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053 ネコのいない町
しおりを挟む町からネコの姿が消えた。
人々から自分たちへと向けられる視線、そこに込められた感情の変化を敏感に察し、いまは距離を置くべきだと判断したからだ。
原因は『狼爪の切り裂きジャック』事件である。
犯人の正体がバケネコらしいとのウワサがどこからともなく流れ、みんな表向きは「そんなことがあるわけがない」と笑うけれども、ほんの少し心の片隅にて「でも、もしかしたら……」との疑念がぷくり。
ひとつひとつは吹けば飛ぶような、とても些細でわずかなモノ。
でも、そんなシロモノでもいくつも集まると大きな意識となり、考えとなり、流れが生まれる。こうなると奇妙な力学が働き、集団はゆるやかにおかしくなっていく。
いまはまだ理性が勝っているものの、不安と恐怖などのストレスから、人々がいつ暴発するとも限らない。
だからネコたちは騒ぎに巻き込まれる前に逃げた。
とはいっても本当に町からいなくなったわけじゃない。
身を潜めているのだ。
なにせネコたちはかくれんぼが大得意にて。
◇
町でノラネコを見かけなくなってから、数日後のことである。
「ワカちゃん、ワカちゃん、ビッグニュース! ゆうべ、四人目が出たんだって」
登校してきた和香が教室に入るなり、スズちゃんが興奮気味に話しかけてきた。
ついに四人目の犠牲者が。
しかも、また同じ中学の生徒だったらしい。
「それで――ね」
急に声を落としたスズちゃんが、ひそひそ。
「じつは被害に遭ったのって、あの鳳盃学院(ほうはいがくいん)の生徒だったらしいよ」
鳳盃学院といえば、県下有数の進学校の私立中学である。
偏差値64、授業時数が年間で千二百時間にも及び、卒業生の中には著名人多数という、全国的にも名が通った学校だ。
県内のみならず、県外からも賢い子らが集う学び舎。
そんなところの生徒が事件に巻き込まれたというだけでも、かなりセンセーショナルであろう。
だが、その裏にはさらなる衝撃の事実が――
なんと! 通り魔によって病院送りにされた生徒たちは五人組のグループで、五人はストレス発散と称して、動物相手に悪さをくり返していたというのだ。
これまで隠されていた悪行の数々が白日の下にさらされ、オセロのごとく盤面が白から黒へと変わる。
かわいそうな被害者が、一転してバッシングされる側となった。
そのことを把握していながらダンマリを決め込んでいた家族や、不都合な情報を伏せていた学校側にも批判が殺到しており、てんやわんやなんだとか。
ネットではすでに個人情報も流出しているという。この分では少年たちは高い代償を延々と払わされることになりそうだ。
自業自得にて、ざまぁである。
とはいえ、このことをスズちゃんから教えてもらった和香は「んんん?」
(あれ、中学生の五人グループって……、まさかルナちゃんの!)
ネコは子々孫々七代まで祟ると昔から云われている。
これは国内だけでなく、世界各地でも云われていること。
本当のところはわからない。
でも一連の話を聞いて、和香の中ではすべての歯車がピタリと噛み合ったような気がした。
(もしかして通り魔の正体がバケネコうんぬんてウワサ、あながち的外れってわけじゃなかったのかも……)
だとしたら暴れているのは、ルナちゃんのお母さん!
少年たちにされたことをおもえば、怒り狂っていても不思議じゃない。
けど、だけど……
このままだときっとよくない。
和香はそんな気がしてしょうがなかった。
とはいえ自分は半人前の猫又に過ぎない、へっぽこな和香に何が出来るだろうか。
わからない。
それでもとりあえず放課後になったら、ルナちゃんの様子を見に行こうと、和香は決めた。
ルナちゃんはいまコテツたちに保護されている。郊外のとある場所に他のノラネコらといっしょに避難しているはずだ。
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