にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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059 彩光の奇跡

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 亡霊の号令により、動物たちが動き出す。
 野実神社の境内はたちまち騒然となった。

「ひぃいぃぃぃぃ」

 少年の悲鳴が聞こえたものの、すぐにいろんな獣の声にかき消されてしまう。

「ウォオォォォォォーン!」

 応戦しながら吠えたのはホワイトナイト。
 さりとて牙や爪は使わず。襲ってくる動物たちは亡霊に操られているだけだ。それがわかっているがゆえに、うかつに傷つけるわけにはいかない。
 だからホワイトナイトは頭突きや体当たりで相手を突き飛ばしたり、足を引っかけて転がしたり、首根っこや尻尾をくわえて振り回しては投げ飛ばしたりして応戦する。
 しかし、いかんせん敵の数が多すぎた。
 押し寄せる波のような大攻勢。
 それを前にして、じりじりと後退をよぎなくされる。
 狭まる包囲網、ついには乱戦に突入した。
 これによりホワイトナイトに守られていた和香のところにも動物たちが迫る。

「うんにゃあーっ! (お願い、みんな正気に戻って!)」

 和香は懸命に訴えかけるも、その声は誰の耳にも届かない。
 非力な和香はこうなったら何もできない。ただもみくちゃにされるばかりだ。
 でも、その時のことであった。
 突如として、和香の足下が明滅したとおもったら輝き始める。

 ピカピカピカっ。
 まばゆい光を放っていたのは――和香の影?

 ネコの姿になっている時、影の中には和香の衣類や持ち物などが入っている。猫又にとって影は、便利な収納スペースなのだ。
 そんな影に異変が起きた。
 輝きがどんどん増していく。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、七つの色が生じる。
 煌々と虹色にきらめき、ついには天突く彩光の柱が立つ。

「にゃにゃにゃ!? (なっ、なんなの!?)」

 わけがわからず、和香はびっくりして立ち尽くす。
 あまりのまぶしさに、その場にいた誰もが動けず、とてもではないが目を開けていられない。
 たまらず和香も目を閉じた。ホワイトナイトは顔を伏せる。
 そのさなかに聞こえてきたのは……

『ぐっ、お、おのれ……。何だ、何なのだキサマは!?』

 亡霊の苦悶まじりに戸惑う声であった。

  ◇

 光が収束していく。
 恐るおそるまぶたを開けた和香はお口をぽか~ん。
 動物たちはギョッとして固まっており、いつもはクールなホワイトナイトですらもが、目をぱちくりさせている。
 それもそのはずだ。
 なにせ宙にぷかぷかと、ヌイグルミが浮かんでいたのだもの。

 5~60cmほどもあろうか。
 子どもならば両手で抱きかかえる大きさだ。
 ずんぐりむっくり、デフォルメされた人型のヌイグルミ。
 波打つ白い髪が、背の中ほどあたりにまでのびている。
 服装は紺の小袖姿に、淡い青と白の市松模様の羽織をはおっている。
 小さくてかわいいけど、ちょっとえらそう。

「ん?」

 その後ろ姿に、和香は何やら見覚えが……って「あぁーっ!」
 どおりで見覚えがあるはずだ。
 なにせそのヌイグルミは、御所さまを模したものであったのだから。
 左目のところにある向こう傷までもが忠実に再現されており、まちがいない。

 ヌイグルミの御所さま――ミニ御所さまが驚いている和香の方をふり返り、にへら。

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん! ってね。いやはや、こいつはたまげた。まさか預けた虹石がこんなのに化けるとはねえ」

 ミニ御所さまは言った。
 このヌイグルミ、もちろん本物の御所さまではない。いわば分体のようなもので、元は御所さまが和香に渡した御守りの虹石だという。
 それがいったいどうしてこんなことになっているのかといえば、そもそもの原因は和香であるとのこと。

「うにゃ! (えっ、わたし)」
「そうさ和香、あんたのチカラが虹石に込められた念と混ざって、このあたいがポンっと産まれたんだよ」

 いまだに覚醒していなかった和香の第三の能力。それが危機的状況に追い込まれる中で開花したことにより、ミニ御所さまが出現した。もちろんこの状況を打破し、主(あるじ)の窮地を救うためである。

「なぁなぁ、にゃおん。(へ??? わたしのチカラっていったい何なの)」
「あー、その話はまたあとでな。それよりもいまはアイツをどうにかしないと――だろ?」
「にゃにゃっ! (はっ、そうだった!)」

 倒すべき相手がいることを思い出し、和香が拝殿の屋根を見上げれば、そこには彩光を浴びたせいで悶え苦しんでいる亡霊の姿があった。


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