【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

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「うーん……!」書庫は重厚な扉を構えていてフォルテナは全身を使ってそれを開けた。
中にはたくさんの本棚が並んでいてフォルテナは嬉しくなった。
「図書館みたい」
フォルテナはキレイにカテゴリーこどに分けられた棚を眺めると娯楽小説がありそうな場所を探す。
「あったわ!」
フォルテナが本を選んでいると後ろでバサバサと本が落ちる音がして振り返る。そこには驚いた顔の男性が立っていて足元には本が山のように乱雑に積み上がっていた。

「お……「落ち着いて!大丈夫……大丈夫なのよ……」フォルテナは怯える男性を手で制すると自分は無害であることをアピールした。
「私、旦那様から許可をいただいてこの場におりますので」フォルテナはえっへんと胸を張った。
「誰と会っても……?」
「……?ええ」多分特に駄目だとは言われていないから大丈夫よね?

「そ、そうでございましたか!驚きました奥様。しかし二人きりと言うわけにはいきませんので……他の者を呼んでも?」
「勿論いいわ」
フォルテナがにっこり笑うと男性はニコニコと笑っている。



「奥様は何がお好きですか?」
「奥様こちらなんかどうですか?」
「奥様、本は私どもがお持ちしますゆえ」
「奥様、高いところは取りますのでお申し付けください」


フォルテナは至れり尽くせりすぎてなんだか驚いた。
次々とやってきた使用人が跪いてフォルテナのために働いてくれるのだ。
「皆さんありがとう」
次にいつ許可がいただけるかわからないし……フォルテナは十冊程本を選ぼうと思った。
扉がバンッと壁に当たる音がしたので「どうしたのかしら……?」とフォルテナは手を止めた。
途端に周りの方々も静まり返る……

え?なに?どうしたの……

フォルテナが思わず本棚の陰に隠れると息を切らせたクロードがやってきた。フォルテナは本棚の隙間からそれを見る。
……なんだろう……怖いわ。

クロードは無言で使用人たちの前に立つと彼らは口々に「どうなさいましたか?旦那様」と言っている。なんだか空気が重い……フォルテナは意を決して本棚の陰から飛び出すと「旦那様!もしかして来てくださったのですか!?」と大げさな声を出した。多分絶対違うけど……怒りの矛先を曖昧にしたかった。

あんなにみんな私のために尽くしてくれた……
私も女主人としてその忠誠にお返しをしなければ!


一体何に怒っていらっしゃるのかはわかりませんが……使用人は悪くありませんよ。と
クロードは驚いたようにフォルテナを見ると目を丸くしている。
フォルテナはクロードに抱きつくと使用人に(私のことはいいから、あなたたちは行きなさい……)と目配せをした。

使用人たちはコクリと頷くとそっと書庫から出て行った。
ちょっと大胆だったかしら……とフォルテナがクロードから離れようとするとクロードはフォルテナをギュッと抱きしめ返してきたのでフォルテナはその胸をさり気なく押し「私、まだ本が選べてなくて……」とクロードを見上げた。気を使わせてしまったかしら……

クロードは口をパクパクさせると胸ポケットから手帳を出してペンを走らせている。そこには『一緒に』と書かれていた。
書庫だから話さないようにしているのかしら……そう思ったフォルテナはペンを借りてその横に
『本を一緒に選んでくれるんですか?ありがとうございます』と書いた。

「これも面白そう……」
フォルテナはパラパラとページを流し読みすると本をパタリと閉じた。それを手で抱えているとクロードがヒョイとフォルテナの持つ本をとった。
「あ……」フォルテナがそちらを見るとクロードは頭をポリポリと掻きながら本を胸に抱いている。フォルテナは持ってくれると言うことね。とクロードは紳士的だと思った。

「ありがとうございます」





「大丈夫ですか?すみません……」

フォルテナは十冊の予定が二十冊程本を選んでしまったのでは……と思う。積み重なった本のせいでクロードの顔が見えなくなってしまったからだ。

「…………」
怒っているのかクロードは無言で歩き出した。
「あ、あの!持ちます……」フォルテナは後ろからそう声を掛けるがクロードは止まってくれない。
慌てて前に出ると扉を開けた。
「うーー……」
クロードはその後も無言でのしのしとフォルテナの部屋まで行き、テーブルの上に本をドサリと置いた。

「ありがとうございます。すみませんでした……」
フォルテナは欲望の赴くままに本を選出したのをとてもとても反省していた。クロードは胸ポケットから手帳を出すと『また行きましょう』と書いた。

「え?は、はい」
また書庫に行ってもいいと言うことよね?嬉しいわ。

フォルテナはクロードを見送ろうと扉まで着いて行く。
クロードは扉を開けながらフォルテナを振り返ると手を引いたのでフォルテナも部屋の外に飛び出してしまった。「……あの……」
「…………」
クロードは無言で胸ポケットから手帳を出すとペンを走らせて『庭に行きませんか?』と書いた。
フォルテナはなんで筆談なんだろう……と思ったけれど人に聞かれたくないのかもしれない。とペンを借りて『行きます』とその隣に書いた。

クロードは手を差し出してきたのでそこにフォルテナは手をそっと乗せる。私をエスコートしてくれるなんて、本当に旦那様はとても紳士的ね。

廊下をこうして旦那様と歩く時がくるなんて……フォルテナは感動してしまった。
窓から差し込む光がキラキラと空気を輝かせている。
一言も会話もなく二人の歩く音だけが響く。コツリ、コツリ……フォルテナは気付いていた。
だいぶクロードの方が身長が高く、歩幅が違うのだけれどフォルテナの歩幅に合わせてゆっくりとクロードは歩いてくれている。

(私たち、仲良くはなれなかったけど……ハーネットが言っていた通り旦那様はとても優しくて親切な方なのかもしれないわ。私でなければ仲良く楽しくやっていけたのかもしれない)

フォルテナは俯くと申し訳なく思った。

自分ばかり幸せになってしまって……


階段を降りてホールから渡り廊下を行くと庭に着く。
その間もクロードはフォルテナの様子を伺ってくれているのか時折視線を感じたけれどフォルテナはその目を見ることはできなかったので気付かないふりをして俯いたまま歩いた。

サクッ……と芝の感触が足の裏に心地よい。

「お庭……素敵ですね」

フォルテナはあたかも初めて来たかのように装うとそう呟いた。
庭に以前脱走した時に会った庭師がいてフォルテナに気付くと目を泳がせているので(あなたと私は初対面、あなたと私は初対面……)と念を送る。
今までエスコートしてくれていたクロードが急にギュッと腰を抱き寄せてきたのでフォルテナは驚いて身を固くした。
……なにかしら!
これはなにかしら!

フォルテナは少し動揺したので深呼吸を繰り返した。

そうすると心が鎮まってきて少し冷静になった。もしかすると私が知らないだけで庭を歩く時はこうするルールなのかも……フォルテナはそう納得すると身体の緊張を解く。
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