にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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048 言霊

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 季節外れの暑さが続いている。
 ここのところ小学校の様子がおかしい。子どもたちが、ずっとソワソワしている。
 町の雰囲気もどこかヘンだ。こちらもザワザワと空気が揺れている。目には見えないさざ波のようなものが起きている。
 救急車を見かけない日がない。サイレンの音が一日中聞こえている。
 大人たちは妙にイライラしており、動物たちも騒いでいる。

 さなかに起こったのが、サッちゃんこと鍋島幸恵の緊急搬送。
 やはり熱中症だったらしく、けっこう危ないところだったらしいけど、発見が間に合って一命をとりとめた。
 五日ほどで退院できると聞かされて、和香もホッと胸を撫で下ろす。
 だけど……

 気になるのが高槻悠太だ。
 いつからあの現場にいたのかわからない。
 けど、あの時の彼の態度からして、マズイところを見られたのはほぼ間違いないだろう。いかに緊急事態だったとはいえ、うかつだったと反省するもあとの祭り。
 悠太は無類のUMA好きだ。このままではきっとすまない。あれ以降、絡んでくることはなくなったが、そのかわりに何やらおもいつめた表情にて、じっとこちらを見ている。
 和香はドキドキしながら、その時が来るのを待つ。

 数日後。
 ついにその時が来た。
 和香が登校すると、机の中に一枚のメモが入っていた。
 悠太からだ。昼休みに呼び出された。場所は体育館裏である。
 先に来て待ち構える和香は「ふぅ」と緊張した面持ちにて空を見上げる。
 いったい何を言われるのやら。

(適当にはぐらかす……のは、さすがにムリか)

 質問攻めぐらいですめばいいけれど。
 面と向かってバケモノ呼ばわりとかされたら、さすがにへこむかも。
 事と次第によっては御所さまや猫嶽を頼る必要も生じるだろう。
 ……とか考えていたら、悠太が姿をあらわした。

 ざっざっざっ。

 悠太が地面を踏みしめズンズン近寄ってくる。
 無言のまま一メートルほどの距離にまで近づいてきたところで、ピタリと立ち止まった。
 かとおもえば、じっと和香の目を見ながらいきなりこう言った。

「ぼ、僕は何も見ていないから。言いたかったのはそれだけだ……じゃあな」

 一方的にそう告げると、悠太はきびすを返しさっさと行ってしまった。
 あとに残された和香は、ぽかん。
 さすがにこの展開は予想していなかった。

(ええ~と、これって見逃してもらえたってことなのかしらん。でも、どうして?)

 悠太の不可解な態度に、和香は「う~ん」と大きく首をかしげる。

  ◇

 音苗家の本家屋敷、奥の院にて――

 いろいろ悩んだものの、和香は御所さまにすべてを正直に打ち明けた。
 正体が知られるのは御法度。
 もしかしたらお咎めを受けるかもしれない。
 けれどもいま自分の周辺や、町に起きている異変について相談するにあたって、悠太の件は隠すべきではないと判断した。

 ひとしきり話を聞き終えた御所さま、とくに怒ることもなく「ほう、そうかい」とだけ。
 てっきり叱られるものかとビクビクしていたら、とんだ肩透かし。和香が不思議がっていると、御所さまは煙管をぷかりぷかりふかしつつ。

「どうして怒らないのかって? フフン、それは悠太とかいうガキが漢気を示したからさ。
 成りは小さくとも、いっぱしの男じゃないか。たいしたもんだよ。
 そいつなりにいろいろ考えての覚悟の宣言だろう。気合いの入ったいい言霊がしっかりのっていやがる。
 だったら大人がそいつを受け止めてやらんでどうするよ」

 くつくつ肩を震わせる御所さまはとても楽しそう。
 一方で和香は言霊うんぬんの話にきょとんとするばかり。
 そんな弟子に師匠は目を細め言った。

「言霊ってのは、言葉に宿る力のことさ」

 軽いのから、重いのまで。
 意味のあるものから、まったく価値のないものまで。
 ひと口に言葉といっても、いろいろある。
 そのうちの力を持ったものを言霊という。
 強い想いや決意を込めた言葉というものは、相手の心にしっかり届く。魂に響き、ときには激しく揺さぶり、突き動かしさえもする。

 教えられて和香は「あっ」
 思い出したのは、女性の通信員からかけてもらった励ましの言葉。
 パニックを起こしかけていた和香を一瞬で鎮めたばかりか、やるべき行動をも促す。
 あの声には勇気をもらった。
 理解したとたんに、言霊という存在がストンの自分の中に落ちてきたのを、和香は確かに感じた。
 そして御所さまほどともなれば、弟子からのまた聞きでも言霊を感じとれる。そこに込められた真意をも見透かすそうで。

 御所さまいわく――
 高槻悠太は和香の正体を知った上で、あえて口をつぐみ秘密を墓場まで持っていくことを選んだ。
 理由はおそらく和香が自分の正体がバレる危険を冒してまで、老婆を助けたから。
 その行動に感銘を受けたがゆえの、あの体育館裏での宣言であったのだろう。

「悠太坊が漢気をみせたんだ、応えてやらねば女がすたるってもんさ。こいつはあんたもうかうかしていられないねえ、せいぜい気張りなよ」

 との御所さまの言葉に、和香はしゃんと背筋をのばし居ずまいを正した。


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