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ダストシティ
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しおりを挟む私は困惑して、暫く何も言えなかった。
少女も何も言わず、口を開けてポカンとした表情でこちらを見上げている。
何となく、気まずい沈黙がお互いの間に流れ始める。
遠くで、男が大きなくしゃみをする音が響いて、私は慌てて我に帰った。
口を開こうとして、目の前の少女を見た瞬間、私の視界が急激に霞んだ。
ノイズのようなものが走り、サラの姿が、その先に見えた。
首を振り、もう一度少女の事を見る。そして、努めて柔らかい声音で、語りかけるような口調を意識して、聞いた。
「こんにちは。君は、ここの子供かな? お父さんかお母さんは、いる?」
少女は何も言わず、まだポカンと口を開けたままだったが、やがて大きな瞳をこちらに向けたまま、小さく答えた。
「お父さんもお母さんも、私いないの」
「そうか。じゃあ、誰か大人の人はいない?」
少女は私から目を離そうとはしない。澄んだ海のような青い瞳。
「大人の人は、バアバがいる。バアバが、私に店番頼んでる」
「そうか。……バアバは、いつ帰ってくる? 分かるかな?」
「ヴェロニカさんでしょう?」
面食らって、出来合いの微笑みが一瞬崩れかける。
だが私は持ち直して、自分では優しいと思っている微笑みを続け、言った。
「名前、知ってるんだ。どうして?」
少女は少しも動揺した様子を見せず、瞬きもせずに私の事を眼前に見据え続けたまま、口だけを動かして、言う。
「さっき、オッグから電話があったから。ヴェロニカって人が来るから、テイチョーにお迎えしろって」
……そうならそうと先に言っておけよ、あいつ……。
私は心の中でオッグに恨み言をぶつけ、それから言う。
「……じゃあ、えっと……。とりあえず、私はお客さんってことにしてもらえるのかな? 中に入っても?」
「あ、バアバ」
瞬間、不穏な気配を背後に感じて、私は反射的に飛び退いて、腰に手をまわした。
だが、気配はそんな私をまるで相手にせず、するりと私の傍に立った。
頭髪が綺麗に白く染まった老婆だった。腰は曲がってはいるが、杖もつかず、しっかりと自分の足で立っている。
紫色のローブのような物を着て、片手には膨らんだ袋をぶら下げている。
私は少し距離を取り、それから腰から手を下ろした。
老婆が私の方を見据え、それから少女に目を戻した。
「お客様を立ちっぱなしにさせては駄目だよ。サラ。さあ、二人共、中に入るんだよ。その邪魔な機械も一緒にね。
それとサラ、お茶を入れてくれないかい? 三人分ね」
「分かった」
サラ、と老婆に呼ばれた少女は、老婆にそう言われると、扉を開きっぱなしにして、飛ぶように奥へと消えていった。
私はその後ろ姿を無言で見つめていた。
老婆がこちらを見据える気配がしたが、私は振り向くことができなかった。
「さあ、あんたもだよ、ヴェロニカさん。さっさとその重そうな機械を上げておくれ。あんまり餌を見せびらかすもんじゃないよ」
そう言うと、老婆は私を残して、中に入っていく。
私は暫く、動くことができなかった。
老婆に言われるまで、私はまだ、部屋の奥で忙しく動いている少女から視線を外せないでいた。
少女の髪は桃色だった。
首を振って、嫌な気配を振り払う。
……ただの、偶然だ。
私は通りに戻り、機体のハンドルに手をかけた。
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