでは……
そんな時に出逢ったのがパウロであった。
二頭はたちまち恋に落ちた。
フォルは激怒した。このままでは野望が潰えてしまう。
だから頭領につげ口をして、強引に二頭の仲を引き裂こうとしたのだけれども。
その矢先に掴んだのが、サンとパウロが文太親分の残したという伝説の秘宝を探すという情報であった。
サンたちは偉大なる祖先のご威光でもって、長らく続いてきた茂勢組の梅津組との不毛な争いに終止符を打ち、自分たちの仲を認めさせるつもりのようだ。
これに腹を立て鼻にしわを寄せるフォルであったが、ふとある悪だくみを閃いたもので、にやり。
「ギュッギュッユウン、ユワンワン。(いや、ちょっと待てよ。だったらその『ご威光』とやらを俺が手に入れればいいのでは?」
秘伝の巻物は半々に分かれて、双方の組が所有している。
これをバレずに持ち出すことは、さすがのフォルにもできない。
だが頭領らの身内であるサンとパウロならば可能だ。
二頭が手に手を取っては宝探しの冒険へ繰り出すというのならば、それをこっそり監視して、お宝が発見されたところで横からひょいと掠め取ってしまえばいい。ついでにパウロを始末してしまえば、労せずしてすべてを手に入れられるというもの。
フォルは己の考えにほくそ笑む。
◇
あっという間に囲まれた。
フォルが率いる集団は二十四頭にもなる。
対して和香たちは三頭のみ。
多勢に無勢であった。
「ギュギュギュギュギュッ、ウユン。(ごくろうだったな。では、その宝箱をこちらに貰おうか)」
にへら、いやらしい笑みを浮かべるフォル。
この段になって和香はあることに気がつき、自分のうかつさにいら立つ。
朽ちた社のところから、サンとパウロたちといっしょに逃げ出した時のこと。
迫る多勢の気配を察しての行動であったが、あれは罠であったのだ。
わざと気配を発することで、追捕の手がすぐそばまで迫っているようにみせかけ、和香たちをあおって逃げるように仕向けたのである。
追われている状況が、和香たちの心身に影響をおよぼし、知らず知らずのうちに焦りが生じる。
逃亡の途中からは背後から気配を感じないことに安堵していたのだけれども、それこそが狡猾なフォルの策略であった。
そうすることで和香たちを油断させて泳がし、尾行をしやすくしていたのである。
すべてがフォルの手の平の上であったと知り、和香は唇をキュッと噛んだ。
じりじり迫る包囲の輪。
「グルルルルルル! (この卑怯者めっ!)」
「キシャーッ! (あんたなんて大っ嫌い!)」
パウロとサンが毛を逆立て威嚇するも、フォルは鼻を鳴らす。
「ハッ、ウユ~ン、ウユ~ン、ユンユン。(ふんっ、恨むのならば自分たちのおつむの弱さを恨むがいい。さぁ、お嬢さま、遊びの時間はもう終わりだ。おとなしく言うことを聞くんだな。さもないと……)」
フォルがジロリとパウロの方を見た。
視線の意味は言わずもがな。
サンはビクリと固まる。
そんなサンを庇うように抱きしめ、パウロがキッとフォルをにらみ返す。
男たちの視線が交差して、見えない火花が散った。
一触即発、現場にていっきに緊迫感が高まってゆく。
だがしかし、成り行きで巻き込まれたネコなんぞは眼中にないらしく、和香はすっかり蚊帳の外であった。
でもそのおかげで少し冷静になれた。
(う~ん、三対二十四か。フォルは体が大きいし、仲間たちも血の気が多そうな連中ばかり。まともにやったら勝ち目はないね。けど、やりようはあるかな)
和香が考えついた打開策はこうだ。
まずどうにかしてこの包囲網を突破する。
そして向かうは谷――石の墓場だ。
いくつもの墓石が積み上がった場所は、ちょっとしたジャングルジムのようで、隙間がいくつもある。それを利用してのゲリラ戦を仕掛ける。なんなら『常夜の道』に逃げ込んでもいいだろう。あそこならば狭いので数の利は活かせない。一対一に持ち込めるので、きっとやりようはあるはず。
(……にしても、まさかこんなところで三輪さんたちに追いかけ回されていた経験が活きてくるだなんて、人生何が役に立つかわからないものね)
熱烈な『玲央さまファンクラブ』の面々からの執拗な追跡をかわす日々が、いつの間にやら和香に多勢を相手にする知恵を授けていた。
それに三輪さんたちのモーレツさに比べれば、フォルたちなんぞはぬるいぬるい。
というわけで、和香は「こほん」とわざとらしい咳払いにて目で合図を送る。
サンとパウロがそれに気がつき小さくうなづいたところで――
「にゃっ。(えいやっ)」
必殺ネコパンチ、スマッシュバージョンが炸裂する。地から天へと、すくいあげるようにして打つべし。
盛大に跳ね散らかしたのは、足下にあった落ち葉や砂など。
これを顔へまともに浴びたのが、包囲していたタヌキのうちの一頭であった。
いきなりのことにあわてるその一頭へ、和香はすかさず飛びつき、爪でガリっと頬を引っ掻いたもので「ぎゃっ」
サンとパウロも続く、そろってドンと体当たり。
不意打ちにより、たまらずそのタヌキは腹をみせてひっくり返った。
これにより包囲の一角が崩れる。
すかさず和香、サン、パウロは駆け出した。
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