にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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052 魔女狩り前夜

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 陽気だけじゃない。
 ここのところ町の様子がおかしい。
 どこがどうとは、はっきり言えない。
 けれども妙に心がざわつく、落ち着かないのだ。
 いつもと変わらない見慣れた風景、なのにどこかピンと張り詰めたものが根底に漂っている。小さなトゲでも刺さっているかのような不快さが絶えずつきまとう。
 答えのわからない間違い探し。
 いったん意識してしまったらもうダメであった。
 和香は気になってしょうがない。
 いちおう御所さまには相談済み。

「どれ、こっちでも調べてみよう」

 とのお言葉を頂戴しているので、いまは報告待ちだ。
 そんなさなかに起こったのが、例の連続通り魔事件である。
 内容はまるで怪談そのもの。かつて世間を騒がせた、口裂け女や赤マントの再来。すわ、新たな都市伝説の誕生か?
 子どもたちは『狼爪の切り裂きジャック』に恐れおののく。
 同じ中学の生徒ばかりが被害にあっていることも、様々な憶測を呼ぶ。
 マスコミも動き出し、大人たちにも動揺が拡がりつつある。

 五年二組の教室でも寄ると触るとその話題で持ちきりだ。
 でも、この状況をもっとも歓迎しそうな人物がずっと沈黙を守っている。
 学級委員長の高槻悠太。
 彼は無類のUMA好き。この手の話題にもっとも喰いつき、それこそ小躍りして喜びそうなもの。なのに周囲からいくら話題を振られても、適当にお茶を濁しては、ずっとムズカシイ顔をしている。らしくない。

 そんな悠太だが、和香がひとりになるタイミングを見計らってこそっと接触してきた。
 スススと音もなく近づいてきたとおもったら、ぼそり。

「あの姿のときには、気をつけろ」

 忠告であった。
 ルナちゃんの家族のこともあったので、この時の和香はてっきりそのことを心配してのことかとおもったのだけれども……

 翌日のこと。
 コテツとルナちゃんの様子を見に行こうと、ネコの姿にて町を歩いていた和香はビクっとして立ち止まる。
 不意にざわり、背中を逆撫でされたかのような感覚に襲われる。
 あわてて和香はキョロキョロ。
 が、とくに不審な者は見当たらない。不快な感覚もすぐに失せた。
 気のせい――なのか? 首をひねりつつ、和香はふたたび歩き出す。
 でも、公園へと差し掛かったところで、またしても立ち止まることになった。

 キャッキャと遊んでいる子どもたち。
 それを見守りつつ、井戸端会議に興じているママさんら。
 いつもと同じ見慣れた公園の景色だ。
 なのに、和香が「にゃんにゃん」鼻歌まじりで足を踏み入れたとたんに――

 しぃん……

 急に声が聞こえなくなった。
 代わりに向けられたのは複数の視線である。
 その場に居合わせた老若男女が、一斉にこっちを見てきたもので和香は「うにゃ!?」

(なによ……これ。いつもとちがう。っていうか、怖い!)

 和香を怯えさせたのは、みなの目だ。
 ネコは人気者にて、向けられるのはたいてい好意的な視線である。
 でも、いま向けられているソレはいつもとは真逆、不審の色がありありと浮かんでいる――疑念、戸惑い、恐れ、警戒などなど。
 まるで逃亡中の凶悪犯にでもばったり遭遇したかのような……

 歓迎されていない。
 そろどころか逆に石でも投げられかねない雰囲気に、和香もこれはマズイと察する。
 なのに多数の視線に絡めとられてしまった。立ちすくんで一歩も動けず固まってしまう。
 どうしていいのかわからない。
 パニックに陥りかける和香。
 そんな窮地を救ってくれたのはホワイトナイトさま……ではなくて、コテツであった。
 どこからともなくあらわれた大きな鯖虎が、ひょいと和香の首をくわえたとおもったら、あっという間に連れ去っていく。

  ◇

 路地裏、壁のすき間、繁みの奥――コテツは物陰から物陰へと素早く移動する。
 プラプラされるままに運ばれた先は、あちこち穴だらけのボロ倉庫であった。
 敷地がフェンスで囲われており、人が立ち入れないようになっているが、ネコの身ならばどうとでも。
 ここはコテツたちが集会で使っている場所のうちのひとつ。
 安全が確保されたところで和香をポイっと放し、コテツが言った。

「ぐるるるるるるる、ごろごろごろ。(あんなところでぼんやりしてんじゃねえよ。ここのところ人間どもがネコに向ける目がヘンなんだ)」

 町の連中がネコを目の敵に……とまでは言わないが、胡乱げに見てくる。その表情が不気味だ。
 ネコ好きの連中さえもが、以前のように無防備に近づいてこなくなった。
 コテツの話では、急に人とネコとの関係がギクシャクしだしたらしい。
 とはいえ人間たちの気まぐれはいつものこと。連中は勝手にかわいがっては、都合が悪くなるとすぐにそっぽを向く。
 けれども、今回のはかなり様子がちがっており、ネコ側も戸惑っているという。

 コテツの話に和香はハッとした。
 悠太が「気をつけろ」と言っていたのは、きっとこのことであったのだ。
 世間を騒がしている『狼爪の切り裂きジャック』の影響が、ネコ社会にまで波及しつつあると知り、和香はみるみる青ざめていく。


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