にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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049 封印塚

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 少しばかり時をさかのぼる。
 これは和香がどんぐり山のタヌキたちと冒険を繰り広げたあとのこと。

 遠足の途中で拉致されて、山中へと送られた和香。
 やったのは紅葉路内を徘徊している白いアレだ。
 イタズラにしては悪ふざけが過ぎる。あきらかに和香を狙ってのこと。
 だがその目的がさっぱりわからない。
 弟子の身に起きた奇妙な出来事。
 この話を聞いて師匠の御所さまは「はて?」
 すると虫のしらせか――

 ズキン。

 不意にうずいのは顔の傷。
 左目のところにある向こう傷は、百年ほど前に不覚をとってつけられたもの。
 やったのは由羅だ。

 由羅……
 それは音苗一族にとって、口にするのもはばかられる忌み名である。
 かつて一族を裏切り、祟りネコへと堕ち、ついには御所さまに叛旗をひるがえした者。
 退治され肉体を失ってもなお邪念は消えず。幽体となっては災禍をまき散らし、どうにか成仏させようとするが、高僧の念仏にも耳を貸さない。
 ゆえにやむなく塚へと封印した。
 塚はいまなお音苗家の警護役により、監視下に置かれている。
 ……はずなのだが、封印を施してからすでに百と十三年もの歳月が過ぎている。
 警護役も世代交代をしており、一族内でも由羅が起こした事件の数々についての記憶は薄れつつある。

 ――もしや、封印にほころびが?

 不安を覚えた御所さまは「よっこらせ」と重い腰をあげた。
 確認がてら、ひさしぶりに塚へ足を運んでみることにした。

  ◇

 世界が茜色に染まる黄昏刻――

 ブロロという車の走行音が遠い。
 代わりに聞こえてくるのは、テレビの音だ。
 ドラマの再放送であろうか。
 開け放たれた窓から漏れて伝わってくる。

 路地を歩いていると、食欲を刺激するニオイが漂ってきた。
 どうやらあそこのお宅、今夜はカレーのようだ。
 おっと、あわてて避ける。
 カレーのニオイに気をとられて足元がお留守になっていた。
 危うく蹴飛ばしそうなったのは、軒下に並べられてあった鉢植えたち。
 パンジーに日日草、ずいぶんと背が高くなって育ちきっている葉ボタン、それからプチトマトにネギが植えられている。
 ずらずら置かれた鉢植えは、大きさも形も材質もまちまちだ。植えられているものも、てんでバラバラ。世話をしている者の性格が如実にうかがえる。
 まるで統一感がないラインナップに、ついクスリと頬がほころぶ。

 さらに進むと前方に水溜まりがあった。
 付近の地面が濡れている。たぶん打ち水でもしたのだろう。
 踏んだとて履物がちょっと濡れる程度の浅いもの。
 でも、それをひょいと跳び越えてみた。
 濡れるのを厭うたというよりかは、自身の気持ちにはずみをつけるために跳んだ。
 正直なところ、いま向かっている場所へ行くのは少々気が重い。
 そんな己の心を鼓舞するための行動であった。

 ここにはどこか懐かしい風景と空気が残っている。
 取り立てて特徴がないのが特徴という、どこにでもあるふつうの町角。
 そんな町の片隅にひっそり、家と家との隙間、細長い路地を抜けた先にソレはあった。
 世俗から隔絶されたかのような空間。
 四畳半ほどの広さ、ネコの額ほどの狭い土地、その真ん中に苔むした石灯篭が置いてある。
 大人の腰ほどの高さしかなく、足も短く、ずんぐりとした造り。もとは由緒ある寺にあったのを譲ってもらって移築したもの。
 石灯籠の火袋にてゆらめく青い炎は小さく、いまにも消えてしまいそう。
 だが、この青い炎はどれほど風が吹こうが、雨が降ろうが、それこそ水や砂をかけようとも、この百と十三年、けっして消えることはなかった。

 青い炎――その正体は由羅の魂。

 封印されてからそこそこの時間が経っているものの、いまなおしぶとく燃え続けている。
 それすなわち……

「やれやれ、恨みの念はいまだ消えず――か」

 一見すると弱々しいが、その奥に潜むギラギラした強い輝きに御所さまは嘆息する。
 石灯籠の周りをぐるりと歩いてみる。
 ついでに周囲の様子も確認するが、とくにおかしな点は見当たらない。
 封印はしっかり機能している。
 だがしかし……

「妙だね。前に来た時よりもひと回りほど炎が小さくなっている」

 ついに観念して成仏する気になったか。
 と判断できなくもないが、御所さまはどうにも釈然としない。
 このギラつき具合からして、由羅にそんな気がさらさらないのは明白だ。何よりあれはそんな殊勝なタマではない。
 なのに炎の量が減っている。
 それすなわち由羅の魂の一部が減ったということ。

 ――では消えた分はどこに失せた?

 アゴをさすりながら「う~ん」と考え込む御所さま。
 青い炎は、そんな御所さまをニヤニヤあざ笑うかのようにして揺れている……ような気がしなくもない。
 顔をあげ、ふと東の空を見上げ御所さまはつぶやいた。

「にしても、まさかこんなに近かったとは知らなかったよ。いつの間にかトンネルや道路も出来ているし」

 塚から山を二つほど越えたところにあるのが、和香が住む町。
 かつては地形により隔絶されていたふたつの土地だが、いまでは道が繋がっており、車ならばほんの三十分ほどで行き来できるようになっている。
 以前に塚を訪れたときには、なかったものだ。
 人の世は移ろいやすく、目まぐるしく変化する。
 本家の奥の院に引きこもっている出不精な御所さまは、まるで自分が浦島太郎にでもなったかのような気になり、ちょっと顔をしかめた。

「さて、ただの取り越し苦労であればそれで良し。けれども万が一ということもあるからねえ。あの子には虹石のお守りでも渡しておこうか」

 羽織りの裾を翻し、御所さまは封印塚をあとにした。


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