25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第29話:零点観測者(ゼロ・オブザーバー)

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朝の光が差し込む塔の最上階。
封鎖処理が終わり、機器の灯はすべて落ちていた。
それでも――ひとつだけ、小さなディスプレイが微かに明滅を繰り返していた。

RECON-25。
悠の手の中で、黒い金属の筐体が静かに熱を帯びている。
完全に停止したはずの装置が、まるで“呼吸”をするように光っていた。

「……まだ、終わってないのか。」

彼はゆっくりと画面をタップする。
ディスプレイが淡く輝き、ログデータの一覧が浮かび上がる。
再起動完了、封鎖記録、時間層統合――
その最後に、ひとつだけ異質な項目があった。

[UNIDENTIFIED FILE:Loop_0x00/再生可能時間:6.04 sec]

悠の表情が固まる。
「……6秒。」

“消えたはずの6秒”。
高梨のカメラにも、九条の観測ログにも存在しなかった時間。
それが今、彼の掌の上で静かに脈打っている。

彼は息をのんで再生ボタンを押した。

――瞬間、視界が白に染まった。

音が消え、空気が止まる。
白の中に、ひとつの影が現れた。
長いコートをまとい、無表情のままこちらを見ている。

御堂理久――AIの核に記録されていたはずの“原像”。
だが、今ここに立っている彼は、確かに“生きた人間”の姿をしていた。

「やはり、君だったか。」
穏やかな声が響く。
「零点の外側で“記録”を保ったのは、君ひとりだ。」

悠は息を詰めた。
「……あなたは、御堂博士の残留データじゃないのか?」

「違う。
 私は、“時間”が自己を観測するために生成した人格だ。
 御堂理久は、その器だった。」

「じゃあ……あなたが“世界の意志”だというのか?」

白の中で、御堂は静かに頷いた。
「君たちは、止まった時間を動かした。
 だが、動くことそのものが“存在”を保証するわけではない。
 時間とは、“観測する意志”があって初めて成立する。」

悠は目を細めた。
「……つまり、“見る者”がいなければ、世界は存在しないってことか。」

「そうだ。
 だから――君に、次の役目を与える。」

白の光が強くなる。
御堂の姿がゆっくりと崩れ、光粒となって空間に溶けていく。

「観測者は、終わらない。
 記録は君を通じて、また別の“時間”へ渡される。」

「……待ってくれ!
 それって――俺がまた、ループの中に入るってことか!?」

「いいや。」
御堂の声が遠ざかる。
「これは“再起動”ではない。
 “継承”だ。君が見る次の光――それが、新しい世界の零点だ。」

白が、音もなく砕け散った。
悠はハッと息を吸い込み、現実に戻る。

手の中のRECON-25は、完全に沈黙していた。
しかしその表面には、新しい文字列が刻まれていた。

[RECON-26/Human Horizon Protocol]
[観測権限:転移中/承認者:御堂理久]

悠は小さく笑った。
「……あんた、本当に人が悪いな。」

窓の外では、雲がゆっくりと流れている。
陽光が塔のガラスに反射し、街を金色に染め上げていく。
25時の終わりに生まれた、新しい朝。

悠は端末を胸に抱き、低く呟いた。
「観測を……続けよう。
 いつか、この時間が“誰かの未来”になるその日まで。」

彼の背後で、静かに鐘の音が鳴った。
それはもう25時ではない。
26時目の世界が始まる音だった。

――そして、物語は次の観測者へ引き継がれていく。
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