にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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054 消えたルナ

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 町から消えたコテツたち。
 いったいどこに避難していたのかといえば、そこは和香も一度だけお世話になったことのある場所であった。
 ペット誘拐犯たちがアジトにしていた、あの倉庫。
 いい塩梅に寂れており静かな環境、そこそこの広さがあってしっかり雨露がしのげる。むき出しの鉄筋の梁やロフトがネコ的には楽しい造り。町からもほど近く食べ物の調達にも便利……などなど。
 よってあの出来事にさえ目をつむれば、これほど都合のいい隠れ家はない。
 とはコテツの談。

 今日は授業が五限目までだったので、和香は放課後にいったん家に帰ってから、コテツたちのところに差し入れを持って陣中見舞いへ。
 でも、行ってみたら何やら様子がおかしい。
 忙しなく出入りしているネコたち。「にゃあにゃあ」あわてているではないか。

「うなぁ~ご? (コテツなんの騒ぎ、どうかしたの?)」
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ! (どうしたもこうしたもねえ、ルナのやつがいなくなっちまった!)」

 家族を目の前で奪われ、自身も酷い目にあったルナちゃん。
 仲間に囲まれた静かな環境が良かったのか、最近ではずいぶんと落ち着いていたので安心していたのに。てっきり周辺で遊んでいるのかとおもったら、いつの間にか姿を消していたとのこと。
 心配だ。
 ここは大きな道路から離れているとはいえ、車がまったく通らないわけじゃない。
 それにルナちゃんは人間に強い不信感を抱いている。うっかり商店街など、人が多いところなんかに迷い込んだら、たちまちパニックに陥るだろう。

「んなぁ、なぁなぁなぁ~? (ねえコテツ、ルナちゃんがどこに行ったか心当たりはないの?)」
「ぐるるるるるるる。(わからん。が、アイツ……ゆうべ、妙なことを言っていたんだ)」

 なんでも、ぼんやり月を見上げていたとおもったら、ルナちゃんはふと「ナァー。(おかあさんがよんでる)」とつぶやいたという。
 でもルナちゃんのお母さんはもう……
 だから母恋しさのあまり、そんな言葉をつい口にしたのだろうと、その時のコテツは考えたそうなのだけれども。
 和香はハッと息を呑む。
 なぜなら現在、町で暴れている『狼爪の切り裂きジャック』の正体が、ルナちゃんのお母さんの亡霊なのかもしれないから。

 先祖返りに御所さま、猫又がいて、不思議な宵闇の町や猫嶽、紅葉路があり、神出鬼没な白いシェパード、ネコのお奉行さま、なぜだか和香にイタズラをしてくるアレなんかもいる。
 人間たちが知らないだけで、世の中には不思議なことがたくさんある。
 いろんな体験を通じてそのことを知った和香は、ルナちゃんが急に姿を消したことと、今回の件がまったくの無関係とは、どうしてもおもえない。
 だから「にゃー、にゃー、にゃー。(わたしもルナちゃんを探すのを手伝う)」と申し出た。

(もしも本当にお母さんに呼び寄せられたのだとしたら、もっとも向かう可能性が高いのはきっとあそこのはず――)

 復讐相手である五人の中学生、そのうちの最後のひとりのところ。
 犯した罪が露見し、とっくに身バレもしており、ネットに個人情報がさらされて盛大に叩かれているから、調べれば住所はすぐにわかるだろう。
 だから和香がさっそく向かおうとするも、「にゃにゃ。(おれも行く)」とコテツも言い出したので、二頭は連れ立って倉庫を出た。

  ◇

 例の中学生の家に行ってみたものの、和香とコテツは大きく目を見開き立ち尽くす。
 ぐちゃぐちゃだった。
 よくある二階建ての一軒家なのだけれども、玄関のドアには大きな五本爪の掻き傷が深々と刻まれ薙ぎ倒されており、窓ガラスもあらかた割られている。
 家の中もしっちゃかめっちゃか。
 襖や障子に網戸もビリビリだ。壁やフローリングの床にもたくさんの掻き傷とともに足跡が残っており、鳥の羽根なども散乱している。
 まるで大勢が押し入って、乱暴に家探しをしたかのよう。
 だが、これは人間の仕業じゃない。
 その証拠に、現場には濃厚な獣のニオイが残されていた。

「にゃ~ん、にゃ~ん。(おーいルナ~、いるのかー)」

 先に我に返ったコテツが屋内へと呼びかけるも、返事はなし。
 家の中はしぃんと静まり返っている。
 どうやら誰もいないようだ。
 にしても、これはいったい……

 呆然としている和香、そこへ聞こえてきたのはバサリという翼の音。
 かたわらに舞い降りてきたのは隻眼のカラスのジョー。
 ジョーは切羽詰まりながら言った。

「カー! カー! カー! (これは動物たちの仕業だ。みんな急におかしくなっちまった)」

 空からは、カラスだけでなくハトやスズメにムクドリなど、町でよく見かけるトリたちが。
 地からは、イヌにネコ、タヌキやイタチ、ハクビシン、アライグマ、ネズミ、リスなどの獣たちが。
 野生動物が多かったものの、人のペットもけっこう混じっていたらしい。
 それらがどこからともなく集まったとおもったら、たちまち膨れ上がって大きな群れとなり、一斉にこの家めがけて突撃した。
 ジョーは止めようとするも、みんなまるで熱に浮かされたかのように興奮しており、どうしようもなかったという。
 驚愕の事態である。
 だが、それにも増して和香らを困惑させたのが、そんな動物たちを率いていたのが一匹の子ネコだということ。
 特徴を聞いたかぎりでは、ルナちゃんらしいのだが、ただならぬ様子であったという。


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