【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

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ハーネット

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「私クロード様と結婚するのよ。クロード様はこれから私を迎えにくるの!」
またハーネットの虚言が始まった。
周りの使用人はそう思った。
「はははは!ハーネット?いくらクロード様が二男坊だとしても……私たちのような使用人となんて結婚はしないだろうさ」
一人のベテラン使用人がケラケラと笑った。
ハーネットは昔から事あるごとに「クロードに告白された」だの「クロードにプレゼントをもらった」だの……嘘ばかりつくのだから。
ベテラン使用人たちはハーネットを相手にしていなかった。
あの時までは

「クロード様がこちらにお戻りになる?」
「そう、ご両親とお兄様が事故で……」ベテラン使用人はメイソンの言葉に愕然とした。
ハーネットの言葉が真実味を帯びてきたからだ。

それは偶然だったのだが……

「ほら!見なさいな!クロード様はやっぱり私を迎えに来てくれた!」ハーネットはくるくるその場で回るとぴたりと動きを止め「私が女主人になったら……あなたたちの辞職は受け付けない。死ぬまでこき使うから」ハーネットは些細なミスでネチネチと言ってくるベテランに嫌気がさしていた。
実際は適正な注意と指示だったがプライドの高いハーネットにはそれがいじめられているように感じていたのだ。

使用人たちは「まさか……」と思いながらも万が一ハーネットの下で働くことになっては堪らないと一斉に辞職届を提出し、逃げるように退職した。みんなもう少しで退職する年齢だったこともあり、紹介状を受け取る時間さえ取らず退職した。


「ハーネット、おめえなぜ女がお前以外辞めたか知ってんのか?なんでお前だけ残った?」ハーネットはある時リネンを運んでいると料理長にそう凄まれた。「知りません」本当に嫌な奴だ。
ハーネットはこの口うるさい老害に心の中でそう毒づいた。
女主人になったら真っ先にコイツは解雇してやる……

そんなの……クロードと私を二人っきりにしたくて神様がくれたプレゼントでしょ?だって今までおばさんたちが横取りしていたから私全然クロードに会う仕事ができなかったんだから…!

「メイソンが頭を抱えてたぞ!お前何か企んでるんじゃないだろうな……」
太い腕を壁に付けて行く手を阻んできた料理長を睨みつけると「……セクハラで訴えますよ」とハーネットは凄んだ。
料理長は慌ててハーネットから離れると舌打ちをして調理場に戻って行く。

うるさいゴリラ野郎!

ハーネットはイライラと廊下を歩く。

私とクロードは結ばれる運命なのよ。
だって昔から知っているんだから!
クロード……私のためにまた戻ってきてくれるなんて!ありがとう……やっぱり愛してる!

久しぶりに屋敷へ戻ってきたクロードは任務で酷い目に合い話せなくなってしまったそうだ。失声症はストレスから来るもののようだけど……私がそのストレスを癒やしてあげればきっとすぐにクロードは声を取り戻すわ!
それに蜘蛛が怖くて……だなんてクロードらしくてかわいらしいわね。ハーネットはクスクスと笑い声を漏らした。

そんな事ぐらい気にならないわ。
声が出なくても私はクロードを愛してるから!


それなのに……

「あなたハーネット?よろしくね。……年が近い女性がいて嬉しいわ」このあざとい女がクロードと結婚!?こんな結婚クロードが望んでいるわけないわ!
お兄様が亡くなったから仕方がなく結んだ婚姻よ!
気の毒なお貴族奥様。愛されていないのに気付かず呑気にして。


『プレゼントを渡したい』
クロードが小さな箱を持ってハーネットに手帳を見せてきた。

「奥様に直接ですか?無理だと思いますよ」クロードも徐々にあの女の術にハマってきているのかやけに気にしているようだ。
世間体など気にせず私を愛していると言ってしまえばいいのに……


『なぜ?』
「奥様は営み以外で旦那様とお会いしたくないとおっしゃってますから」ハーネットは嘘をついた。
実際に言われたことはない。でもあのあざとい女ならそう思っていてもおかしくないだろうと常々思っていた。

気付いて!
お願い!あの女は魔女よ!
今はあの女の身体に溺れているだけ……そうよ!心は私にあるって……何度も目で伝えてくれたわ……


『ではこれだけでも渡したい』
「……無理矢理そんなことを?嫌われてしまいますよ?」
ハーネットはクロードのしつこさに呆れてしまった。
私と少しでも長く話していたいのはわかるがもうその話はいいだろう……と思った。
それに私と話す口実にされている奥様がかわいそうじゃない?と


ハーネットは「私が渡しておいてあげますよ。早く渡したいんでしょう?」と言った。
クロードが話をやめるきっかけを作ってあげたのだ。


『ありがとう』

ハーネットはその小さい箱を自分の部屋まで持って行くとそっと開けた。クロードの想い人は自分なのだから開ける権利がある。

『俺はあなたと結婚できて嬉しい。仲良くしていきたい』

中に入った手紙を見てハーネットはにたりと笑った。
これはやはり私に贈られた物だわ。
だってあの女とクロードは強制された結婚だからこのような感情はないのよ。しかし私とは結婚したいと思っているものね。
わかったわ。クロード、私あなたのこといつまでも待つわ。

ハーネットはその指輪をギュッと自分に嵌めた。
少しキツかったが我慢した。
クロードったら指輪を買うなら相談して欲しかったなぁ。
私にも好みがあるんだからね?


「ふふふ…キレイ」


私なんかがこんなに愛されていいのかしら?
こんな使用人が
奥様を差し置いて

指輪はすぐあの女に見つかって物欲しそうにされてしまった。
本当に愛を知らない女は卑しいものだ。
念の為外しておくことにした。
クロードとの大切な愛の証しをあの女に奪われてはたまらない。
きっと権力を振りかざしてくるわ。あの女にはそれしかないもの。かわいそうに……権力なんて所詮そんなもので人の心は動かせやしないのに……

使用人たちが「あまり奥様と話すな」とコソコソ言い合ってるのをこの前聞いた。あの女の外出に私が着いて行って私がクロード以外に見初められるのを防ぐためよね?言わなくてもわかる。だから私できるだけあの女を外に出さないように努力してるからね?

……私ったら本当にクロードに愛されてる!
幼なじみだもんね?
たった二人っきり……



ハーネットは笑った。

幸せだと笑った。


ハーネットはその時まだ知らなかった。
今まで見たこともない程に恐ろしい顔をしたクロードが自分のことを警護に「地下へ閉じ込めておけ」と命令する未来が訪れることに。



薄暗くカビ臭い地下室で床にしゃがみ込みハーネットは爪を噛んでいた。自分は世界のヒロインだからこうした苦境に立たされるのだ。と
いつかクロードが自分の過ちに気付き、ハーネットを救い出してくれる。だから少しの辛抱だ……と
ガチャリ……と重い扉が開いて愛しい王子様がやってきた。
「クロード!」
ハーネットは思わず名を呼んだ。
すると彼は眉を顰めて「……クロード?無礼だな」と低い声で唸るように言った。
「……クロード……?」ハーネットは彼の声が戻ったことに気付き呆然とした。なぜ?なぜ?なぜ?どうして?話せるように?
「お前に俺の名前を呼ぶ権利はない」
クロードはそう吐き捨てるように言うと隣に立つ警護に「裁判所に送れ」と命を出した。
「ク……クロード!クロード!!目を覚まして!!私よ!?ハーネットよ!!ねえ!!」
ハーネットは柵に身を当てるように縋り付くと扉の向こうに消えていく背中に声を掛け続けた。警護が柵越しに呆然としたハーネットの腕を縛り上げるとガチャリと牢の鍵を開けた。

「うそよ…」

ハーネットはうわ言のようにそう繰り返すともうクロードとの未来は絶対にあり得ないのだと今、悟った。


「…………」

警護はそんなハーネットの背中を冷たい目でただ、見つめていた。
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