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032 変身二号
しおりを挟む研究棟の火災はひとまず鎮火。
被害は建物の三分の一程度ですみ、どうにか全焼はまぬがれる。
けれどもケガ人がそこそこ出た。なかには全身に大ヤケドを負ってしまった人も……。
「ダメです。このままだと」
治療にあたっていた者たちの間にあきらめが漂う。
運悪く、噴き出した炎の直撃を受けたのは女性の研究員。たまさか火災現場近くを通りがかったときに巻き込まれてしまったらしい。
なんとか救助されたものの、顔の半分が焼けただれ、髪の毛も失せてしまっており、体もズタボロにて、見るも無残な姿。
それを前にして黙っていられるほど、わたしは大人ではない。
というか、まだまだ子ども。ゆえに直情的に動く。女の子はちょっとぐらいわがままな方がかわいい。と里の誰かが言っていた。
治療用の清潔な水がはいった瓶に、白銀のスコップ姿となったミヤビを突っ込み、ぐりぐりかき混ぜる。
たっぷり天剣と水の才芽のチカラを注入して準備完了。
患者の周囲にいた人だかりを蹴散らし、虫の息の女性に瓶の中身をバッシャーンとぶちまける。
とたんに患者から白煙がしゅわしゅわあがって、皮膚の再生が始まる。
でも、まだ足りない。損傷は内部深くにまでおよんでいる。
「誰かっ、上等な液体のクスリがあったら持ってきて!」
わたしは声高に要請。
けれども周囲の誰も動かない。どうにも反応が鈍い。目の前の奇跡に心が奪われてしまい、すっかり固まってしまっているようだ。気持ちはわからなくもないけど、いまはそれどころじゃないのに。
イラ立つわたしがいま一度叫ぼうとしたとき、人垣の中から「それならコレを」と薬壺を持ってあらわれたのはアンズー卿。真っ青な顔でゼエハアと息が荒い。どうやら患者の重篤ぶりをまのあたりにして、すぐに薬の確保に動いてくれたみたい。
渡された薬壺の中身は透き通った若葉色の液体。漂うは王者の風格。素人目にもめちゃくちゃ高価なクスリとわかる。
事実、壺の中身を知った周囲からは、どよめきが起こっていた。
続いて周囲が「ひぃ」と悲鳴をあげる。
そんな薬壺を小娘がスコップ片手にじゃぶじゃぶはじめたものだから。
あげくに先ほどと同じように、患者にぶちまけたときには「ぎゃーっ」と絶叫が起こり、なかには泡を噴いて気を失う者まで。
でも、これにより患者はいっそうの白煙をあげて回復の度合いを加速させていく。
けれどもまだまだ。内と外からの二段構えでこそ治療はより真価を発揮する。そのことをこれまでの経験でわたしは学習済み。
よってダメ押しとばかりに、わたしは薬壺の残りをクイッとあおるなり、ぶっちゅうと口移し。強引に患者の体内へと投薬する。
◇
患者から生じていた白煙の勢いがじょじょに弱まっていく。
どうにか治療は成功したらしい。
奇跡の行方を固唾を飲んで見守る周囲の人々。
しかし必ずしも好意的な雰囲気ではない。
自分の背に向けられる数多の視線の中には、強い興味だけでなく、明らかな嫌悪や憎悪すらも混じっていることを、わたしはヒシヒシと感じていた。
でもそれは無理からぬこと。
ずっと真摯に生命と向き合い、医学の道を歩んできた者からすれば、わたしのチカラや行為はインチキ以外の何物でもない。彼らが膨大な時間と労力を費やしコツコツと積み上げてきたことを一蹴し、嘲笑い、踏みにじるかのようなもの。「バカにしているのか!」「医学を冒涜するな!」と罵られたとて、わたしは反論できない。
いろんな感情が渦を巻き、現場の空気が膨れ上がっていく。緊張感が充ちてゆく。
このままではいずれ弾ける。
そのとき噴出するのは、いかなる感情か。
最悪、混乱が生じて暴動もありうるかも。
そう警戒していた矢先のこと。
白煙るモヤの向こうにてムクリと上体を起こしたのは、ついさっきまで死にかけていた女性の研究員。
「あれ、私……、たしか炎にまかれたはずなのに。どうして生きているの?」
自分の身に起きた変化に戸惑っている彼女がケホケホ咳き込みながら、周囲の煙を手で払う。
そうしてあらわとなった姿を前にして、現場に響いたのは「「「誰だよ、おまえっ!」」」というツッコミの大合唱。
全身に大ヤケドを負って死にかけていた女性。
上級研究員にて歳は四十ちょい。仕事一筋、性格キツメの行かず後家。何かと口やかましいお局さまとして、みんなから恐れられていた存在。
が、復活した彼女はそれはそれは見目麗しいご婦人の姿となっていた。しかも焼けて失せていたはずの髪もすっかり生え、金髪くるくる巻き毛のお嬢さま風というオマケつき。
彼女のもとの姿をわたしは知らないけれども、みんなの驚きようからして相当の変化なのはまちがいない。
原型をまるでとどめていない変身復活。
わたしはこれに見覚えがある。
かつて神聖ユモ国で行われた選定の儀のおり、勇者の才芽持ちにけちょんけちょんにやられた男。紅風旅団の団員番号四十九万六千四百五十一番ドルア。全身なます切りにされて死の淵を彷徨っていた彼を助けたときにも同様のことが起こった。
超高価な薬にわたしの水の才芽と勇者のつるぎミヤビの能力を合算すると、発生する超常現象。
医学の常識をことごとく打ち砕く、奇々怪々な展開に一同唖然。
わたしに対する不平不満なんぞは、たちまち霧散してしまった。
けれども別の衝撃にて現場はさらなる混乱に見舞われることになる。
周囲の反応に戸惑うお局さま「えっ、えっ、なに? ちょっとなんなのよ?」
そんな彼女にいきなりガバっと抱きついたのは、誰あろうアンズー卿。
「よかった、カメリ。キミが助かってくれて本当によかった」
女性を強く抱きしめ、ひと目もはばからず涙を流すアンズー卿。その姿が物語っていたことは言わずもがな。
諸事情にて周囲には秘密にされていた二人の関係。まぁ、大人にはいろいろあるからね。ちなみにアンズー卿は妻子持ちだよ。
これを知って「えぇーっ!」と現場に激震が走り、もうわちゃわちゃ。
おかげでわたしに対するもろもろの負の感情なんて、完全にどこぞへ吹き飛んでしまったよ。
めでたしめでたし。
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