備忘世界の運搬屋

星兎

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ダストシティ

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 貧民窟のあるエリアに降りていくにつれ、気のせいか、嗅ぐ空気の中に埃っぽさが増していく気がする。

 どこかいがらっぽい空気を吸いながら、私は通り過ぎては振り返る住民達の視線を無視し、淡々とした調子で歩いて行った。

 気分は非常に重かった。

 何故かといえば、単純に貧民窟にある宿に泊まりたくないからだ。

 いくらオッグの口利きとはいえ、宿があるのは貧民窟だ。ならずものや薬物中毒者、ひったくり、強姦、強盗、挙げればキリが無いほど倫理的に崩れている場所だ。

 そんな場所にある宿で落ち着いて、安心して過ごせと? 馬鹿を言う。

 知らず独り言を呟いていたのか、通り過ぎる子供が悲鳴を上げて傍を走り抜けていった。

 頭の中の地図をもう一度確認する。

 道は意外と入り組んでいる。露店街を通る必要はないが、機体を押したまま小道を幾つも抜けなければならない。

 私は不快な気分を溜息で誤魔化しながら、体と機体を押し進めていく。

 小道に入ると、廃材を組み合わせたような家々が両側に聳え立ち、そこに出来た小さな窓から、複数の生き物の視線を感じた。

 私が見上げると、すかさず窓にボロ布のカーテンが引かれ、何も見えなくなる。だがその奥に、小動物が息を潜めて伺うような気配は確かに感じられた。

 私は顔を前に戻し、ひたすら頭の中のルートを履行する事だけを考え、歩き続けた。



 幾つかの路地のような道を曲がると、目的の場所が先に見えてきた。

 店看板のようなものはない、と一瞬思ったが、近付いてみると、蝙蝠を模った小さな丸い板金が上の方にぶら下がっていた。

 私はとりあえず、店に出来るだけ近付けて機体を置き、扉の前に立つ。

 懐から例の会員証を取り出して、ノックをした。

 ノックをしても、暫く何も聞こえてこない。

 突風が吹き、冷たい風が頬にぶつかり、蔑むように通り過ぎていく。

 私は少し苛ついて、もう一度、今度は強めに扉を叩いた。人差し指のノックではなく、拳で。

 機体を置いて中で話ができないのが本当に難儀だった。ほんの少しでも放置すれば、後部座席の荷物どころか、機体ごと盗まれてしまうだろう。

 私は息を吐き、待つ。

 すると、奥の方から、「はあい!」という甲高い声が聞こえてきた。

 店主だろうか。私は少し扉から離れて、また暫く待つ。

 奥から、歩幅の狭い小さな足音が段々と近づいてき、漸くか、と私はホッとしかけた。

 扉を開けて出てきたのが、大人の人間であれば、一時的でも、本当にホッとできた筈だ。

 扉を開けて出てきたのが、幼い表情を浮かべた、少女でなければ。

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