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第1章 イヤゲモノ
可哀想?
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専業主婦ではなくなった凉江が働き始めたから、子どもたちは保育園の小学生託児や学童クラブに通った。
最初は「知らない場所で過ごすのが不安」と言っていた透だったが、だんだん馴染んでいった。
特に学童でプログラミング講座に参加するようになってからは、すっかり楽しそうに通っている。
それを知った翔太たちは「子どもを預けるなんて可哀想」と嘆いたが、凉江は「学ぶ楽しさを知ることのほうが大事」と思っている。
今ではデジタル機器やプログラミングに驚くほど詳しくなり、凉江よりも高度な知識を身につけつつある。
「ちょっと試してみる?」
透はラップトップにDVDドライブを接続し、ディスクを挿入した。
——フリーズ。
「ダメだ、今回もMPEG-2の古いやつ。今のパソコンじゃ再生できないかも」
優奈がDVDと一緒に入っていた冊子をめくる。
「……あれ、この絵本、なんか嫌な匂いがする」
たしかに、どこか古びたにおいがする。
ページをめくると、「おうちのなかのたいせつなやくめ」と書かれたページがあった。
「……これって、いつの時代の話?」
透が冊子を手に取り、苦笑する。優奈も横から覗き込み、首をかしげた。
「うーん……なんか、お母さんが家にいるのが当たり前みたいな書き方?」
「そういうお家もあるってことじゃない?」
「うわぁ……」
透が露骨に顔をしかめた。
「うちみたいにパパが会社辞めてずっと家にいたのは、どうなんだろう」
「透、あの頃4歳でしょ? そんなことまで覚えてるの?」
「テレビで気持ち悪い物を見ていて、居間に入れなかった。あの頃から本を読むようになったよ」
凉江は軽く流しながら、心の中でため息をついた。
子どもはよく覚えている。油断は禁物だ。気持ちの悪い物……ホラー映画とかならまだ良いが。
「これ、絶対パパは中身を見てないでしょ?」
「いや、おばあさまも見てないよ、きっと」
「贈ったら贈りっぱなしだからね」
3人は黙って顔を見合わせて笑った。
「まあまあ、一応、お礼は言っておこうか」
——いらないものを送りつけてくる人に限って、お礼の言葉を期待するのよね。
凉江は箱の一番下に、分厚い封筒が入っているのを見つけた。
それはもちろん、紙幣などではない。おそらく前回と同じ復縁希望の手紙だ。
最初は「知らない場所で過ごすのが不安」と言っていた透だったが、だんだん馴染んでいった。
特に学童でプログラミング講座に参加するようになってからは、すっかり楽しそうに通っている。
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今ではデジタル機器やプログラミングに驚くほど詳しくなり、凉江よりも高度な知識を身につけつつある。
「ちょっと試してみる?」
透はラップトップにDVDドライブを接続し、ディスクを挿入した。
——フリーズ。
「ダメだ、今回もMPEG-2の古いやつ。今のパソコンじゃ再生できないかも」
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「……あれ、この絵本、なんか嫌な匂いがする」
たしかに、どこか古びたにおいがする。
ページをめくると、「おうちのなかのたいせつなやくめ」と書かれたページがあった。
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「うーん……なんか、お母さんが家にいるのが当たり前みたいな書き方?」
「そういうお家もあるってことじゃない?」
「うわぁ……」
透が露骨に顔をしかめた。
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