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031 墓石谷の攻防
しおりを挟むまんまと策が成功した。
フォルたちには数の驕りもあったのだろう。
和香の機転により包囲網を破ることに成功する。
おもわぬ反撃を受けて混乱する敵勢、その隙に和香たちは谷――石の墓場へと向けて駆け出す。
「ギャギャギャギャッ! (何をぼさっとしていやがる、さっさと追いかけろ!)」
フォルの怒号により、配下どもが動き出すも少し遅かった。
この時点ですでに十メートルほどもの距離を稼いでいた和香たちは、そのリードを保ったまま谷へと逃げのびる。
地形を利用して抗戦することは、道すがらサンとパウロに伝えてある。
とはいえ戦力差は八倍だ。勝ち目はまずない。そこで適当なところで切り上げて、連中をドロンと煙にまきトンズラするつもり。
「にゃにゃにゃ。(それじゃあ無理せずほどほどでね)」
「ウユユーン。(ご助力、感謝します)」
「クゥ~ン。(どうかご武運を)」
周囲は敵のタヌキだらけ。
茜色のネコである和香は目立つので、囮役として派手に動き回る所存。
その裏でパウロとサンが物陰に潜みつつ、各個撃破をしては敵勢をちびちび削り、頃合いをみて撤収する。
フォルたちと戦って勝つ必要はない。タヌキの宝箱をサンとパウロが無事に持ち帰れば、こちらの勝利条件を満たすのだから。
というわけで、谷に入ったところで和香たちは散開した。
◇
シュタタタ、石だらけで足場の悪い谷底を軽快に駆ける茜色のネコ。
勢いのままにぴょんと跳ねては、ひと息に目の前の墓石の山を駆けのぼる。
「にゃにゃにゃ~ん。(やーい、おマヌケなタヌキども、ここまでおいで)」
はしたないだけど、お尻をむけては尻尾をゆらゆら。
薄っすら先祖返りであるがゆえに、半人前の猫又である和香は、まだ尻尾がふたつに分かれていない。
石山の天辺に立ち、追いかけてきた連中をこきおろし和香が挑発する。
これに「ムッキー!」とサルのように怒ったタヌキたちの集団が向かってきたところで、和香は「うにゃっ。(えいやっ)」と石の欠片を蹴落とした。
拳ふたつ分ほどの大きさ。転がり落ちる石が、他の石へとぶつかるたびに数を増やしては、さらなる落石が生じたものだから、下に居た者たちはたまらない。
ガラゴロと降ってくる石たちに、タヌキたちはあわてふためき、キャアキャア逃げ惑う。
いいように翻弄されている配下の者たち。
見かねて、フォルが声を荒げる。
「ギャギャギャガギャツ! (ばかやろう、固まるなバラけて一斉に仕かけろ!)」
だからその指示に従ったのだけれども……
「キャン!」
「ウユン!?」
「ギャフン!」
そこかしこで悲鳴が起きた。
なにせおっちら石山をのぼっていたら、いきなり後ろの足首をむんずと掴まれては、石の隙間へと引きずり込まれたもので。
もしくはどこからともなく飛んできた小石をお尻に受けたりもする。
やったのはパウロとサンであった。
墓石が乱雑にも折り重なっている地形により生じた内部の隙間、そこを素早く移動しては、ちょっかいをかけていたのはパウロだ。
サンはそんなパウロを投石にて援護する。
上の和香にばかり気をとられていたら、神出鬼没なパウロたちに足をすくわれる。
かといって穴倉に顔を突っ込めば、とたんに爪で引っ掻かれたり、石が飛んできて「アイタッ!」
そっちがそのつもりならばと、石合戦にて応じようとすれば、和香たちはササッと隠れてしまうもので、フォルたちは地団駄を踏むばかり。
といった具合にて。
戦いの序盤は和香たちが優勢であった。
けれども、それも時間を経るごとに、じょじょに風向きが変わっていった。
どれほど健闘しようともしょせんは多勢に無勢、疲労も蓄積していく。
だから当初の予定通り、ほどほどのところで行方をくらませようとしたのだけれども――
「きゃっ」
悲鳴の主はサン。
まずは彼女を逃がそうと『常夜の道』へ向かわせたのだけれども、敵もさるもの。
いつの間にか姿が見えなくなっていたフォルが、暗がりの奥で待ち伏せをしていたのだ。和香たちの意図と逃走経路を読まれていたらしい。
そうとは気づかずに、まんまとサンが捕まってしまった。
「グククククク、ウユンユン。(これまでだな。抵抗をやめろ、さもないと)」
勝ち誇ったフォルがサンの首筋に爪を突きつける。
和香とパウロは口惜しさのあまり、ぐぬぬと歯噛みする。
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