イヤゲモノには礼状を ~ サレ妻の子どもたちは幸せな未来を選ぶ ~

イチモンジ・ルル

文字の大きさ
4 / 18
第1章 イヤゲモノ

可哀想?

しおりを挟む
 専業主婦ではなくなった凉江が働き始めたから、子どもたちは保育園の小学生託児や学童クラブに通った。
 最初は「知らない場所で過ごすのが不安」と言っていた透だったが、だんだん馴染んでいった。
 特に学童でプログラミング講座に参加するようになってからは、すっかり楽しそうに通っている。

 それを知った翔太たちは「子どもを預けるなんて可哀想」と嘆いたが、凉江は「学ぶ楽しさを知ることのほうが大事」と思っている。

 今ではデジタル機器やプログラミングに驚くほど詳しくなり、凉江よりも高度な知識を身につけつつある。

「ちょっと試してみる?」

 透はラップトップにDVDドライブを接続し、ディスクを挿入した。

 ——フリーズ。

「ダメだ、今回もMPEG-2の古いやつ。今のパソコンじゃ再生できないかも」

 優奈がDVDと一緒に入っていた冊子をめくる。

「……あれ、この絵本、なんか嫌な匂いがする」

 たしかに、どこか古びたにおいがする。
 ページをめくると、「おうちのなかのたいせつなやくめ」と書かれたページがあった。

「……これって、いつの時代の話?」

 透が冊子を手に取り、苦笑する。優奈も横から覗き込み、首をかしげた。

「うーん……なんか、お母さんが家にいるのが当たり前みたいな書き方?」
「そういうお家もあるってことじゃない?」
「うわぁ……」

 透が露骨に顔をしかめた。

「うちみたいにパパが会社辞めてずっと家にいたのは、どうなんだろう」
「透、あの頃4歳でしょ? そんなことまで覚えてるの?」
「テレビで気持ち悪い物を見ていて、居間リビングに入れなかった。あの頃から本を読むようになったよ」

 凉江は軽く流しながら、心の中でため息をついた。
 子どもはよく覚えている。油断は禁物だ。気持ちの悪い物……ホラー映画とかならまだ良いが。

「これ、絶対パパは中身を見てないでしょ?」
「いや、おばあさまも見てないよ、きっと」
「贈ったら贈りっぱなしだからね」

 3人は黙って顔を見合わせて笑った。

「まあまあ、一応、お礼は言っておこうか」

 ——いらないものを送りつけてくる人に限って、お礼の言葉を期待するのよね。

 凉江は箱の一番下に、分厚い封筒が入っているのを見つけた。
 それはもちろん、紙幣などではない。おそらく前回と同じ復縁希望の手紙だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...