イヤゲモノには礼状を ～ サレ妻の子どもたちは幸せな未来を選ぶ ～

第１章 イヤゲモノ

３人の生活

　凉江はすっぱり別れた。
　――だって、私は「道徳的な妻」ではなくて、「自分の子どもたちを守る母親」だから。

　以前から声をかけられていたスタートアップ企業に就職を決め、半分リモートで働ける環境を手に入れた。国家資格を持っているので、待遇はかなり良い。
　子育て支援が充実していて、実家と新幹線ですぐ行き来できる街に住む手配もした。

　今日はサテライトオフィスに出勤したが、週の大半は午後５時に学童へ迎えに行ける。　　

　近いので、透ならひとりで帰ることも可能だ。

　透は、出かけるとき忘れずに鍵を持ち、帰宅すると決まった場所にきちんと戻す。
　迎えに行けない日も、安心して任せられる。

　そういう振る舞いができない翔太には、ずいぶん悩まされたものだ。
　よく鍵や貴重品をなくしては、「どこいった？」と家中を探し回っていた。

　ひとつ下の優奈は、そういうおっちょこちょいなところが父に似ている。
　鍵を持たせるのはちょっと不安だ。
　でも、できるだけサポートしながら、少しずつ改善できるように、母娘で試行錯誤を続けている。

　凉江がそんな生活を実現できるとは、翔太も元義母も思っていなかったらしい。
　「女が子どもを抱えて働けるはずがない」と高をくくっていたのだろう。

　何かと難癖をつけてくる。
　さらに、養育費の支払いも遅らせる。これは難癖の一環なのか、本当にお金がないのかはわからない。

　もちろん、弁護士を通じてきっちり対処している。
　出費はかさむが、必要経費と割り切っている。

　***

　玄関のドアを開けて「ただいまぁ」と入る。
　先に帰っていた優奈が「お帰りなさい」と飛びついてくる。

　透は、凉江が手に持った箱を見て、渋い顔をした。

「お母さん、それ……またDVD？　あ、お帰りなさい」

「うん、また鈴木のおばあさまからのやつ」
「前の 、パソコンで再生できなかったよね？」