ゲームの世界はどこいった?

水場奨

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番外編

10話 グレンという個体

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『血の契約無(し)に契約が成(立す)るとは、恐るべ(き魔)力量だな』

目が覚めるとマグマナムの言葉が少しだけわかるようになっていた。
マグマナムの大きさもヒナよりは大きくて鳩くらいになっている。
ん?契約って?

「つまり、どういうこと?」
『我が(オース)ティンに真名(を与)えたのだ』
へ?
「あー、なるほど。マグマナムと俺の契約が成ったってことか」
『如何にも』
えっ?!
オースティン、マグマナムと契約したの?
あ、だから魔力が抜けまくってたわけかー。僕もセイ達と契約した時めっちゃ魔力抜けたわ。
よかった、そういう理由だってわかって。なんかの病気だったらどうしようかと心配したもんな。

まあ、マグマナムがオースティンと契約すること自体はゲーム通りっていうか。
オースティンを主にして話を進めるかダンスリーを主にして進めるかで、どっちと契約することになるかが変わることはあるけど、これは世界的には有りなんだろう。

ん?
「でも僕にもマグマナムの言葉が少しだけわかるのは何でだろうね」
契約したのはオースティンなのに。

『オース(ティンを)通して純度の高(いナロ)ーエの魔力も得(たから)だろう。前例のないことで確(かな理)由かはわからぬが』
『オースティンが主人ナローエの眷属っていうのも関係あるかもシャ』
砂の嵐みたいなノイズでちょっと聞き取れなかったら、龍達が補足してくれたことで大まかを理解した。
なるほど。
確かに僕がオースティンにしたみたいに人が人を眷属にすることなんて今までなかっただろうし、今回の事象は精霊にとっても未知の領域なんだな。

『これ(で我)が龍の道に入る(こと)ができたのならば、光珠洞の権利(を書)き換えるこ(とが)可能だ。そうすれば卵は運び(出し放)題だぞ』
「光珠洞の権利を書き換えるとは?」
『そのま(まの意)味よ。我は契約主のお(かげで)グレンよりも高位の存在とな(った。あ)の裏切り者を我らは認め(ない)』
「グレンってあの火焔鳥のことかな?あの火焔鳥が、マグマナムの裏切り者って……?」
さらっとすごいこと聞いた気がするんですけど?
オースティンの顔も引き攣っている。
僕ら、なんかすごいことを聞かされてる気がするけど、帝国のことですら立ち入りたくないのに、火焔鳥達の間のことなんてもっと嫌に決まってる。

「グレンてすっごく大きい気がするけど、マグマナムの方が高位になるのか?」
マグマナムはあの火焔鳥と比べてそこまで大きくない。
『主の伴(侶は)我の変体を見ておら(んかっ)たのか?グレン(より)大きくなった後、さらに進化したのだ。血の契約では進化す(ること)は難しい』
僕らが必死で魔力をやり取りしてる間に、マグマナムも身体の変容で忙しかったってことか。
まあ戦闘漫画とかで、第2形態より第3形態の方がスリムになることはあるもんな。

『しかし主、光珠洞の卵よりも先に救いたい同胞がいる。それを優先してもよいか?』
「あ、あぁ。それはもちろんいいが」
なんていうかさすが火焔鳥。
聞きたいことはたくさんあるのに、こっちの困惑とか関係なくどんどん話が進んでいってるね!


(sideオースティン)

帝国で割と自由を許されている俺達だが、接待かんしする人の目からナローエがいなくなることは良くないだろうと、マグマナムと卵を探しに行くのは俺だけで向かうこととなった。
その間、ナローエは学者達と交流を試みる。

『主人、ここを通り抜けるのにちょっと時間がかかるシュ。待っててシュ』
「結界でもある場所だったか?」
『んー、国境だから仕方ないシャね』
は?
影の道を進むとどういう原理だかわからないが物理的な距離が縮まるのだ。
だが、あっという間に国境だったとは。
ん、待てよ。ということは、卵は帝国外にもあるんだな。

影の道を進むと時々ぶち当たるのがこうして誰かが施した結界だ。
普通ならぶつかれば龍達も入らないのだが、今日は通らざるを得ない場所に卵があるんだろう。龍達は魔力の消費を極力抑える活動をしているのだ。
しかし、ナローエの持つ力よりも低位でできている結界なら通ることができるとは聞いていたが、実際に目にするのは初めてのことだ。
ナローエの凄さを目にすると、誇らしさと焦燥が湧いてくる。
これほどの人を伴侶に据えている己を卑下する感情がないわけではない。けれども誰にもナローエを譲れない以上、その隣に有れるよう心根を正しく持つことだけは忘れてならない。
それが俺の矜持だ。

影の道が極端に狭まったところで通り抜けるために必要な魔力を足していると、ようやく道が開いた。
そこからさらに歩いたところで、先に飛んで進んでいたマグマナムが上方に足を引っ掛け頭を出した。
しばらくすると俺の元に飛んでくる。

『主、目的のモノは見つかったのだが数が多い。しかも既に完全に黒化していて仮死状態だ。あれが白化すると粉となって舞い、二度と再生できぬ』
仲間の状態を目の当たりにしてか、マグマナムの声に焦りが混じっている。

『ひとまず1個持ち帰るシュ。道は開いたまま残しておけるシュから』
『一度に全てを運び全滅などということが起きるよりは、時間はかかっても確実な方法を模索するべきか』
『そうシャ。うーん、契約してないモノを道に入れるには、魔力の近い火焔鳥がその身で覆うしかないシャね。まずはやってみるシャ』
『む、心得た』
『主人はどうするシュ?一緒に場所を見に出るシュ?』
「いや、やめておこう。どうやらここは建物の中のようだし、誰かに見つかった場合、俺の身体はデカいから咄嗟に誤魔化せん」
『んじゃ我らだけで行ってくるシャ』

しばらくするとマグマナムがその翼に卵を包むようにして戻ってきた。
いつもルールドの背には半分ほどの大きさの相方アンジェが乗っているのだが、マグマナムに場所を譲り、マグマナムが転がりそうになる度に押し返すようにして横を飛びながら戻ってきた。

『主、卵を抱えると動けぬ』
「そのようだな」
少しの隙間も無いように卵を抱えるも、地に卵を置いて温めるのとは違って大変そうだ。
「マグマナムごと抱き抱えても良いか?」
『うむ』
マグマナムの許可を得て抱き抱えながら歩き出すと、アンジェはマグマナムの横に乗った。
ルールドはスーッとと飛び上がって俺の肩の上だ。
これは俺がいなかった場合、かなりの龍達の手がいるぞ?
少なくともルールドとアンジェだけでは無理だ。

「あと幾つくらいあったんだ?」
『まだ30ほどはあったな』
「そうか。よし帰るぞ」
これは全部回収するのは時間がかかるかもしれないなと走りながら思う。
ナローエの近くに俺がずっといないのもおかしいし、ナローエに相談して他の方法がみつかるといいが。

『卵、大丈夫そうシュ?』
5分ほど走ったところでルールドが思い出したかのように声をかけると、マグマナムは集中して抱えていたからか、ハッと顔を上げた。
顔を上げた隙間から卵が見えるとアンジェが覗き込んだ。
『わわわっ!ちょっと白くなり始めてるシャ!やっぱり異物って反応になってるシャ』
マジか!
国宝?世界宝?級の卵を死滅させるとかないだろ。
『せめて国境だけは越えないとアヴィンドに入れないシュよ!急ぐシュ!』
『主、国境を越えたら我は道から出る』
「わかった」
なるべく人目につかないことを願おう。



『主、これ以上はダメだ。同胞が消滅してしまう!』
「よし、出るぞ」
少し前に国境は越えたが、境付近は監視が強固なのはどの国でも同じことだ。
なるべくギリギリまで影の道を進みたかったが、ここまでか。

影の道を脱げ出すと、程よい木陰の広場だった。
『卵が白化してるシュ』
その言葉にマグマナムが項垂れている。
「確かナローエは癒しと治癒をかけていたな」
ナローエから持たされている魔道具ならある。
全てを諦めるのは思いつく限りをし尽くしてからだろう。
「試しにかけてみよう」
悲嘆に暮れていたマグマナムの顔が期待に輝いた。

『主は癒しをかけれるのか?』
「ナローエがな」
『主の伴侶は規格外だな』
本当にな。
精霊が人間を翻弄することはあっても、人間が精霊の命運を握るなんてことはないと思っていたよ。

ナローエの魔力の詰まった魔道具を作動すると、白くなっていた部分がわずかに黒く戻った。
『これで粉になって飛んでいくことは無くなったな。主、感謝する』
「ああ」
魔道具に続けて魔力を通してみたが、ナローエの魔力の時のように範囲は広がらない。
やはりナローエの魔力の質に秘密があるのだろう。
ここでモタつくよりはナローエに頼んだ方がいい。

「よし、帰るか。にしても皇城からは随分と離れてるみたいだが、どうやって帰るかなあ」
『ハクを呼ぶシャか?』
「それがいいか」
上空を行くか影の道を行くか、どちらにしてもハクに乗って移動した方が速い。
そうすれば人目にもつきにくいだろう。

『主人!誰かこっちに来るシュ』
息を潜める獣ならともかく、人間の気配に気づかないことはない。
俺が感知していないということはまだ距離はあるのだが、焦り過ぎではないか?

『はやく盗んできた卵を隠すシャ』
『だが影の道に入れるのは危険だぞ』
ははぁ、なるほど、精霊でも悪いことをしている気になることがあるんだな。
龍も火焔鳥も、人間相手には威圧的に押し通そうと思えばできそうだが。
こんな時なのに少し和んだ俺は、笑いながら影から鞄を取り出した。

「ここに入れよう。一応用意してきて良かったな」
こんなところではあるが、他国から呼び寄せた客人の鞄に入ったものを検めるなんてことは、まぁ起こらないと信じよう。

卵を鞄に入れて背負うとなんでもないように振る舞って、気配を感じる場所まで来た人物に視線を向けた。
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